豪州帰りの「えりー」日記

メルボルンでの学生ワーホリ経験をシニカルに慎ましくご紹介。その経験を映像業界で活かしたり殺したりな趣味ブログ。

曜変天目の空きコマ的な

2019-05-27 00:00:00 | 日記
私はさんさんと降りしきる雨に濡れないよう、黒い傘をさして駅へと向かう。改札を抜けていつものように駅のホームに立つ。ひんやりとした空気が頬をそっと撫でて、たたんだ傘の先から滴る雨水がアスファルトに円を作る。そこかしこに見つかる水玉模様、それはいつの間にか消えて行く刹那、それはまるでシャボン玉のように。
雨はいつもと違う日常を私に与えてくれます。記録的猛暑が連日続いたこの令和元年5月最終週に不意に訪れた天の恵み。何だかちょっぴり嬉しくなった「えりー」です、今回は文学チックな導入を魅せていきます。

今回のタイトルは「曜変天目の空きコマ的な」。これは私の傾倒する小説家恩田陸さんの推理短編集「象と耳鳴り」の短編「曜変天目の夜」のオマージュです。奈良国立博物館での特別展「藤田美術館展」に行って国宝である曜変天目茶碗を観てきました。


撮影不可でしたのでこの写真で曜変天目茶碗のイメージを掴んでください(※実物はこれほど大きくありません)

① いきさつ

恐らく半年前以内に読んだ短編集「象と耳鳴り」で1番印象に残ったのが「曜変天目の夜」でした。内容はともかく、その曜変天目茶碗の描写がとても幻想的で妙に惹かれるものがあったのを覚えています。
そして時は流れ奈良市内でその特別展開催の知らせをたまたま目にします。ポスターに映る浮世離れした模様と色彩、これはどこかで見たことがあるような、ええと、ようてんもくなんとかだっけ?

あ、これはあの「象と耳鳴り」のやつだ!

自己解決した瞬間すぐに「ぜひ観てみたい」という欲求がどこからか湧いてきました。むしろこのような運命的な導きに背くことなど考えられなかったのです。

② 曜変天目茶碗を観てきた

「観に行くぞ」と言っても「いつ観に行くのか」。これは誘って一緒に行けるような人間が居ない私にとって大きな課題でした(一緒に行っても良い方連絡下さい!この特別展は6月9日までです!)そもそもゆっくりのんびり観たいタイプなので目当てのある拝観は独りで行きたいのです(矛盾)そして「いつ観に行くのか」の答えが雨の降りしきる本日でした。

5月末必着の手書きエントリーシートを郵便局に届けるついでに奈良国立博物館へと向かいました。私の友人が就活関係で不在であったためにぽっかりと空いた90分程度の空きコマの有効活用です。一緒に駄弁る友人は不在、就活関係の書類は落ち着き、卒業論文は方向性が固まり、外は歩くのに適した気候。偶然が生み出した、何1つすべきことの無い空きコマ。まさしく「曜変天目の空きコマ」なのです。

幸運なことに私の通う大学は経済状況著しく心配な外観をしている割にはキャンパスメンバー制度という福利厚生のようなものに加入しており、入館料が400円という驚きの安さでした。国宝が、完全なものが世界に3つしかないという、その製法は未だに謎が多いとされている、曜変天目茶碗がたったの400円で拝見できる。これはまさしく僥倖です。

③ 感想

最前で茶碗を観ることが出来るという列に並んで10分。雨中の平日でありながらもそこそこの人でした。曜変天目に関する説明の掲示を眺めながらその特別展へ足を踏み入れます。謎に満ちた曜変天目茶碗。恩田陸さんが描いた幻想的な茶碗。

そこには凝縮された銀河がありました。満天の星空を茶碗で深く深くすくい上げたような模様と色彩が私を宇宙の夢へと誘います。少し蒼い漆黒を破る細かな輝きと滲み出すように光る不規則な楕円が光に照らされて、様々な角度から異なる宇宙を切り取って私に魅せてくれます。美しい。とても美しい。人間の手で生み出されたとは全く想像できない奇跡がそこにありました。

もう少し長い時間眺めて居たかったのですがもう1度列に並ばなければ観ることが出来ず、また部活の時間が迫っていたので残りの常設展を異様な速足で駆け抜けて、博物館を後にしました。空きコマに曜変天目茶碗を観に行くという「曜変天目の空きコマ」。恐らく日本中の大学生でこんな空きコマの使い方をしているのは私だけではないでしょうか?それは少し買被り過ぎかもしれませんね。しかし就職活動中という私を売り出す時期に居る以上、このくらい特別感を抱いても悪くはないでしょう。
今度実家に帰ったら「象と耳鳴り」をもう1度読むことにしようかな、もちろん「曜変天目の空きコマ」に、ね。
それでは!


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