今回の福島原子力発電所事故によって、我々日本に住む人々は、放射性物質のばらまきが大変な事態を引き起こすことを実感した。撒き散らされた放射性物質が原子炉内に存在する量の数%程度であったことが不幸中の幸いで、これがもしその10倍であれば、日本全体が壊滅的な被害を受けていたであろう。災害時の放射性物質のばらまきを防止するには、原子炉内の核反応を即座に停止することと加熱し続ける核燃料の冷却を継続する必要がある。
メディアがこの教訓を身にしみて感じているかどうか疑いを持ちたくなるようなニュースが昨日流された。
一つは、報道ステーションの核燃料サイクルに関する特集である。我が国が計画する核燃料サイクルとは、通常の原子力発電所の使用済み核燃料を再処理し、作り出したプルトニウムを含む燃料をナトリウム冷却高速増殖炉で使用しようというものである。核燃料の有効利用には核燃料サイクルが必要であるが、ナトリウム冷却高速増殖炉は地震国日本になじまない(9/16参照)。災害時に冷却材ナトリウムが漏えいしていると、冷却用の水と反応して大爆発を起こすからである。これは、現存する原型炉「もんじゅ」だけの問題ではない。この計画が成功すると、いくつかのナトリウム冷却高速増殖炉が国内に建設されるであろう。そのいずれかで直下型地震が起こったら、我が国は壊滅的な被害を受けるであろう。今年の原子力白書には、燃料再処理や高速増殖炉の記述が消えているという。メディアも現在の核燃料サイクル計画の中止を訴えるべきであろう。地震国に見合った核燃料サイクルを我が国で開発する必要もあろう(8/15参照)。
もう一つは、朝日新聞に載っていた原子力安全委員会の安全設計審査指針の記事である。その内容は、3月末に出された緊急安全対策の内容とほぼ同じである。この指針では、洪水や津波で非常用電源が水没することを容認している。安全委員会は、各原子炉ごとに代替電源の設置を要求しているが、その詳細については記述がない。3月の緊急安全対策として、玄海や泊原子力発電所などで設置されている代替電源は、電源車である。災害時に電源車が正常に機能する保証がない。朝日新聞の記事では、従来代替電源の記述がなかったのと比較して、今回の変更を評価している。
しばしば報道されているように、経済産業省も電力会社も出来るだけ速やかに原子力発電所の運転を再開しようとしている。メディアはやらせ問題の詳細よりはむしろ、安全対策の内容を正確に把握し報道してほしい。今回の事故を教訓にすると、非常用電源が災害の影響を受けがたい場所に設置されていることと、それに固定式代替電源が付加されていることが運転開始の第一条件ではなかろうか。
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