2017年のNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」の放送を前に、主人公井伊直虎ゆかりの地とされる浜松市と浜松商工会議所(同市)が、「直虎」の商標を登録している須坂市と浜松市の業者の登録を取り消すよう、特許庁に異議を申し立てたことが19日、分かった。ただ須坂市の業者は江戸時代の第13代須坂藩主、堀直虎(1836〜68年)にあやかって「直虎」を登録しており、異議申し立てに困惑している。
井伊直虎は、戦国時代の遠江(現在の静岡県西部)の小領主で、女性だったとされる。浜松商議所は「家康・直虎新商品開発プロジェクト」と銘打ち、企業に菓子などの関連商品開発を働き掛けているところだ。浜松市などは8月、「直虎の文字は、戦国時代を強く生き抜いた歴史上の女性として一般に広く知られる井伊直虎を表すもの」とし、特許庁に異議を申し立てた。市観光・シティプロモーション課は、一般的に「偉人の名前を独占するべきではない」とする。
一方、堀直虎は若くして須坂藩主となって藩政改革を進めた名君とされる。17年が没後150年目に当たり、須坂市などの実行委員会が舞台などの催しを企画している。「直虎」の商標を取得した市内のみそ、しょうゆ製造販売会社「糀屋(こうじや)本藤醸造舗」の本藤浩史社長(56)は、節目の年に「直虎」と名付けたみその販売を考え、今年4月にみそや調味料などで商標が登録された。
本藤社長の出願は、「おんな城主直虎」の放送が発表された後の昨年12月だが、長野県ゆかりの大河ドラマ「真田丸」の放送を目前に控えており、「その次の大河ドラマに意識は向かなかった」とする。井伊直虎自体も「全く知らなかった」という。特許庁は09年、歴史上の人物をフルネームで使ったり、フルネームでなくても「家康」など一部でも個人が特定されたりする場合、商標登録を認めないとする指針をまとめた。
ただ直虎の場合、井伊直虎や堀直虎、政治家の鍋島直虎(1856〜1925年)など、複数の歴史上の人物が該当し、同庁は「特定の個人を示さない」(商標課)として、今回の「直虎」の登録を認めたという。異議申し立てを受けた浜松市の業者は、菓子やパン、弁当など複数の種目で「直虎」の商標を取得している。法定の異議申し立て期間(公報から2カ月)を超えた「直虎」を使った商標も複数ある。
登録された商標を他の事業者が使って商品を売った場合、商標権の侵害に当たるとして、製造販売の差し止めや損害賠償などが請求される可能性がある。同庁によると、異議申し立ての審査は平均約8カ月という。来年の大河ドラマが知財の面からも興味がわく。