浜松市ゆかりの女性城主・井伊直虎が主人公のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の放送開始を前に、「直虎」の商標を巡って、市と浜松商工会議所が特許庁に異議申し立てをしている。市内外の二事業者が、昨年八月の放送決定後に「直虎」を商標登録しており、土産品の製造販売などが制限されているからだ。「特定の人だけが独占するのは公共の利益に反する」と市などは登録の取り消しを求めるが、疑問の声も。「直虎」は一体誰のもの?
「井伊直虎のことはまったく知らなかった」。みそや調味料などの分野で「直虎」の商標を昨年十二月に出願し、今年四月に登録した長野県内の会社。突然異議申し立ての書類が届き、社長の男性は戸惑いを感じている。来年は須坂藩十三代藩主・堀直虎の没後百五十周年。直虎の名を冠したみそ造りを進めているところだ。男性は「堀直虎公は地元の英雄で、まちおこしのつもりでやってきたのに」と驚きを隠さない。
浜松市内のデザイン企画会社も四月に、茶や餃子(ギョーザ)、弁当など食品の幅広い範囲で「直虎」を登録した。その狙いを担当者は「直虎まんじゅうや直虎せんべいが何種類も出てきて混乱しないようにしたかった」と語る。商品の名称を管理するとともに、地元事業者の「直虎」使用料を安く設定し、その収入で食品以外の分野でも利用できるよう出願する予定だったという。
七月末に両社の登録を知った市の担当者は「がくぜんとした」という。商議所と連名で、八月五日には異議申立書を特許庁に提出。審理には約一年かかるとされるが、「一日でも早く認めてほしい」と、九月十四日には早急に審議するよう上申書も出した。
市は異議が認められれば、「誰も『直虎』を登録できなくなり、多くの人が自由に使えるようになる」と説明する。これに対し、デザイン企画会社の担当者は「全国のメーカーが直虎の入った商品を作り、逆に地域振興が妨げられるのでは」と危機感を抱く。
市によると、異議申し立ては、浜松が直虎による地域おこしに取り組んでいるにもかかわらず、登録を認めた特許庁に対して行ったもので、二社に向けたものではないという。知的財産戦略に詳しい静岡大の林正浩教授(54)=経営学=は「まちおこしの一環として市が地域産業の後押しをしたいというのは理解できる」と話す一方、「異議申し立てには税金が投入されており、市民の多くが望んでいることなのだろうか」と指摘している。
「直虎」を使えないことによる思わぬ効果も。浜松商議所によると、当初は混乱もあったが、ネーミングを工夫して結果的に商品作りにプラスになった事業者も多いという。直虎ゆかりの「井の国」(浜松市北区引佐町)が桜の名所として知られることにちなみ、「直虎」ではなく桜を商品名に使ったり、井伊家菩提(ぼだい)寺の龍潭寺(りょうたんじ)を商品名につけたりすることで、直虎ブームが去っても対応できるようにしたケースがある。
商議所の担当者は「ふたを開けてみれば『やらまいか精神』で、ピンチをチャンスに変えられた」と話す。これは業者と自治体の争い。あなたはどう思いますか?