「……それは少しおかしいのでは?
もともと一つで在ることの虚無から抜け出す為に万物が生成したということだったのでは?
なのになぜまた一に還ろうとするのでしょうか?」
"理性" がそう疑問を投げかける。
肚は静かに言った。
「もっともな質問だ。だが、一が一のままで在ることと、万物が統合されて一となることでは内容が全く違う。」
「どう違うのです!」
今度は知性が問う。
肚は少し、目を閉じー やがて遠くを見つめる様にして薄く半眼を開きながらその問いに答えた。
「 …… "無限の虚" が、"永遠なる実(じつ)" に変わる!
無限と永遠は似て非なるモノであることを知るべし。」
「そして無限が永遠に変わったとき、全ては救われる!
全ての "始まり" から繋げられてきた願いは達成される!」
「!」
「……………。」
そのー 、肚の言葉の響きはその場のモノどもを暫くの間包んだ。
実際は一瞬のことであったのかもしれない。
しかし、その瞬間は不思議なほどに長く、密度の濃い時間だった。
それに合わせる様に、琴の音がその最終章を奏であげている。
皆、気が付くとその音色に聞き入って陶酔していた。
やがて…最後の音が止んだ。
その響きの余韻の中、またあの不思議な質の声が聞こえてくる。
「…アア ヨキカナ。セイオン ト タイワ ト… ケダシ ココニ イタレルカ。
…スデニ コロアイ モ ヨシ。」
「ワレラハ… コレヲモッテ… タイサン イタス…。」
いつの間にか十六夜の月は西の山の端に沈まんとしている。
東の空は白み始めていた…。
「おお!ついに夜も明けるか…。ワシもそろそろ戻らねばならんな。」
淵明がつぶやいた…。
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