読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

宮崎駿監督「崖の上のポニョ」

2008-09-08 23:57:01 | 映画
 「崖の上のポニョ」公式サイト 
夏休みに中3の息子と見に行ったら、座席は超満員だった。しかも半分くらいは小学生以下の子たちだったので息子が「この映画って、もしかしてチビッ子向けなのか?」と居心地悪そうにしていた。いやいや、大人が見ても十分楽しめる奥の深い作品だったよ。帰ってきたら無性にハムが食べたくなったので2、3日はハムたっぷりのサンドイッチや厚切りハムのせチキンラーメンばかり食べていて、だからこの映画には日本ハムとか日清食品が協賛するべきだと思った。

 みんなポニョがかわいいというけれども、私はかわいいのと怖いのと半々くらいだった。だってポニョのせいで津波が起こって町が水没してしまったのだ。被害総額何千億円だろう。あそこがたとえば鞆だとしたら福山市内のどのあたりまで水がくるだろうか。きっとお城の北側や東側の山を除いてみんな床下浸水してしまうだろう。そんなことより、人工衛星が次々に墜落して、月が地球の引力に引かれて接近しつつあるのだ。地球存亡の危機ではないか。それを心配しておろおろしているのがポニョの父親である藤本だけだというのがおかしい。私が一番おもしろいと思ったのがこの藤本さんだ。

 この人は人間の世界に愛想を尽かして、苦労の末めでたく魔法使いになれたという興味深い経歴の持ち主だ。ポニョが「ハム~!」と言うと「何、ハム?あんな危険なものを!」と目を剥く。大丈夫、リサさんは抜かりなさそうだからきっと生協の発色剤・保存料・人工調味料無添加のハムだったと思うよ。

 彼はなんだか怪しげな「命の水」みたいなものを精製している。それがポニョのせいであふれ出てしまったら、見たこともないような太古の海中生物が泳ぐ海に変わってしまう。きっと汚染された陸上の世界に見切りをつけて海中を甦らせようとしていたのだろう。すごい技術だ。なのにポニョは「ポニョ、閉じ込めた。悪い魔法使い」と言う。ああ、子供のことを案じてやったことがまるで理解されないのだ。

 そこで私は宮崎吾朗監督の「ゲド戦記」を思い出す。試写会の時に宮崎駿監督が途中でロビーに出てきて、不機嫌な顔で「見ていられない」「私は父親として見てるんですよ」とおっしゃったのをテレビの「『ゲド戦記』製作記」みたいな番組で見た記憶がある。あっ、そうか、「ゲド戦記」は「世界の均衡が崩れて」虚無がはびこり、息子が父を殺すのだ。「ポニョ」の方は子供が世界の均衡を壊してしまって、父があたふたと走りまわる話なのだ。子供のためを思って、追いかければ追いかけるほど子供は父親を憎んで逃げ回る。

 その点、母親はおおらかなもんだ。「あの子の自由にさせましょう」という。「でも、もし受け入れられなかったらポニョは泡になってしまうじゃないか」とあわてる藤本さんに「あら、私たちはもともと海の泡から生まれてきたのよ」なんて軽く言う。きっとこのグランマンマーレは、月が地球に激突して人類が滅びてしまっても「あら、私たち生き物はみんなもともとは海の泡から生まれてきたのよ。もう一度最初からやり直せばいいじゃないの」なんて言うのだろう。そう言われればそうなんだよなあ、と私はひとりで想像して納得してしまっていた。だけども、世界が水没してしまったら、私はとてもサバイバルできそうにないし、第一泳げないから最初に溺れ死ぬに違いない。

 今年は集中豪雨が多かったからなんだか映画の水没シーンをたびたび思い出してしまった。

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