読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

映画「イーグル・アイ」

2008-11-15 05:21:44 | 映画
 アメリカ映画を見ていると、映画のストーリーとは別に、ささいな一シーンでびっくりすることがある。たとえば「ブラックサイト」のサイバー犯罪取り締まりの素早さ。あるいはJ・ボーンシリーズでのエシュロン。あんなふうにメールや携帯の音声を国家機関に盗聴され、特定の言葉を拾い上げられていたらと思うとぞっとする。「テロ」とか「アホのブッシュ」くらい誰でも言いそうじゃないか。
 
 「ボーン」は、そのような権限を持つ機関の内部に、それを悪用する機密性の高い殺人組織ができてしまったら・・・という怖さだったが、「イーグル・アイ」は、人間ではなくシステム自体が意思を持って暴走してしまったらどうなるかという話で、こちらの方が怖かった。私たちは普段、「監視は嫌だけど、テロや犯罪を防止するためだったら仕方ないんじゃないの」と漠然と思っている。政治家や治安関係者もきっと「個人のプライバシーよりも国家の安全の方が優先する」と思っているに違いない。だけど、テロ防止のための監視システムが非常に賢くて、『テロが頻発する現在の状況を引き起こしたのは、私の警告を無視して身元の曖昧な容疑者をミサイルで村ごと吹っ飛ばす決定を下した大統領以下の現政権であって、テロを根絶するためには現政権を排除しなくてはならない』と判断したら・・・。

 ネタバレ!
 アメリカでは合衆国憲法で「武装する権利」が認められている。それは何も猟銃を所持して鴨や鹿を撃ち殺す権利が保障されているってことではなくて、政府が人民を虐げる圧政を行った場合には民兵を組織して政府軍と戦ってもよいってことを言っているのだ。その憲法の修正条項を盾に取って軍の巨大コンピュータシステムが、テロの最大の脅威と見なした現大統領以下の閣僚をみんな殺してしまおうと目論む。携帯、ファックス、無人のクレーンや信号、電光掲示板、空港の荷物検査装置などありとあらゆるデジタル制御機器を思うがままに動かして人を誘導し、殺人を実行させるのだ。「これはマズイ!」と思っただろうか、政治家の皆さんは。

 だけども、私はふと「これ、必ずしも間違ってないんじゃないの?」と思った。イラクだけでいったい何人の犠牲者が出たことか。そしてテロの激化で世界中でどれだけの犠牲者が出ていることか。テロの根源は憎悪の連鎖を発生させる「テロとの戦い」そのものにあるに違いない。かくも緻密なシステムがあって、そのシステムが「やめとけ」と言っているのに警告を無視して葬儀の真っ最中の人々を吹っ飛ばすような大統領には死んでもらった方がいいと思う。

 もちろん善良な主人公はそのようには考えないので、必死に体を張って暗殺を阻止しようとする。そしてよくある結末だけども「私たちは安全を保とうとして逆に大きなリスクを負った。」「けれども、このシステムを廃止することは考えていない。」となるのだ。
 すべての情報が一か所に集積されるようなシステムがあるってことがいかに怖いか、そして、いくらよくできたテロ対策システムでもそれを運営する者がアホだったら却って危険性が増してしまうとか、システムが原則を貫徹した結果人間の方が殺される可能性もあるとか、そういうことをわからせてくれる映画だった。

 それからこの映画を観ながら思い出していたのは、オバマ氏が大統領に当選したと決まった日のことだった。私はテレビを見ながら子供に、「アメリカはね、他に選択肢がないんだよ。」と言った。マケインだろうと誰だろうと共和党候補が引き続き大統領になったとしたら、世界中が落胆してアメリカを見放していただろうから。「それでね、あとはオバマさんが殺されないように守らなきゃいけないの。殺したら、元々大統領にならなかったときよりもひどいことになるの。」と言ったのだった。なんて危ない橋だろう。だけど他に選択肢はない。考えてみるがいい。他の候補者は、みんなこのシステムに暗殺されそうな人ばかりじゃないか。

 うーん、いくつかの映画評で「2001年宇宙の旅」の影響が指摘されているけども、たとえば「このままいくと地球は環境破壊で滅びてしまうから、人間を皆殺しにして地球を生かす」という発想もありうるな。
 それって地球が静止する日の予告に出てきたっけ。まだ公開されてないけど。

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