読書と追憶

主に読んだ本の備忘録です。

「シリアナ」つづき

2008-09-27 22:36:20 | 映画
 今度こそほんとに「シリアナ」

 これは夏ごろ観たDVDで、2005年の映画だ。ジョージ・クルーニーが翌年のアカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞している。しかしよくまあ、こんなわかりにくい筋立ての映画がアメリカで作れたものだと思った。主役級の実力派俳優(ジョージ・クルーニー、マット・デーモン。ジェフリー・ライト)、存在感あふれる大物役者(クリス・クーパー、ウイリアム・ハート、クリストファー・プラマー)らが次から次へと出てくる贅沢さ。しかも3つのストーリーが同時並列的に進行していて、だれが主人公だかわからない。見ているときには、いったい今何が起こっているのかもよくわからない。だれも明快な解説をしてくれない。不親切だ。そして、最初に出てきたCIA工作員ボブ(ジョージ・クルーニー)は、最後ミサイルで吹っ飛ばされて死んでしまうのだ。それはないだろう!
 このわかりにくさは、わざとそうしたのかと疑っていたらやはりそうだった。この映画の元になったのは元CIA工作員が実際の体験を書いた本だ。
 元CIA工作員ロバート・ベアが語る映画『シリアナ』の真実(月刊PLAYBOY 2006年3月号)

 簡潔にいうとこういうことだ。シリアナという(架空の)中東の国がある。石油を産出して莫大な利益を得ているが、その利益のほとんどを王族が独占しており、国民には還元されていない。他に産業らしい産業もなく、国民は貧しく失業率も高い。首長の長男ナシール王子はスイスのエネルギーアナリスト(マット・デイモン)と知り合い、社会改革の必要性を吹き込まれる。そこで天然ガスの採掘権を中国企業に発注し、また政治の民主化を進めようとするのだがそれは一族との軋轢を生む。そしてそのことはそれまで採掘権を一手に握っていたアメリカの石油メジャーにとっても都合の悪いことであったので、彼らはナシールを排し、現状維持派の弟を王位継承者として擁立しようと働きかける。CIA工作員ボブはナシール王子の暗殺を命じられるが失敗する。自分の受けた指令に疑問を持ったボブはどこからその指示が出ているのかを探り始める。そして、石油産業と政治家との癒着、正義とはほど遠い利権のための暗殺という真実を知り、ショックを受ける。彼はゲームの駒として動くことを拒否してナシール王子に警告しようとするが王子一家の車もろとも爆破されてしまう。

これでだいぶすっきりしてくる。

 エゴむき出しのアメリカの中東政策ってものがよくわかるじゃないか。映画でCLI(イラン自由化委員会)なるものが出てくる。「中東の女性たちは虐げられている。」などと言ってイランの民主化を推進しようとしているらしいが、実際にはメンバーは石油産業で利益を得ている政財界の大物ばかりだ。ボブが会議で腹を立て、「アメリカのやり方に民衆の反発が高まっていて非常に危険な状況だ」と報告しても「そんなはずはない」と一蹴する。なぜアメリカがイラク戦争を起こしたか、なぜ9.11が起きたか、映像で見せられると「やっぱりそうだったのか」ってよくわかる。こんなアメリカのえげつなさを抉るような映画がよく作れたものだと思った。そして一流の俳優がこぞってこの映画に出たがったっていうことは、やっぱり「テロとの戦い」という欺瞞にみんな気づいているんだな。あー、少なくとも都市部のインテリ層は。

 問題は、CIAがこのような陰謀に利用され、どこから出ているかわからないような危険な指令を受けた工作員が誘拐や暗殺や拷問をしていて、それで世界が変わってしまっているということの恐ろしさだ。上記ロバート・ベアの本を読むとCIAがとんでもない組織だってことがよくわかる。そしてアメリカの標榜する正義とか民主主義って奴が実はアメリカの都合のよいように世界を利用するためのものに過ぎないってことも。

 だからアメリカは北朝鮮との交渉にあんまり熱心じゃないんだな。だって石油も天然資源も出ない貧乏な国だもん。テポドン飛ばしてもアメリカには届かないしね。じゃあどうするかって、やっぱり日本はアメリカへの依存度を徐々になくしていって、東アジア地域で経済や安全保障の協力体制を築いていくしかないんだろうけど、その目的への道のりは遠そうだなあ。

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