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電脳くおりあ

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■河野龍太郎著『日本経済の死角』を読んで

2025-04-30 21:21:40 | 政治・経済・社会
 河野龍太郎によれば、日本は、1998年と比較すると、生産性は30%上昇しているにもかかわらず、賃金は横ばいか下がっているという。アメリカは、50%以上生産性が上がり、賃金は実質で25%以上上昇し、ドイツやフランスは日本より生産性の上昇率が低いにもかかわらず、賃金は20%以上も上昇しているという。ここから、彼は、次のように言う。

<日本の問題は、生産性が低いから実質賃金を引き上げることができない、ということではないのです。生産性が上がっても、実質賃金が全く引き上げられていない、というのが真実です。それゆえ、筆者は、生産性をあげることの重要性は否定しないものの、喫緊の課題は所得再分配であると長く訴えてきました。家計が収奪されているから、日本経済は長期停滞が続いているのではないでしょうか。>(『日本経済の死角』p29)


 そして、ダロン・アセモグルとジェイムス・A・ロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか──権力・繁栄・貧困の起源』で次のように言っていると紹介しています。

<衰退する国家の制度は、収奪的(Extractive)であり、一部の社会エリートが富を独占します。繁栄する国家の制度は包摂的(Inclusive)であり、幅広い人々が政治プロセスに参加し、権力が分散されて、自由競争と技術革新が奨励され、豊かさを分かち合うといいます。>(『日本経済の死角』p30)


 日本企業は、戦後包摂的で高度経済成長を遂げてきていたのに、いつの間にか収奪的な社会に向かっているという。野口悠紀雄と河野龍太郎の違いは、結果的には同じ(イノベーションへの投資が必要だという点)になるのかもしれないが、河野が『成長の臨界』で明らかにした「日本の長期停滞の元凶が、儲かってもため込んで、賃上げにも人的資本投資にも消極的な日本企業、特に大企業ということでした」といっているところだ。日本の企業の利益剰余金は1990年代末に130兆円だったが、2023年度は600兆円の大台に乗っていると言われている。

 野口悠紀雄よれば、金融緩和と円安によって、自動車産業を中心とした日本の主たる輸出産業(過去の栄光である輸出大国日本の特質)は、何もしなくても、利益が上昇し、いずれも過去最高益を更新してきた。そして、技術革新への挑戦や新規企業の創出が余り起きなかった。それが、日本経済の停滞をつくりだしたという。

 日銀が、金融緩和を続け、2%のインフレを目指したのかについては、野口悠紀雄の説明より、河野龍太郎の説明のほうが分かりやすい。河野は、日銀には「安価な労働力の大量出現」と「残業規制にインパクト」の二つの誤算があったという。つまり、日銀の政策は、金融緩和とインフレによって、企業の投資活動が活発になるという想定の下の行われたわけだが、実際は、そうはならなかった。むしろ、企業は、コストカットのために、安価な主婦や高齢者の再雇用などの非正規雇用を増加して、賃金そのものはむしろ下がってしまった。その上、日本の若者の人口減のなか、残業規制により、正社員の残業が減ることにより、さらに人で不足が増加し、それが外国人や非正規雇用者の採用増になってしまったという。

<つまり、団塊世代が2012~2014年に65歳に達すれば、その退職によって、日本国中で深刻な労働力の不足が始まり、賃金上昇が進むため、異次元緩和による高圧経済戦略を取れば、2%インフレの早期達成につながると、日銀幹部は目論んでいたはずです。高圧経済(High Pressure Economy)とは、経済学者アーサー・オークンが1960年代に唱えた理論で、経済を強い需要にさらすことで資源の活用を促進し失業率を低下させる経済政策です。日本銀行はこれを、インフレを高めるために採用したのです。
 勝手な想像ですが、金融緩和による円安だけでは無理でも、人手不足に突入するから、2%のインフレの到達は思いのほか早く訪れるはずですと、就任直後の黒田総裁に日銀幹部が耳打ちする姿が見に浮かびます。
 しかし、結局、それが強く現れ始めるのは、10年後の2023年春以降であり、10年の先送りとなったのは、ここまでお話ししたように、労働市場に大きな構造変化が生じ、高齢者と女性(や外国人)という安価な労働力のプールが新たに出現したためでした。筆者は、2010年代半ば当時、日本銀行は高圧経済で風船を膨らませているつもりが、穴が開いて空気が抜け出している状態ではないかと、批判的に捉えていました。>(「同上」p138)


 ところで、私は、この本で、「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」という言葉があることを知った。

<念のため説明しておくと、日本の大企業の正社員を中心とする雇用制をメンバーシップ型と呼びます。日本の中小企業や非正社員、あるいは諸外国で企業規模や雇用形態を問わず広く採用されている雇用制をジョブ型と呼びます。海外の雇用制はジョブ型です。
 日本以外の国では、幹部層を除くと、会社に入る場合、決まった職種(ジョブ)に就きますが、日本の場合、大半の正社員の職種は決まっておらず、ローテーションの中で、さまざまな職種に就きます。ジョブ型では文字通り、就「職」なのですが、メンバーシップ型の場合は、就「社」となります。>(「同上」p200)


 この点については、河野は、メンバーシップ型からジョブ型に変えとは言っていない。それぞれによい点と問題点があり、それは、よく検討する必要があるという提案をしている。

 そうしたいろいろな問題を持った日本の企業の中で、イノベーションをどう起こせばよいかというのが、最終的な問題になるが、「収奪的」なイノベーションと「包摂的」なイノベーションがあるということは鋭い指摘だと思った。

<イノベーションの本質を考えるには、1万2000年前の農耕牧畜革命を振り返るのが良いかもしれません。農耕牧畜革命が始まった際、一人当たりの栄養摂取量で見ると、狩猟採集生活に比べて改善したわけではありません。むしろ悪化しました。
 それ以前の狩猟採取生活の下で、人類は1日数時間の労働を行い、比較的自由かつ平等な社会生活を営んでいました。数時間働いた後は、食べて飲んで、歌って踊って暮らしていたようです。
 農耕牧畜革命後、平均産出量も限界生産性も上昇しました。多くの人々は長時間、働かされることになりましたが、恩恵のほとんどは支配層が収奪し、栄養摂取量はむしろ低下して、生存ギリギリの状況が続きました。そうした状況は、近世が訪れるまで、ほとんどかわりませんでした。
 つまり、農耕牧畜革命という人類最初の画期的なイノベーションが起こった際も、結局、恩恵を享受したのは一部の支配層だけであって、多くの人は収奪され、むしろ貧しくなっていたのです。農耕牧畜生活は安定しているのだと集団の指導者に説得され、多少の安定性にからめとられて農耕生活を続けていると、抜け出せなくなり、気が付いてみれば、身分制度の底辺の組み込まれていたということでしょうか。
 もちろん、農耕牧畜革命後の支配層の誕生は、国家の誕生につながり、産出量を管理するために、文字が生まれ、度量衡の制度も生まれ、文明が発達しました。このようにテクノロジーと経済格差は、常に裏腹の関係にあるのです。>(「同上」p261・262)

 私たちは、現在AIの出現という新時代に突入している。この点については、河野は、次のように述べている。

<少子高齢化で人手不足が深刻化している日本では、AIやロボティクスがもたらす自動化や、事実上の低スキル移民を喜んで社会が受け入れています。しかし、移民を含めそれらのイノベーションは、これまで見てきたように、再び実質賃金を抑える要因になりかねません。目の前の利益と、目の前の人手不足にばかり関心を奪われて、そのままの形で無批判に受け入れると、とりわけ長期雇用制の枠外にいる人々を苦しめ、日本社会はますます貧しくなるばかりです。気が付けば、社会の分断が広がり、政治の液状化を進んでいた、ということになりかねません。
 まずは、生産性が上がらないから実質賃金を上げられないと繰り返すのを止めましょう。それは真実ではありません。また、イノベーションは本来、野性的で、収奪的でありますが、それを否定するのではなく、社会が飼いならすための包摂的な制度作りが必要です。>(「同上」p270・271)


 本当に、「飼いならす」ことができるのかどうか、現状を見ていると不安になる。しかし、問題提起としては、そのとおりだと思った。いずれにしても、いま、日本経済は、大きな曲がり角に差し掛かっていることだけは確かだ。

■テクノ封建制とは(ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』を読んで)

2025-04-11 15:24:45 | 政治・経済・社会
 ヤニス・バルファキスによれば、アップルやアマゾンなどがやっているのは、インターネット上に封土をつくり、一方でクラウド・プロレタリアートにリアル作業をやらせ(その場合も、AIなど最新のテクノリジーの技術を使い)、他方でそのクラウドにやってくる人々に好きなことをやらせ、そのデータを使って稼いだり、参加料または使用料をレントとして受け取っている。こちらは、一種の農奴であり、こうした全体的なシステムを「テクノ封建制」と呼んでいるようだ。そして、いわゆる資本主義を終わり、新しい時代に入ったと考えた方がよいという。

 この「テクノ封建制」のしくみについては、この本の「附記①テクノ封建制の政治経済学」で詳しく展開されている。この中では、「クラウド資本」とは何かについて次のように定義している。

<クラウド資本とは、ネットワークにつながった機械、ソフトウェア、AIが動かすアルゴリズム、通信ハードウェアの集合体であり、それが地球上に張り巡らされ、広い羽仁にまたがる新旧のさまざまなタスクを行っているものとして定義される。
 ・数十億もの人々(クラウド農奴)を動員し、クラウド資本を再生産させるために(しばしば無自覚のうちに)ただ働きさせる(たとえば、画像や動画をインスタグラムやTikTokに投稿したり、映画、レストラン、書籍のレビューを書き込んだりすること)。
 ・証明を消すのを手伝ってくれる一方で、書籍や映画や休日のおすすめを示す。私たちの興味と関心にぴったりと寄り添うことで私たちを信頼させ、クラウド封土、つまりプラットフォーム(アマゾン・ドットコムなど)で販売されているほかの商品も私たちが受け入れる用操作する。これらはいずれもまったく同じデジタル・ネットワーク上で稼働している。
 ・AIとビッグデータを活用して工場における労働者(クラウド・プロレタリアート)を管理し、同時にエネルギー網、ロボット、トラック、自動生産ライン、3Dプリンターを使って従来の製造過程を回避できるようにする。


 クラウド資本は、テクノストラクチャーが利用した二つの行動誘導業界を自動化し、機械のネットワークに組み入れた。これらの業界を人間主導のサービスではなくしてしまったのだ。テクノストラクチャーのもとで店舗や工場の現場管理者、広告会社、マーケティング会社によって行われていた仕事は、テクノ封建制のもとではクラウド資本に完全に組み込まれ、AIによるアルゴリズムによって行われるようになった。>(ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』より)


 そして、クラウド資本は、従来の資本が持っている二つの性質、①商品生産のために生産された手段(いわゆる生産手段)、②資本の非所有者から収奪する力を資本の所有者に与える社会的関係(いわゆる労働力を商品として売る自由しか持っていない人々の存在)の他に➂として「行動誘因と個別別命令のために生産された手段」を持っているところに特徴があるという。

<クラウド資本の第三の性質は、アルゴリズムによる三種類の行動誘導にまたがっている。ひとつめの行動誘因は、消費者にクラウド資本を再生産させること(つまり消費者をクラウド農奴の変える)。第二には賃金労働者に労働強化を命じること(労働者と雇用不安定層をクラウド・プロレタリアートに変える)。最後に市場をクラウド封土の変えること。ある意味で、クラウド資本の第三の性質は、その所有者(クラウド領主)にこれまでにない強力な力を与え、伝統的な資本主義部門から生み出される剰余価値をクラウド領主が吸い上げることを可能にした。>(同上)

 ここで、バルファキスは、労働を支配するために生産された手段が進化し、「クラウド・プロレタリアート」については、「クラウドベースのデバイスが労働過程(工場、倉庫、オフィス、コールセンターなど)に入り込み、これまで職場の生産性を上げ、剰余価値を引き出してきたテイラー主義的中間管理職に取って代わった。その結果、プロレタリアの立場はより不安定になり、クラウド資本によってさらに迅速化した仕事のペースに合わせなければならなくなる」という。
 また、同じ働きとして、「クラウド農奴」については、「企業に所属していない人々(非従業員)は、自発的にタダで長時間必死に働き、クラウド資本を再生産する。たとえば、画像や動画やレビューを投稿したり、クリック回数を上げたりして、デジタルプラットホームを他者にとってより魅力的なものにしている」という。

<歴史上はじめて、不払い労働によって資本が(再)生産されるようになった。クラウド資本のプラットフォームによって、仕事は簡単に労働市場の外に移動させることができるようになり、ゲームやギャンブルや宝くじに見せかけた経済の中に埋め込まれるようになった。>(同上)


 また、バルファキスによれば、アマゾン・ドットコムやアリババ・ドットコムのようなEコマースのプラットフォームは市場ではないという。それは、クラウド領主のアルゴリズムが、買い手も売り手も孤立させ、それぞれをほかの買い手からも売り手からも切り離すことに成功しているからだという。このため、クラウド領主のアルゴリズムは買い手と売り手をマッチングさせる独占力を持つことになり、分散化という市場が持つ本来の存在意義をなくしてしまうことになる。こうすることにより、クラウド領主は顧客とつながりたい売り手(伝統的な資本家)に莫大なレント(クラウド・レント)を請求できるようなるという。

<要するにクラウド資本の最大の功績は、AIのアルゴリズムが動かすデジタル・ネットワークを使って、クラウド領主に利潤をもたらすように労働者と消費者の行動を誘導して変えただけでなく、市場そのものを変え、そのデジタル・ネットワークに組み入れ、資本家階級全体を封臣にしてしまったことなどだ。>(同上)

<普遍的な搾取──資本家は従業員から搾取するだけだが、クラウド領主はあらゆる人から搾取することができる。すなわち、クラウド農奴はクラウド資本の蓄積を増やすために無償で働き、クラウド資本が増えるおかげで、クラウド領主は伝統的な資本家が従業員から収奪する剰余価値をますます多く横取りすることができる。企業の従業員はすでにクラウド・プロレタリアートになり下がっており、かれらの仕事は増えていくクラウド資本に指示され、仕事のペースを上げられて行く。>(同上)

 そして最終的には、テクノ封建制は「搾取の普遍化」であり「価値基盤の縮小」(全所得におけるクラウド・レントの割合が上がるにつれ、その分だけ価値基盤は縮小する)でもある。それゆえ、テクノ封建制はより大きな恐慌を頻繁に引き起こすことになる。だから、テクノ封建制は、資本主義よりもいっそう不安定で、破滅のループをめぐることを運命付けられているというのが、バルファキスの結論である。

 テクノロジーの進化とGAFAMなどの巨大テック企業によって、現在資本主義がどのように変容しているかについての説明は、とても身につまされるようによく分かる。だから、この本の解説をしている齋藤幸平が言うように、日本が割と技術発展に楽観的であることに、大きな警告にもなっている。そして、今、なぜ米中対立かという大きな問題への切り口にもなる。この本は、とても、興味深く、二度読み直した。

 しかし、クラウドのブラットフォームの巨大企業による独占を「封建制」というように呼ぶことは、おそらく間違っていると思う。それは、あくまでも資本主義の進化の結果であり、それゆえ、資本主義の矛盾も含んでいる。資本主義は、今や、消費市場そのものも資本主義的な生産過程の中に組み込みつつあるかのように見える。そして、それは、新しい帝国主義的な領土の獲得競争のようである。なぜ、格差がより広がり、中流階級が崩壊しつつあるのに、一部の富豪だけがより富を蓄積できるのかを私たちは、よくよく考えて見る必要がある。先進国の中央銀行は、金利を安くし、貨幣を増加させている。そのことによって、株価などは、過去最高値を更新している。封建制は、元来「利潤」など求めていないはずである。この点については、あらためて、考えて見たいと思う。

■トランプの関税と世界の動き

2025-04-07 15:29:36 | 政治・経済・社会
 そろそろ、「テクノ封建制」について書いてみようと思っていたが、そのために、ヤニス・バルファキスの『父が娘に語る経済の話。』を再読したり、最近発売されたヤニス・バルファキス著『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』(集英社/2025.2.26) を必死で読んでいる。私には、資本主義が終焉して、「テクノ封建制」に取って代わられたという話がまだ信じられない。

 一応、現在は世界経済がインフレ状況であり、企業の業績がそれほどいいわけでもないのに、金利がとても低く、やっと日本では、マイナス金利でなくなったが、株価などは異常に高騰している。金利がこんなに低いということは、資本主義社会が成長していないと言うことの表れでもある。にもかかわらず株価は上昇し、アメリカでは億万長者が増加している。そして、こうした中でアメリカに禁輸資本のビッグ3が登場した。

 アメリカの金融資本の「ビッグ3」とは、米国の資産運用業界で圧倒的な影響力を持つ3つの企業のことで、 ブラックロック(BlackRock)、バンガード(Vanguard)、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(State Street Global Advisors, SSGA)を指す。これらの企業は、インデックスファンドやETF(上場投資信託)を通じて、米国の大企業の株式を大量に保有しており、S&P500企業の90%以上で最大株主となっている。

 これらの企業の影響力は、単なる投資運用にとどまらず、企業の経営方針や市場の動向にも大きな影響を与えている。まさに、アメリカの金融資本を牛耳る存在だが、ヤニス・バルファキスによれば、これらが「クラウド資本」を提供して、「テクノ封建制」を支えていると言っている。そして、もちろん彼らは、利潤を上げているが、利潤を上げるよりも、支配することを主たる目的としているように見える。丁度、現在、その意味を考えているところだが、それらが資本主義をどのように変えているのかがどうも、今ひとつ、よく分からない。自分が、バカになってしまったような気がしているところだ。そんなとき、アメリカのトランプ大統領が、自国の経済を守るために関税を課すと発表し、世界中を驚かした。

 関税とは、国家が輸入品に課す税金のことで、主に以下の3つの目的で導入される。①国内産業の保護──海外からの安価な商品が流入すると、国内企業が競争に負ける可能性があるので、関税を課すことで、国内産業を守ること。②税収の確保──関税を通じて、政府は収入を得ることができる。これにより、公共サービスの充実やインフラ整備の資金源になる。➂貿易政策の調整──関税は外交政策の一環として使用される。他国との貿易交渉や経済的なバランスを調整する手段となる。

 今回のトランプの関税は、この3つを含んでいると思われるが、最大の目的は、➂でありアメリカの膨大な貿易赤字を改善し、アメリカの国内産業の育成を図ることのように思われる。つまり、アメリカは、今まで、赤字になってまで、世界の政治経済のために働いてきたが、今後は自国の経済のために働くというわけだ。

 アメリカはこの貿易不均衡による国内の産業破壊を回復するために、「相互関税」という概念を持ち込んで、今回の完全率を割り出している。「相互関税」とは、貿易相手国がアメリカ製品に課している関税や貿易障壁に応じて、アメリカも同じような関税を課す政策である。これは「レシプロカル・タリフ(Reciprocal Tariff)」とも呼ばれ、貿易の公平性を確保することが目的となっている。

 現在、トランプ政権は2025年4月にこの相互関税を導入し、世界各国からの輸入品に一律10%の関税を課したうえで、国ごとに異なる追加関税を設定した。例えば、日本には合計24%の関税が課されることになり、特に自動車産業への影響が懸念されている。この政策に対して、EUや中国などの貿易相手国は報復関税を検討しており、世界的な貿易摩擦の激化が懸念されているが、それは、アメリカ国内でも消費者物価の上昇や企業の負担増加が問題になってきている。

 こうした、アメリカの「相互関税」のあり方が今後どう動くのか、それが世界経済にどのように影響をあたえるのか、それと「テクノ封建制」とはどうつながるのか、これから時間がかかってもいいのでじっくり考えて行きたい。いま、新しい、経済戦争が起ころうとしていると思われる。日本は、どうしたらいいのか、考えどころだと思う。