ヤニス・バルファキスによれば、アップルやアマゾンなどがやっているのは、インターネット上に封土をつくり、一方でクラウド・プロレタリアートにリアル作業をやらせ(その場合も、AIなど最新のテクノリジーの技術を使い)、他方でそのクラウドにやってくる人々に好きなことをやらせ、そのデータを使って稼いだり、参加料または使用料をレントとして受け取っている。こちらは、一種の農奴であり、こうした全体的なシステムを「テクノ封建制」と呼んでいるようだ。そして、いわゆる資本主義を終わり、新しい時代に入ったと考えた方がよいという。
この「テクノ封建制」のしくみについては、この本の「附記①テクノ封建制の政治経済学」で詳しく展開されている。この中では、「クラウド資本」とは何かについて次のように定義している。
そして、クラウド資本は、従来の資本が持っている二つの性質、①商品生産のために生産された手段(いわゆる生産手段)、②資本の非所有者から収奪する力を資本の所有者に与える社会的関係(いわゆる労働力を商品として売る自由しか持っていない人々の存在)の他に➂として「行動誘因と個別別命令のために生産された手段」を持っているところに特徴があるという。
ここで、バルファキスは、労働を支配するために生産された手段が進化し、「クラウド・プロレタリアート」については、「クラウドベースのデバイスが労働過程(工場、倉庫、オフィス、コールセンターなど)に入り込み、これまで職場の生産性を上げ、剰余価値を引き出してきたテイラー主義的中間管理職に取って代わった。その結果、プロレタリアの立場はより不安定になり、クラウド資本によってさらに迅速化した仕事のペースに合わせなければならなくなる」という。
また、同じ働きとして、「クラウド農奴」については、「企業に所属していない人々(非従業員)は、自発的にタダで長時間必死に働き、クラウド資本を再生産する。たとえば、画像や動画やレビューを投稿したり、クリック回数を上げたりして、デジタルプラットホームを他者にとってより魅力的なものにしている」という。
また、バルファキスによれば、アマゾン・ドットコムやアリババ・ドットコムのようなEコマースのプラットフォームは市場ではないという。それは、クラウド領主のアルゴリズムが、買い手も売り手も孤立させ、それぞれをほかの買い手からも売り手からも切り離すことに成功しているからだという。このため、クラウド領主のアルゴリズムは買い手と売り手をマッチングさせる独占力を持つことになり、分散化という市場が持つ本来の存在意義をなくしてしまうことになる。こうすることにより、クラウド領主は顧客とつながりたい売り手(伝統的な資本家)に莫大なレント(クラウド・レント)を請求できるようなるという。
そして最終的には、テクノ封建制は「搾取の普遍化」であり「価値基盤の縮小」(全所得におけるクラウド・レントの割合が上がるにつれ、その分だけ価値基盤は縮小する)でもある。それゆえ、テクノ封建制はより大きな恐慌を頻繁に引き起こすことになる。だから、テクノ封建制は、資本主義よりもいっそう不安定で、破滅のループをめぐることを運命付けられているというのが、バルファキスの結論である。
テクノロジーの進化とGAFAMなどの巨大テック企業によって、現在資本主義がどのように変容しているかについての説明は、とても身につまされるようによく分かる。だから、この本の解説をしている齋藤幸平が言うように、日本が割と技術発展に楽観的であることに、大きな警告にもなっている。そして、今、なぜ米中対立かという大きな問題への切り口にもなる。この本は、とても、興味深く、二度読み直した。
しかし、クラウドのブラットフォームの巨大企業による独占を「封建制」というように呼ぶことは、おそらく間違っていると思う。それは、あくまでも資本主義の進化の結果であり、それゆえ、資本主義の矛盾も含んでいる。資本主義は、今や、消費市場そのものも資本主義的な生産過程の中に組み込みつつあるかのように見える。そして、それは、新しい帝国主義的な領土の獲得競争のようである。なぜ、格差がより広がり、中流階級が崩壊しつつあるのに、一部の富豪だけがより富を蓄積できるのかを私たちは、よくよく考えて見る必要がある。先進国の中央銀行は、金利を安くし、貨幣を増加させている。そのことによって、株価などは、過去最高値を更新している。封建制は、元来「利潤」など求めていないはずである。この点については、あらためて、考えて見たいと思う。
この「テクノ封建制」のしくみについては、この本の「附記①テクノ封建制の政治経済学」で詳しく展開されている。この中では、「クラウド資本」とは何かについて次のように定義している。
<クラウド資本とは、ネットワークにつながった機械、ソフトウェア、AIが動かすアルゴリズム、通信ハードウェアの集合体であり、それが地球上に張り巡らされ、広い羽仁にまたがる新旧のさまざまなタスクを行っているものとして定義される。
クラウド資本は、テクノストラクチャーが利用した二つの行動誘導業界を自動化し、機械のネットワークに組み入れた。これらの業界を人間主導のサービスではなくしてしまったのだ。テクノストラクチャーのもとで店舗や工場の現場管理者、広告会社、マーケティング会社によって行われていた仕事は、テクノ封建制のもとではクラウド資本に完全に組み込まれ、AIによるアルゴリズムによって行われるようになった。>(ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』より)
・数十億もの人々(クラウド農奴)を動員し、クラウド資本を再生産させるために(しばしば無自覚のうちに)ただ働きさせる(たとえば、画像や動画をインスタグラムやTikTokに投稿したり、映画、レストラン、書籍のレビューを書き込んだりすること)。
・証明を消すのを手伝ってくれる一方で、書籍や映画や休日のおすすめを示す。私たちの興味と関心にぴったりと寄り添うことで私たちを信頼させ、クラウド封土、つまりプラットフォーム(アマゾン・ドットコムなど)で販売されているほかの商品も私たちが受け入れる用操作する。これらはいずれもまったく同じデジタル・ネットワーク上で稼働している。
・AIとビッグデータを活用して工場における労働者(クラウド・プロレタリアート)を管理し、同時にエネルギー網、ロボット、トラック、自動生産ライン、3Dプリンターを使って従来の製造過程を回避できるようにする。
・証明を消すのを手伝ってくれる一方で、書籍や映画や休日のおすすめを示す。私たちの興味と関心にぴったりと寄り添うことで私たちを信頼させ、クラウド封土、つまりプラットフォーム(アマゾン・ドットコムなど)で販売されているほかの商品も私たちが受け入れる用操作する。これらはいずれもまったく同じデジタル・ネットワーク上で稼働している。
・AIとビッグデータを活用して工場における労働者(クラウド・プロレタリアート)を管理し、同時にエネルギー網、ロボット、トラック、自動生産ライン、3Dプリンターを使って従来の製造過程を回避できるようにする。
クラウド資本は、テクノストラクチャーが利用した二つの行動誘導業界を自動化し、機械のネットワークに組み入れた。これらの業界を人間主導のサービスではなくしてしまったのだ。テクノストラクチャーのもとで店舗や工場の現場管理者、広告会社、マーケティング会社によって行われていた仕事は、テクノ封建制のもとではクラウド資本に完全に組み込まれ、AIによるアルゴリズムによって行われるようになった。>(ヤニス・バルファキス著『テクノ封建制』より)
そして、クラウド資本は、従来の資本が持っている二つの性質、①商品生産のために生産された手段(いわゆる生産手段)、②資本の非所有者から収奪する力を資本の所有者に与える社会的関係(いわゆる労働力を商品として売る自由しか持っていない人々の存在)の他に➂として「行動誘因と個別別命令のために生産された手段」を持っているところに特徴があるという。
<クラウド資本の第三の性質は、アルゴリズムによる三種類の行動誘導にまたがっている。ひとつめの行動誘因は、消費者にクラウド資本を再生産させること(つまり消費者をクラウド農奴の変える)。第二には賃金労働者に労働強化を命じること(労働者と雇用不安定層をクラウド・プロレタリアートに変える)。最後に市場をクラウド封土の変えること。ある意味で、クラウド資本の第三の性質は、その所有者(クラウド領主)にこれまでにない強力な力を与え、伝統的な資本主義部門から生み出される剰余価値をクラウド領主が吸い上げることを可能にした。>(同上)
ここで、バルファキスは、労働を支配するために生産された手段が進化し、「クラウド・プロレタリアート」については、「クラウドベースのデバイスが労働過程(工場、倉庫、オフィス、コールセンターなど)に入り込み、これまで職場の生産性を上げ、剰余価値を引き出してきたテイラー主義的中間管理職に取って代わった。その結果、プロレタリアの立場はより不安定になり、クラウド資本によってさらに迅速化した仕事のペースに合わせなければならなくなる」という。
また、同じ働きとして、「クラウド農奴」については、「企業に所属していない人々(非従業員)は、自発的にタダで長時間必死に働き、クラウド資本を再生産する。たとえば、画像や動画やレビューを投稿したり、クリック回数を上げたりして、デジタルプラットホームを他者にとってより魅力的なものにしている」という。
<歴史上はじめて、不払い労働によって資本が(再)生産されるようになった。クラウド資本のプラットフォームによって、仕事は簡単に労働市場の外に移動させることができるようになり、ゲームやギャンブルや宝くじに見せかけた経済の中に埋め込まれるようになった。>(同上)
また、バルファキスによれば、アマゾン・ドットコムやアリババ・ドットコムのようなEコマースのプラットフォームは市場ではないという。それは、クラウド領主のアルゴリズムが、買い手も売り手も孤立させ、それぞれをほかの買い手からも売り手からも切り離すことに成功しているからだという。このため、クラウド領主のアルゴリズムは買い手と売り手をマッチングさせる独占力を持つことになり、分散化という市場が持つ本来の存在意義をなくしてしまうことになる。こうすることにより、クラウド領主は顧客とつながりたい売り手(伝統的な資本家)に莫大なレント(クラウド・レント)を請求できるようなるという。
<要するにクラウド資本の最大の功績は、AIのアルゴリズムが動かすデジタル・ネットワークを使って、クラウド領主に利潤をもたらすように労働者と消費者の行動を誘導して変えただけでなく、市場そのものを変え、そのデジタル・ネットワークに組み入れ、資本家階級全体を封臣にしてしまったことなどだ。>(同上)
<普遍的な搾取──資本家は従業員から搾取するだけだが、クラウド領主はあらゆる人から搾取することができる。すなわち、クラウド農奴はクラウド資本の蓄積を増やすために無償で働き、クラウド資本が増えるおかげで、クラウド領主は伝統的な資本家が従業員から収奪する剰余価値をますます多く横取りすることができる。企業の従業員はすでにクラウド・プロレタリアートになり下がっており、かれらの仕事は増えていくクラウド資本に指示され、仕事のペースを上げられて行く。>(同上)
そして最終的には、テクノ封建制は「搾取の普遍化」であり「価値基盤の縮小」(全所得におけるクラウド・レントの割合が上がるにつれ、その分だけ価値基盤は縮小する)でもある。それゆえ、テクノ封建制はより大きな恐慌を頻繁に引き起こすことになる。だから、テクノ封建制は、資本主義よりもいっそう不安定で、破滅のループをめぐることを運命付けられているというのが、バルファキスの結論である。
テクノロジーの進化とGAFAMなどの巨大テック企業によって、現在資本主義がどのように変容しているかについての説明は、とても身につまされるようによく分かる。だから、この本の解説をしている齋藤幸平が言うように、日本が割と技術発展に楽観的であることに、大きな警告にもなっている。そして、今、なぜ米中対立かという大きな問題への切り口にもなる。この本は、とても、興味深く、二度読み直した。
しかし、クラウドのブラットフォームの巨大企業による独占を「封建制」というように呼ぶことは、おそらく間違っていると思う。それは、あくまでも資本主義の進化の結果であり、それゆえ、資本主義の矛盾も含んでいる。資本主義は、今や、消費市場そのものも資本主義的な生産過程の中に組み込みつつあるかのように見える。そして、それは、新しい帝国主義的な領土の獲得競争のようである。なぜ、格差がより広がり、中流階級が崩壊しつつあるのに、一部の富豪だけがより富を蓄積できるのかを私たちは、よくよく考えて見る必要がある。先進国の中央銀行は、金利を安くし、貨幣を増加させている。そのことによって、株価などは、過去最高値を更新している。封建制は、元来「利潤」など求めていないはずである。この点については、あらためて、考えて見たいと思う。