電脳くおりあ

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9歳で成長が止まる子どもたち!

2004-09-14 09:12:01 | 子ども・教育
 明治大学文学部教授の三沢直子さんが『子どもたちはなぜ、9歳で成長が止まるのか』(実業之日本社刊)という本を書いた。サブタイトルに「日本の『男性社会』が子どもをだめにした!?」とある。なんだか、耳が痛そうな内容だ。

 三沢さんは、描画テストの結果を用いて、驚くべき結果を示した。それは、「9歳で成長が止まっている」という指摘だ。子どもだけでなく、大人に対しても言えるそうだ。三沢さんは、この描画テストを1981年にも行っており、1997年から99年にかけて小学生550人に行った描画テストと比較してそう結論づけている。

 描画テストというのは、「統合型HTP法」(Synthetic House-Tree-Person technique)という調査で、特に自分の感情を言葉で十分に表現できない子ども対して、「家と木と人を入れて1枚の絵を描く」ということを通して、子どもの内面を知る方法だ。描画テストの結果については、既に三沢さんによって、『描画テストに表れた子どもの心の危機』(誠信書房)という本にまとめられている。
……すでに小学校の高学年で止まった発達が、中学生や高校生になったときに、どうなっていくのか。何人かの中学・高校の先生たちに尋ねてみると、「今の中学生や高校生の精神年齢が、小学校3年レベルでとどまっているとするならば、彼らの言動がよくわかる」とほとんど同じ答えが返ってきた。つまり、中学生や高校生の精神年齢が小学3年生と同じレベルにとどまっている可能性も十分にある、ということなのだ。(『子どもたちはなぜ、9歳で成長が止まるのか』P54)
 小学校3年生というのは、いわゆる「ギャング・エイジ」といわれ、「大人の統制を受けないで、排他的な徒党集団を形成する、8歳から思春期ごろまでの時期」に相当することになる。これから、衝撃的な少年事件の多発の予想ができないことはないが、三沢さんによれば、描画テストに表れた絵の特徴として更に、6年生くらいの子どもの絵画構成が崩れて、「統合性」が低下していることを重視している。
……そのような傾向は、1980年前後には、中学生以降になってから見られるものだった。そういう意味では、総体的な心の発達は3年生レベルにとどまっていながら、不安定な思春期心性は小学校6年生ごろからはじまっていると言えるかも知れない。このことから、次のような結論が導かれる。
 現在の小学6年生は、かつての6年生ほど精神的な成長が見られないまま、思春期の性的な欲求や自己不確実感、第2反抗期などのさまざまな問題が始まる。その結果として、学級崩壊や少年犯罪と結びついているとも考えられるのだ。(同上・P57)
 このほかにも、「非現実的な描写」「実在感の希薄な棒人間」「『安全地帯』『慰安の場』としての役割を果たしていない『家』」「攻撃的・破壊的な絵」「バランスが崩れた極端な絵」などが増加しており、テレビ・ビデオ・ゲームの影響や、父親不在の家庭、早期教育や受験という心理的虐待の影響が大きいという。しかし、受験に追われていた頃は無表情だった子が、「父親の会社が倒産し、受験を断念せざるを得ない状況になると、急に表情が豊かになってきたとのことだ」と言われても、少し、困るが。

 私は、本当は9歳で成長が止まったのではないと思う。成長の仕方が変わったのだと思う。こういう点を検討するためには、もう少し前のデータがあるともっといいと思う。しかし、データの解釈の点では多少異議があるとしても、三沢さんが、なぜそうなったのかということと、ではどうしたらよいかについて語っていることはほぼ正しいと思う。そうなった要因として、「核家族、夫婦分業、母子カプセルの登場」ということが指摘されているし、これらの問題が新しい家族のあり方と結びついている以上、それを変える必要があることになる。
……今は当然だと思われている”夫婦分業”だが、1960年以前はむしろ仕事も家事・育児も”夫婦協業”で行われていた。つまり、核家族・夫婦分業・専業主婦による子育てというのは、この40年から50年の間に広がった、特殊と言ってもいい形なのである。(同上・P165)
 2000年に『アエラ』(朝日新聞)の臨時創刊号で、「子育ては損か? 2118人のメール」が発表された。ついに、子育てを「損得」で計る時代になったわけだ。三沢さんが言うように、戦後日本の価値観は、「損得勘定」だったのに、子育てをする母親だけに「無償の愛」を求めることは確かに理不尽である。だから、徹底的に損か得かを考えてみて、「子育ては損」と思わないような社会づくりをしていく必要があるという主張には、納得する。そのことを、三沢さんは、「”夫婦分業”から”夫婦協業”へ」と言う。子育てすることが夫婦の喜びになって初めて、子ども自らが自分の成長に誇りや喜び持てるようになる。そうでなければ、いつまでたっても大人になりたがらない子どもばかりになってしまうに違いない。

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