フライトシミュレーターの世界

経済アナリスト藤原直哉の、趣味のフライトシミュレーターのページです。主にX-Plane、PSXを飛ばしています。

北太平洋の飛行計画とETOPS、ETP

2016-01-02 17:25:25 | 日記

今日は北太平洋の飛行計画を考えてみます。ホノルル(PHNL)から羽田(RJTT)までのフライトプランと、途中の北緯33度東経170度のポイントからアラスカのアダク(PADK、占守島)へ行き先を変更する場合について飛行計画を作ってみます。

B767-300ERの双発機でこの区間を飛びます。まずPFPXで作ったホノルルから羽田までのフライトプランです。風を読み込んで最適なルートを計算すると北太平洋に事前に設定されたルート(PACOTS)ではなくてランダムなルートになりました。

距離は3555マイル、平均の風が向かい風72ノットです。強い偏西風のなかを飛びます。飛行時間は9時間04分の予定。燃料が増えて最大離陸重量の制限に引っかかり、旅客と貨物は限度いっぱい積むことができなくなりました。搭載燃料が123.8キロポンド。

それで、今日は双発機で飛びますからこの区間はETOPS運航が必要になります。ETOPS180で計算します。まず飛行中に代替着陸ができるAdequate(十分な)空港はPFPXが自動的に選んでくれます。そのなかで現在の気象(METAR)と気象予報(TAF)を見て、Suitable(適した)空港を選びます。日本国内にはSuitableな空港がたくさんありますが、今回の航路上はハワイを出るとジョンストン島(PJON)とミッドウエイ島(PMDY)があります。薄い黒い丸で囲まれたところが各空港からエンジン1基で60分の範囲です。ホノルル(PHNL)とこの2つの空港は60分以内の範囲が重なっていますから、ミッドウエイまではETOPS運航は必要ありません。しかしミッドウエイを出ると薄い黒い丸は日本近海までありません。そのためミッドウエイから日本までの間にETOPS運航が必要になります。

今回はミッドウエイと日本の間のETOPS区間をカバーするために、Suitableな空港からミッドウエイと羽田の2つのETOPS代替空港を指定しました。上の図を見るとミッドウエイと羽田から180分の範囲に引かれた太い黒い丸が重なっていて、この間にETOPS区間が入っています。この範囲がそれぞれの空港にエンジン1基で180分以内に行くことができる範囲です。すなわちこの2つのETOPS代替空港でETOPS区間をカバーできています。

しかしPFPXではETOPSの計算をする設定にして任意の2つの空港のペアを指定すると、その間のETP(等飛行時間ポイント)を計算してくれます。ETPというのはそこから先の空港に行くのと、そこから後ろの空港に戻るのと同じ時間になるポイントで、風の影響などを考慮すると等距離のポイントにはなりません。ETPの計算にはわかりやすい公式があって、手でも計算できます。飛行計画を作るうえでETPを計算してくれると大変便利です。そこで今回はホノルルも便宜的にETOPS区間のように装って、ホノルル/ミッドウエイ、ミッドウエイ/羽田の2つの区間についてETPを計算します。それが下の図です。

では、下の写真を見てください。まずETOPSの計算の部分です。

33E70(北緯33度東経170度)のポイントの手前238マイルのところからETOPS区間に入り(離陸後4時間01分)、38E50(北緯38度東経150度)のポイントの手前130マイルの所でETOPS区間を出ます(離陸後7時間08分)。したがってETOPS運航の区間は3時間07分。

計算に当たっては氷結を考慮し、また復航を1回行うものとしています。

ETOPS代替空港はETOPS運航の予定時刻に前後余裕を持たせて、この間の空港設備等や気象あるいは気象予報が飛行機の着陸に支障のない状況になっていなければなりません。ミッドウエイは世界標準時で9時26分から16時1分まで、羽田が15時33分から16時1分までです。今日はこの間の天気は良好で、この2つの空港はETOPS代替着陸に適した(Suitable)な空港です。もしこの間の空港設備等や天気が着陸に適さないとSuitableな空港として使えません。その場合には航路をずっと北か南にずらしてアラスカや他の太平洋の島をETOPS代替空港に指定するか、ETOPS270という、270分のETOPSができる機材にして、ホノルルと羽田の2か所のETOPS代替空港でカバーできるようにします。

次にETOPSのシナリオ分析です。ETOPSでは通常、3つのシナリオに基づいて、それでも安全にETOPS代替空港に到着できる燃料を確保します。シナリオの1はエンジン1基が止まって、エンジン1基の時の巡航高度で代替空港に行く。シナリオの2はエンジン1基が止まり、与圧が抜けてしまって10000フィートまで緊急降下し、10000フィートで代替空港に行く。シナリオの3はエンジンは2基動いているが、与圧が抜けて10000フィートまで緊急降下し、10000フィートで代替空港に行くというものです。いずれも非常に厳しい状況の設定です。下の計算を見ると全部で6つのグループがありますが、上の3つはホノルルとミッドウエイの間の計算ですから飛ばして、下の3つが今回のETOPSにおけるシナリオ分析になります。

シナリオ1ではFL210まで降下し、330ノット(TAS)で代替空港に向かいます。このとき、北緯38度東経150度のポイントの411マイル手前までにそういう事態が起きたらミッドウエイに行き、そこを越えたら羽田に行きます。ここがシナリオ1でのETPで、ミッドウエイに行っても羽田に行っても必要な燃料は40.754キロポンド、飛行時間は2時間34分、ミッドウエイまでの距離が1325マイル、羽田までの距離が914マイルです。今日は強い向かい風が吹いていますから、同じ時間を飛んでも羽田に行く方が距離が短くなります。

同じようにシナリオ2を見ると、シナリオ2のETPは北緯37度東経160度のポイントの9マイル手前。10000フィートまで緊急降下し、エンジン1基で330ノットの巡航。必要な燃料が42.813キロポンド、飛行時間が2時間59分、羽田まで1247マイル、ミッドウエイまで992マイルです。

シナリオ3はETPが北緯38度東経150度のポイントの479マイル手前、10000フィートまで緊急降下し、エンジン2基で310ノットの巡航。必要な燃料が40.602キロポンド、飛行時間が3時間09分、羽田まで1255マイル、ミッドウエイまで984マイルです。

さらに通常運航した場合のETPも計算されます。下の写真を見てください。HOOPAの次にETP 1 PHNL/PMDYとあります。これがホノルルとミッドウエイの間のETPです。北緯22度西経170度のポイントの44マイル手前です。さらに33E70の次にETP 2 PMDY/RJTTとあります。これがミッドウエイと羽田の間のETPです。北緯37度東経160度のポイントの9マイル手前です。たとえば急病人などが出て代替着陸が必要になった場合は、離陸後ETP1まではホノルルに戻り、ETP1からETP2の間はミッドウエイに行き、ETP2を過ぎたら羽田に行きます。上の地図にもよく見るとETP1とETP2が航路上に書いてあります。

さて、ではここでもうひとつの課題。33E70のポイント、すなわち北緯33度東経170度のポイントまで飛んできたときに、ある事情があって飛行機はアラスカのアダク(PADK)まで行くことになったとします。このときの飛行計画を計算しています。果たして残りの燃料で行けるのかどうかの検討を含めて。

まずコースですが、太平洋上ですから33E70からPADKまで直行します。アダクは結構遠くて、ミッドウエイからエンジン1基で180分の範囲から出てしまいます。しかしこれは本当に偶然ですが、アダクから180分の範囲にちょうど33E70のポイントが入っています!ですからこの場合ETOPS代替空港はペアの指定は必要なくてアダクだけの指定でもOKです。しかしETPも計算したいのでミッドウエイとアダクのペアで指定して計算します。

PFPXには上空のポイントから到着空港までの飛行計画を作成する機能がついています。In-FlightのPlan作成です。先ほどのホノルルから羽田までの飛行計画を見ると33E70での残燃料予定が59.700キロポンドでした。下の写真の33E70からアダクまでの飛行計画を見ると距離は1283マイルで追い風46ノット、飛行時間は2時間35分、飛行計画上で必要な燃料は合計で41.204キロポンド。しかし59.7キロポンド積んでいますから十分にアダクまで行くことができます。18.496キロポンド余剰な燃料を積んでいる計算になります。

33E70のポイントは引き続きミッドウエイを代替空港とする空域です。そこからアダクに飛んでいくとアダクから60分の範囲でETOPSが終わります。ここまでミッドウエイがカバーしています。そしてADKポイントを経てアダク空港に向かいます。

最後に全体の飛行計画をプロットしてみました。プロット図は米国連邦航空局が提供しているものです。

ということで今回はちょっとややこしい話になりましたが、PFPXを使うとここまで細かな計算ができます。さらにPFPXとX-Plane10の間はFSGRWを使うとよく整合性が取れることがわかっています。よりリアルなフライトを楽しむことができます。

補足ですが、ETPの計算は双発機に限らず3発機でも4発機でも同じようにPFPXで行うことができます。たとえば下の図は新千歳から那覇までの飛行計画です。新千歳/羽田、羽田/関西、関西/那覇の3つの区間のETPを計算したものです。色の境目がETPです。途中で行き先を変更する時は赤い線の区間は新千歳、青い線の区間は羽田、黄色い線の区間は関西、そして緑の線の区間は那覇に行きます。

(おわり)