長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

新 7 『地獄谷』

2018-09-28 22:15:50 | 日記
つい先日、高田馬場あたりを歩いていたら、中国?台湾?ベトナム?バングラデッシュ?その他(失礼)いろいろな国出身らしい若者がいくつものグループで歩いているのに出会った。これはもう珍しいことではない。日本語学校、専門技能学校らしい。地方でも<ここはブラジルか>とか<アフリカ的な人が大勢>だとか感じる地域があるのだろう。それらの人のいくらかは(多くても良いが多くなくても良い、その人の勝手)でやがて日本人になるのだろう。いろいろな組み合わせのカップルができ子供が生まれたりホームシックになったり大儲けして郷里に凱旋したり、尾羽打ち枯らして(古風な日本的表現は通用しないだろうけど)故郷は遠いなあと悲しんだり、とにかくいろいろなことが起きるのだろう。
『地獄谷』日置俊次第七歌集 書肆侃侃房 2018年9月
 かりん編集委員の日置さんは青山学院大学の文学の先生だが、昨年一年近く在外研究とか言う制度で台湾に滞在された。そのときを題材にした歌集である。文学者が異国に滞在した小説・随筆・短歌は古来いろいろあるが、そのときの本人・日本と彼の地の人・社会との関係がとても面白いことが多い。結局それは本人の姿勢なのだが、両側およびさらに世界の情勢の背景あってのことだ。上記の僕の散歩の目と合わせてもこれからどうなるのだろう。国とは、住むとは、文化の継承、断絶、変化とは、食べ物のおいしさとは。

指紋とられ瞳にカメラあてられてからうじて越ゆる入国の柵 
「手紙(ショウジー)」とはちりがみのこと「人間(レンジエン)」とはこの世のこととおさらひ始む 
「請把衛生紙丟入垃圾桶(ちり紙は屑入れに入れてください)」と壁にあるなり写真撮らむか 
インドネシア人のメイドが太り肉(じし)のからだ揺らして鍵を持ちくる
ツナおにぎりは日本のそれと変はらねど味付け海苔が巻いてあるなり
保安宮なる廟(ミャオ)を見てゐる 反り返る屋根に飛ぶ龍数へられない
釈迦を呼ぶ地獄ぞわれはかなたよりひびきくるその地獄呼ぶ声
ああ母よ癌に苦しみ骨と皮だけになりたり まだ胸が痛い
われいまだ老いてはをらねど「老氏(ラオシー)」と呼ばるることをいかんともせむ
ヅグロミゾゴヰいつも一人で立ちつくし一人のわれをぼうつと睨む
カトラリーといふものあらず丸箸と辣(ラー)だけ置かるる席に安らぐ
火龍果を切れば真つ赤な果肉より白きいも虫顔をだすなり
スープでも打包できる台湾の懐の深さ身に沁みるなり
パソコンの画面にひとすぢ髪の毛がかかりたりされど仕事つづけぬ
南京櫨にすこし亜麻色の葉がまじりしかし青々と師走がすぎる
ブラジルの新聞にFUKUSHIMA作業員の求人広告けふも出てゐる
湯気であるわれがわが身の湯気にむせわれを見下ろすこの地獄谷
宇宙より美しき島(フォルモサ)あをき台湾を眺むるはたれぞ島には雨が



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