長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

535 虫好きと人生

2017-11-18 23:38:30 | 日記
『虫の神さま』 畑 彩子 第三歌集 2017年9月刊 ながらみ書房
畑さんはかりんの中堅歌人。校正その他でときどきご一緒する。二人の息子さんを大切に見つめつつ寄り添っている。男の子は虫が好きなことが多いが、この歌集からはその雰囲気が成長しながら少し移っていく様子が見て取れる。ずっと虫好きである必要はないのである。昆虫採集とか、珍な虫集めとかかなりマニアックな少年が本当に専門家になるケースがかなりあり、それはそれですごいのだが。かくいう僕も虫がそれほど好きってわけでなく。やや理屈に偏していたから大物になれなかった。でも、人生が豊かになるので畑さんの息子さんも楽しい人生を送れることだろう。まだまだ、お母さん頑張って楽しくまじめな歌を詠み続けてください。。
いつもいつも張りつめた目でわれを見る友と疎遠になりゆく九月
「虐待死は男児に多い」という記事を子が眠る間に五度読み返す
出生前診断すすめる看護師の老い深き貌に表情はなく
「たまちゃん」と胎児を名づけ長男はたまちゃんのためにおもちゃを作る
友よりもまず虫のことを気に掛ける息子の机にならぶ虫瓶
破顔とう言葉はありて生まれたての弟を抱く兄の表情
乳腺が腫れていますと指摘されわが視野急に白くなりゆく
ウオーホール展の真紅に浸りつつ軽く冷たい体躯(からだ)が欲しい
大人びた子供と大人になれない親が無言でスマホいじりつづける
私(わたくし)は小さな国の小さな王で小さなものを支配している
だんだんと大地を踏んで子はわらう春風わらう土筆がわらう
眉青き少女らどうと駆けてきて鞦韆四基をたちまち奪う
友達に言葉届かず友達は短歌をやめて道場へ行く
序ノ口の小さな力士が扉(と)の陰でハンバーガーを食べてる真昼
はっきよいおおはっきよいはっきよい湯気たちのぼる大相撲かな
立ち見した「汚れた血」いまも君の手が震えていたのを忘れられない
とぶ力すでに失くして春宵にオオミズアオは冷えてゆくのみ
「思春期」とう美しき名を与えられ少年はみな無慈悲な奔馬
ついにスマホを手に入れた子は遠く居てわれは一人でテレビ見ている
防人のごとき夫が帰り来て長男次男の背丈におどろく
両親と距離をとりつつ弟と語りあうこと増えし長男
ふるさとは浜岡原発近き町 のっぺらぼうの地図がひろがる