長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

529 『鳥語の文法』

2017-10-03 21:31:21 | 日記
半年ほど前、慶応大学だったかの人たちが鳥の鳴き声に文法があることを見つけたとかのニュースがあったが、それとは別に(時期的にももっと前に)この歌集の歌と題が作られていたのだろう。鳥の声に文法があるだろうとはそれほど驚くことではない(鳥研究の人にケチをつける気は毛頭ないが)。
遠藤さんはかりんの中堅(と言ってい良いのかな)歌人。歌会やネット歌会の仕事などでときどき一緒になる。事情あって離婚された時期を含む近年の歌をまとめた歌集だ。中国・台湾関係のお勤めをしている年齢なりの端正な歌が並んでる。大学は化学系だったようだが歌つくりはそれと関係なく年季が入っていて、僕なんかはある意味で男っぽさを感じる詠み口である。すでに有名だがこれからどんどん大きくさえずるのだろう。すこし崩れたものが出てくるとすごくなる気がする。

  遠藤由季第二歌集 短歌研究社 2017年7月刊
月光はスライスアーモンドより脆くみじろぐたびに割れてしまった
戸の軋む食器棚にはガラス板疲れ切りたるわれを映せり
どうすべきだろうかわれはこれからを八ッ場(やんば)ダムある吾妻に立つ
後ろめたさを靴底のように減らしゆかん皀角(さいかち)坂をくだる夕暮れ
ペットボトルの首を掴んでレジへゆく烏の首の太さ思いつつ
もやしからひげ根を取ってゆくような経理の仕事今日もこなさむ
風に想いを乗せる時代はとうに去りスマートフォンを弾く指先
均一なる韓国美女を思いつつ小分けされたる豆腐を選りぬ
ふくらはぎぱんぱんに張りキッチンに横たえてある春牛蒡踏む
ふきよかになりゆくからだ気にしおる姪を包めり春の制服
残業をする静けさに垂れてくる人恋しさはもずくのようだ
マニキュアの剝がれ始める水曜日ひとさし指に台湾島浮く
「中央大学もリタイアのようです」中継は途絶えてその後誰も語らず
亀の子と呼ばれしベンゼン環いくつ描いて恋を越えしかわれは
生協の卯の花箸ではぐしいる三十代もおわる雪の夜
ひとすじのバグを水面に残し去る水鳥あれは消すべき記憶
シナモントーストうまき「倉嶋」閉店す風の鋭き県道角地
衆院選冬を連れ来し 決して世を歌では問わず与謝野晶子は
冬の枝はレースのようだ甘いのは悪いことではない、逢いにゆく
鳥語にも文法があり複雑な声音に愛を告げる日あらむ
語るでも黙るでもなく姉とわれもっくりと座しお茶を啜りぬ
糊口とはなんとも息苦しいことばほぼしゃべらずに仕事しており
夕映えにまだならぬ陽の鋭さを照り返しつつ車列流るる