海人の深深たる海底に向いてー深海の不思議ー

地球上の7割を占める海。海の大半は深海。深海生物、潜水調査船など素晴らしい深海の秘蔵画像を紹介。奇抜・奇妙な姿に驚愕!!

原子力潜水調査船NR-1

2015年07月10日 | 日記
原子力潜水調査船「NR-1」の活躍
    -世界唯一 舶用原子炉搭載の米海軍「NR-1」潜水船―
                            山田 海人

 今回は1969年建造され、2008年退役した世界唯一の原子力潜水調査船「NR-1」を紹介します。

日本では科学技術庁が「しんかい」600m潜水船を建造し、「よみうり号」が運行していた頃、アメリカ海軍が建造したのが世界初の原子力潜水調査船「NR-1」です。
「NR-1」の一番の特徴は動力源に舶用原子炉を備えていることです。そして水深754mまで潜航可能で、軍事活動、海底の捜索及び回収、海底に調査機材の設置、メンテナンス、そして海洋科学の研究を行う目的で 1969年6月に進水し、海上行試は8月19日に行われ、同年10月27日に完成しました。建造メーカーはジェネラルダイナミック社です。

 このための、海底を観察する3つの覗き窓、マニピュレータ、外部照明、テレビカメラ、スチールカメラ、サンプルバスケット、切断装置、そして船体には収納可能な海底移動用の車輪2個が装備されています。13人乗りで研究者2名が含まれています。船内にはトイレ1式、ベッドは2名が共有で使用し、数週間の連続潜航が可能です。また通常の原子力潜水艦に装備されている海面を監視するための潜望鏡も備わっているので海面下に潜航していても海面の目標を監視することができます。

現在の「NR-1」の主要目:(1993年に大改造が行われた。)
 全長:150フィート 45.72m 耐圧殻長さ 96フィート 29.3m
 直径 12フィート 3.8m
 排水量:400トン 潜水能力:3,000フィート 915m
 潜航可能日数 通常 210人/日  最大 330人/日
 乗組員:士官 2名 下士官 9名 科学者 2名 合計13名
     最低人数 士官 2名 下士官 5名 合計7名
 「NR-1」チーム:現在総員35名が所属し、その度仕官などが指名されて
  潜航メンバーが決まります。
支援母船:米海軍SSV Carolyn

  それでは「NR-1」の特徴である原子力を動力とする潜水調査船は、なんと言っても調査地点に長く留まっていられることです。その理由は、まず、支援母船に頼らない運用ができることです。通常の潜水調査船は、支援母船によって調査地点まで運ばれ、支援母船のクレーンで着水・揚収され、潜航中も無線による交信をはじめ、現在位置の把握、浮上までの運行、そして支援母船の船上で整備されます。このように潜水調査船と支援母船とが一体となって潜水船システムによる行動が行われています。さらに、通常のバッテリー駆動の潜水調査船の場合は、エネルギーの問題から海底にはあまり長く留まってはいられません。例えば「しんかい6500」は毎分40mのスピードで潜降・浮上をするので水深6500mまで2時間半の潜降、そして浮上も2時間半ですから合計5時間、海底では3時間ほどの滞在になります。 また、1回の潜航毎に支援母船からクレーンで吊り上げられ着水し、潜航を終えたらスイマーが吊り上げ索を接続させてクレーンで吊り上げて揚収しています。ですから揚収の際の天候に支援母船はとても気を使っています。場合によっては早めの揚収が行われるので海底での滞在時間は更に短くなります。
 「NR-1」の場合は、場合によって船舶で調査地点まで曳航されることがある他、一旦潜航すれば独立した運用が行えます。荒天で海面が時化てきても、揚収に危険な夜になっても問題はありません。海底での調査は対象物に近寄って情報を得る分けですから、その地点に長く留まっていられるほど多くの、そして正確な情報が得られるのです。これまで「NR-1」は、1986年にスペースシャトル・チャレンジャーの事故の際、海底に落下したチャレンジャーの重要な部分の回収にこの利点を使って活躍しました。荒天の冬1月から4月の時期に「JOHNSON SEA-LINK」と「NR-1」の2隻が捜索に参加しましたが調査海域では頻繁に浮上することもなく、海底に留まることができるので、「NR-1」は、深海での捜索での重要な役割を担っていました。捜索海域に低気圧が襲っても、他の船舶が撤退しても「NR-1」はその場に留まって捜索を続け、大きな成果を挙げたのです。こうした実績は1990年のニューイングランド沖のエジプト航空990便の墜落事故においても厳しい天候の中で天候に影響されずに良い成果をあげました、
 こうして40年以上も第一線で活動してきた「NR-1」ですが公にされている潜航実績は1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」の捜索と1995年にカルタゴ通商航路の考古学的調査を実施した程度で大半は機密性の高い軍事活動であったようです。
 この「NR--1」は2008年9月に退役しました。