眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

荒野へ ・・・・・ 『イントゥ・ザ・ワイルド』

2010-02-02 17:40:55 | 映画・本
(以下は結末に触れています。未見の方はご注意下さい。)


今、2009年に観た映画を振り返るという、とても楽しい作業をしている。この映画については、「ひとこと感想」の筈が、いつも以上に支離滅裂なせいで長くなってしまい、仕方なくもうこうして別に公開することに。(それにしても120本の感想なんて、去年どうやって書いたんだろう・・・などなど。) 



『イントゥ・ザ・ワイルド』を観てから1年近く、チラシを身近において眺めて暮らした。白から淡い水色、ブルーグレイに至る地味な色調の、なんだか清々しい風が吹いているようなデザインを見ながら、観た後に残る作品のイメージもこんな色合い風合いだったな・・・などと思ったりした。

ある意味、いかにもアメリカ映画らしい作品でもある。広大な自然を背景に、あらゆる物を振り捨てるようにして、ただ西へ西へと旅する若者。彼がその途中で出会う、さまざまな「社会の表側とは違うところで生きている」人たち・・・。

しかし、この映画は所謂アメリカのロード・ムービーとは違っている。観た後に、「曰く言い難い」寂しさが残るのだ。丁度、チラシの写真の主人公の顔に、どことなく浮かんでいるような。

私自身はこの主人公の青年とは違って、「自然」(というか「野生」というもの)を本気で恐れる気持ちが強いので、間違っても彼のようにそこへ出て行こうなどとは思わない。自然(特に冬!)の厳しさ、そこで人が安心して暮らすために費やされている膨大なエネルギー(労働量)を実感して育ったこと。そこで暮らすには自分の身体がいかに虚弱か、イヤと言うほど知っていること・・・などなど。私の眼には、たとえどれほど頑健で、周到な準備をしているつもりだったとしても、彼のその後は(本当にひどい言い方だけれど)「当然起こり得た」帰結・・・ということになってしまう。

私の感じる「寂しさ」は、結局それが理由なのかもしれない。(なんて身も蓋もない感じ方だろう。)

しかし映画で紹介される、本人の残した日記の言葉の数々は、いかにも若く元気に溢れて、傲慢だったり理屈が先走っているように見えたりするものもある一方で、この「旅」も「日記」も、彼の「若さ」ゆえに為せることではないと感じさせるものが多かった。

「この人は、今の現実をそのまま守り続ける側の職業に、すんなり就ける人じゃない。」

旅の途上の感想、考察を、小さな文字でノートにびっしり書き込んでいる「彼」の姿が浮かんでくる。そう・・・実はこの映画は、私にとっては「二重構造」?とでもいうような作品だった。私は終始、映像上の主人公(若い俳優さんは真剣に役作りをしていて、実際それは成功しているように見える。)の後ろに、常に「本人」(実話の主人公)の気配を感じていたのだから。

そんな「本人」の姿は、最後に(現地で自分で撮ったらしい)写真になって、私の前に現れる。

その写真の彼を一目見た瞬間、それまでずっと感じていた「二重構造」の違和感が消え、私はこの映画の主人公はこの人だったのだ・・・と納得できた。あの言葉の数々は、この人から出たものだったのだということが、何ら不思議じゃない気がした。

そしてあの「曰く言い難い」寂しさが、涙と一緒に込み上げてきた。

私はこの人に戻ってきて欲しかった。本人も戻るつもりでいたと思う。ほんの小さな誤算から、彼は戻れなくなっただけ。そして、最後の言葉が残される。

「もし僕が、笑顔で腕に飛び込んだなら・・・見てくれるだろうか、今僕が見ているものを。」

映画はその彼の回想シーンを、殆ど祝福するかのように描く。このエンディングだからこそ、この映画は「美しい」作品として、今の私の記憶に残っているのだろう。人の一生分を凝縮したような瞬間、彼の顔に浮かぶ微笑みは強く印象に残る。

それまでの自分の人生の本当の姿を知ったのが、短い人生の終わりだったということ。求めたものが得られたのに。帰る場所、待ちわびている人たちがいるというのに。

それでも、人は出るべくして旅に出るのだ・・・と、観た私を慰めてくれるかのように。


(ショーン・ペンという人を、正直私は俳優さんとしてより映画の作り手としての方が、ずっと好きかもしれない。風景、光景が語る言葉が的確というか、私などにもはっきりわかる。まだ2本観ただけだけれど、次の作品を待っている。)




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