moving(連想記)

雑文(連想するものを記述してみた)

手塚治虫著「アドルフに告ぐ」を読んで

2005-09-05 | エッセー(雑文)

昭和11年の殺人事件から物語は始まる。
峠草平の弟のドイツにおける不審な死、
それに遡る日本での芸者の殺人事件と、
一見ミステリー風の導入部によって、
峠草平という記者が語り手になって、
第2次世界大戦前後の歴史が語り始められる。
ミステリー的謎ときの要素に絡んで、日本に舞台が移る。
このときドイツ領事の息子とパン屋の倅の幼馴染的な
友情が描かれる。
そしてヒットラーの秘密(直系の祖父がユダヤ人という設定)
に関わっていくことで、アドルフ・カウフマン(ドイツ領事と日本人のハーフ)
アドルフ・カミル(パン屋の倅ユダヤ人)という二人の友人関係が、
壊れていく様
アドルフ・ヒットラーの狂気に沈む様が描かれている。
峠をはじめとして、登場する人物はヒットラーの秘密文章に
関わり、親交を深めたり、敵として現れたりという形で絡んでくるが、
善か悪という黒白を明確にする方法ではなく、「強度」の濃淡さの
ような価値判断で、手塚はこの戦争・事件を描いているようだ。

全体的な印象としてはゾルゲ事件、日本軍部独裁政治、第二次世界大戦、
ユダヤ人虐待・差別等を描いた壮大な反戦物語といえるだろう。

物語は大戦が終わりパレスチナ問題まで続くが、
カウフマンとカミルが最後の戦い(決闘)を行い、
元親友の悲劇はカウフマンの死(亀裂)で決着を迎える。

スキゾとかノマドとかいう放浪の民であったユダヤ人が、
結局パラノイア的定住性に執着する様、かつてのナチスのように
虐待を戦争で繰り返す「自動機械」的な様を描くことで、
その子孫・・・子供に戦争の愚かさを伝えたいということに、
この長い壮大な歴史物語を書いていくうちに、
ヒットラーの秘密の比重強度が軽くなり、
本題が「ズレ」たのではないかという印象をうけた。

近代資本主義の「群れ」を一定方向に走らせる「回路」
「システム」によって、個人の良識では抵抗できない現象というもの
そういう「自動機械性」に敏感になる必要性が、
(自動車のオートマからマニュアル運転のような操作感の回復)
資本主義の弊害に、対処できる方法ではないだろうかと考えさせられた。