ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【眼の誕生2】難波先生より

2015-07-07 16:19:12 | 難波紘二先生
【眼の誕生2】(以下は5-25掲載の【眼の誕生1】の後編です。)
4)原索—脊椎動物の眼=
 さてW君の質問「昆虫の複眼と魚類のカメラ眼とどこでわかれたかご存知ですか?」に回答するには、昆虫は無脊椎動物であり、脊椎動物魚類の出発点は原索動物であることに触れないわけにいかない、と前回書いた。

 脊椎動物の祖先である原索動物(ホヤ、ナメクジウオ、ギボシムシ)の化石はすでにカンブリア紀中期のものが見つかっているが、これらには眼がない。しかし光感知斑(眼点)は存在する。
 
 他方、節足動物のカンブリア紀の代表である三葉虫には、よく発達した複眼が認められる。また同じく「原口動物(旧口動物)」(発生期の原口がそのまま口になる動物、脊椎動物では肛門になり、口は新に作られるので「新口動物」という)であるイカやタコなど軟体動物では非常によく発達したカメラ眼がある。
 節足動物でもクモの眼はカメラ眼性の単眼が6〜8個ある。写真1はアシダカグモの仲間と思われる異常に毛深いクモで、頭部前面に、前列4個、後列4個の眼がある。後列外側の眼は異常に大きく、「まつげ」のような長い毛に囲まれている。
(写真1)
 「Biology of Spiders」という本によると、クモにはレンズ、硝子体、網膜を備えた「主眼」(カメラ眼)と網膜の後に「反射板(タペトゥム)」を備えた「二次眼(副眼)」とがあるそうだ。(このUSB顕微鏡写真では、照明の反射の仕方を見ると、全部がカメラ眼のように見える。この点は後日、あらためて詳しく調べてみたい。)

 昆虫ではよく発達した複眼と単眼のカメラ眼の両方が認められる。たとえば写真2はキアシナガバチの頭部だが、馬蹄形の一対の巨大な複眼と3個の単眼(カメラ眼)が認められる。
(写真2)
 昆虫(バッタ)の単眼の構造はこうなっている。(写真3)
 レンズに相当する「角膜水晶体」があり、その下の表皮が透明化しており、視細胞とニューロンが備わっており、軟体動物のカメラ眼にほぼ匹敵している。
(写真3)

 軟体動物頭足類のタコの眼ではレンズ形成の他に、毛様体、虹彩まであり、脊椎動物の眼にそっくりである。
 多くの生物学者はこれを「進化の収斂(しゅうれん)」と呼んでいて、独立して偶然に同じようなカメラ眼ができたと考えている。(写真4)
(写真4)
(写真3.4:岩堀修明「図解・感覚器の進化」講談社ブルーバックス、から引用)

 しかしアンドリュー・パーカーは『眼の誕生』(草思社, 2006)において、「カンブリア大爆発」は、形を認識できる「眼の出現」が原因であり、それは先カンブリア紀(5億4000万年前)にすでに準備されていた、と多くの証拠に基づいて論じている。
 パーカーによると網膜が像を形成し、その情報が脳に伝えられるタイプの「眼」つまり「見える眼」は、「カンブリア紀大爆発期」(BP.5億4300万年〜5億3800万年)に初めて出現したという。
 先カンブリア紀に相当するBP.5億7000万年の「エディアカラ動物化石」からは、カメラ眼をもった動物が見つからない。

 以下は私の推論です。「進化は遺伝子の延長、重複に点突然変異が加わって起こる」という大野乾の考え方(「生命の誕生と進化」東京大学出版会,1988/7)を基本にしています。
1) ミドリムシの眼点は光感受性の細胞とロドプシン蛋白を持っており、これが眼の原基である。
2) 扁形動物のプラナリアや腔腸動物のクラゲでは網膜と水晶体をもつ「眼点」があり、これが眼の起源である。これにマイナーな遺伝子修飾が加わったものが「個眼」である。
3) 個眼の遺伝子重複が行われ、同じユニットが多数集合するようになったものが、昆虫の「複眼」である。
4) 他方、扁形動物や腔腸動物にあった原始単眼の遺伝子に修飾が起きて、網膜、水晶体、虹彩、虹彩括約筋などの遺伝子付加が起こったものが、「カメラ眼」である。
5) カメラ眼の形成に必要な遺伝子変化は、すでにBP.5億7000万年の先カンブリア紀に用意されていた。
6) 「スノーボール・アース」が終り、カンブリア紀に進化大爆発が起きた時に、太陽光量の約1割の増加が起こり、それで生じた生態学的なニッチに、適応した動物種が出現した。それは「新しい眼の遺伝子」を活用するというかたちで行われた。
7) この時に、三葉虫や昆虫は複眼遺伝子を活用し、軟体動物や脊椎動物は単眼遺伝子を活用するというかたちで、ニッチに適合した。
 この考え方によると、軟体動物と脊椎動物におけるカメラ眼の出現は「進化の収斂」ではなく、既存の遺伝子をほんのちょっと発現様式を変えただけ、ということになります。
 つまり昆虫の複眼も脊椎動物のカメラ眼もほぼ同時に、カンブリア紀に出現したことになります。これはもっとも初期の脊椎動物コノドント化石を見れば明らかです。(リチャード・フォーティ『生命全史40億年』, 草思社, 2003)(写真5)

  (写真5)

 昆虫の複眼と魚類のカメラ眼は、「分かれた」のではなく、遺伝子の使い方が違うだけだと思います。人にも第三の眼「松果体」があります。お釈迦さんの眉間の大きなホクロは、その象徴でしょう。手塚治虫の漫画に「三つ眼が通る」がありますが、まれに単眼や三眼の奇形児が生まれることがあります。
 大多数の個体では、表現型が固定されているだけで、遺伝子型としては人類も複眼の遺伝子をもっている可能性があります。
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5 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-07-08 00:31:33
>3) 個眼の遺伝子重複が行われ、同じユニットが多数集合するようになったものが、昆虫の「複眼」である。

これは根本的に間違っていると思う。1つのオマチジアを作るのに1つの遺伝子が必要なわけではないから、遺伝子の重複によって個眼が複眼になるわけではない。

複眼を獲得する過程で何らかの遺伝子重複が関与している可能性を否定するわけではない、念のため。

脊椎動物の眼の形成に必要なPax6は、fluit flyでも同様に眼の形成に必要である。タコやイカが知らないが、脊椎動物と節足動物の基本的な眼の形成メカニズムは共通しているのだろう。ホタテ貝の眼点は別物じゃないかと思う。エディアカラやバージェスは遺伝子情報が得られないので分からないとしか言えない。
返信する
Unknown (Unknown)
2015-07-08 00:39:46
追記

最後の4行は、1行目を除いてデタラメ。お釈迦様の額には「ほくろ」はありません。あれは毛です。正確には白毫といい、オレンジペコの語源だったりします。
単眼は、ある種の植物(バイケイソウの仲間)おアルカロイドや、ビタミンAの不足によって起きるとされている。しかし、単眼と三眼を、昆虫の複眼と同列で語るのはあり得ない。元になるメカニズムが根本的に違う、とだけ指摘しておく。
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Unknown (Mr.S)
2015-07-08 18:22:45
遺伝というよりも突然変異だろ。
良い突然変異なら超人的な生物となるだろうが悪質だと複眼や多指症などになるんでは?
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Unknown (Unknown)
2015-07-09 00:09:33
超人的な生物って誰の事? サカイさんか?
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Unknown (Mr.S)
2015-07-09 20:10:40
もし、まやかしでないのなら、超人は宜保愛子かな。
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