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阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【腎がんの増加】難波先生より

2013-06-04 12:17:03 | 難波紘二先生
【腎がんの増加】東京女子医大の田邊先生からメールがあった。
 <最近、文春に中国食品が危ないという記事出ましたが、確かにここの所、異常に若年、女性の腎癌症例が増えているように思います。卵巣がんも若年者が増えているようです。
 やはり食品と関連ありそうですが。何か情報ございますか?

 文春の記事はいい加減なものでしょうか?>



 「文藝春秋」六月号の「中国 知られざる異形の帝国」という記事かと思ったら、「週刊文春」に3/28号から5/23号まで8回にわたり連載された「中国猛毒食品」という記事だとのことで、PDFで全記事をお送り頂いた。ありがたく感謝します。


 問題は3点に分かれると思う。
 第1は、「近年、日本において若年者の腎臓がん、女性の腎臓がん、若年性卵巣がんの患者が統計的に増えているかどうか?」という問題だ。これは私の専門領域でないが、「広島県医師会腫瘍登録システム」の過去のデータを調べれば判明すると思う。
広島県では、すべてのがんについて、手術・生検が行われたものは病理標本をつけて、臨床診断(画像診断をふくめ)しかないものは、臨床要約を「県医師会腫瘍登録室」に全医療施設が登録しており、これは「放射線影響研究所(放影硏)」により、データベース化されており、被曝者コホートと照合することで、被曝の影響調査にも利用されている。
 県外の医療関係者にも、利用が認められており、田邊先生がご自分の医学的な印象を科学的に確かめられようとされるのなら、このデータを利用されるのが一番だと思います。


 「腫瘍登録制度」は宮城県、愛知県、大阪府、長崎市にもありますが、日本でもっとも早くから実施され、病理標本までそろっているのは広島県だけです。医師会というととかく「業界団体」と見られがちですが、広島県医師会のこの事業は、今では県の補助金も出ていますが、純粋に学術・医療のレベルアップを目的としており、県医師会が誇るにたる事業です。
 私も長年、この委員会の委員をつとめたので、すこしは顔が効きますから、もし研究されるのであれば、仲介の労を惜しみません。


 第2は、「腎がんのうちで化学物質が関連するものが知られているか?」という問題です。
 これについては腎臓の病理学についてもっとも詳しい専門書「Heptinstall's Pathology of The Kidney, 6th ed.」(2007)を見ると、腎細胞がんの発生率は対人口10万人で年間、成人男性5.6人、成人女性4.1人となっています。米国では年間36,160人が新規発生し、12,660人がこれで死亡している、とあります。(日本で同率の発生とすれば、人口比から見て、約1万5000人の腎細胞がん患者が発生することになる。)
 腎細胞がんのリスク要因としては、喫煙、肥満(特に女性の場合)、頭痛薬のフェナセチン、アセトアミノフェンの長期服用、カドミウム中毒、石油化学物質、産業関連炭化水素が知られているが、発がんのメカニズムまで解明されたものはない。


 総論的記載と遺伝子的背景の説明にすぐれている「Robbins & Cotran's Pathologic Basis of Disease 7th ed.」(2005)によると、腎細胞がんの70~80%を占める「淡明細胞がん」では98%にVHL遺伝子の欠損があり(全身性に異常が起こる場合はVon Hippel-Lindau病=VHLとなる)、この遺伝子は第3染色体短腕(3p25.3)に存在している。VHL遺伝子は「がん抑制遺伝子」であり、淡明細胞がんの場合、家族性発生、単発性、あるいはVHL病を問わず、第3染色体の短腕欠損(3p-)あるいは、VHL遺伝子の変異もしくは過剰メチル化による不活化がある、と記載しています。
 VHLは正常ではHIF-1(hypoxia-inducible factor-1:臓器が低酸素症に陥ったとき、血管増生因子=VGEFの産生をうながすサイトカイン)の産生を抑制している。このVHL遺伝に異常があると、HIF-1の高レベルが持続し、細胞増生と血管増生が起こりやすくなり腎がんの発生につながる、とある。


 世界でもっとも権威があるがんの専門書「DeVita's Cancer: Principles & Practice of Oncology, 9th ed.」(2011)は腎がんについて、こう説明している。腎細胞がんのリスク因子は3種類に分かれる。 
 1)喫煙、肥満、鎮痛剤の常用という生活習慣にからむもの。


 2)職業と関連するもの:有機溶媒TRI(トリクロルエチレン)関連は皮なめし業、靴製造業で、アスベスト関連は建築、造船などで起こる。
  カドミウム関連腎がんは、喫煙によりさらに発生リスクが増加する。
  ガソリンの気化による発がんは動物実験では認められる。
  石油、タール、ピッチ製造業に関しては腎がんとの関係は証明されていない。


 3)多発性嚢胞腎の患者では腎がんの発生リスクは、正常人にくらべ100倍高くなる。
  これとは別に、長期人工透析あるいは腹膜潅流を続ける患者の場合、35~47%に「後天性腎嚢胞」が発生し、その5.8%に嚢胞壁から乳頭状腎がんが発生する。従って超音波ないしCTによる経過観察が重要である。
  透析患者の病理解剖または両側性腎摘出を行って検査すると、臨床的には見つからなかった腎がんを認めることが多い、とある。


 疫学的な推移に関しては、腎がんの好発年齢は50~70歳にあり、1975~1995年にかけて年率2~4%の割合で増加しており、1973年に比べると43%増加している、という。


 (「広島県がん登録」によると、広島県における腎がんの推移は、
 2002年=246件(男181例、女65例)、罹患率=男9.2、女2.7(人口10万人当たり)
 2006年=283件(男197例、女86例)、罹患率=男9.5、女3.3(同上)
 となり、「男女ともに増加している可能性があり、米国にくらべ男性が2.9倍も多いという顕著な性差がある」可能性があります。
 これは「広島県腫瘍登録事業」が開始された1973年からの全データを調べないと、科学的な結論を下せません。
 年齢階級別に見ると2006年登録分で、
 腎がんは40歳未満が全体の7.4%、女性腎がん=40歳未満0%であり、若年者に多いという傾向はないようです。
 東京女子医大泌尿器科というと、知名度が高いので施設バイアスを除外する必要があると思います。
 卵巣がんに関しては2.3%が40歳未満に見られています。これも若年性卵巣がんは散発的に昔から見られ、特に問題にするほどではないようです。)
 
 中国から輸入される食品の化学汚染は気になるところであり、日本の輸入検疫体勢ならびに国内における食品衛生検査システムが万全か気になるところです。食品添加物あるいは汚染化学物質には、無害なもの、急性毒性のあるもの、長期毒性のあるもの(発がん性、肝臓毒、神経毒、腎臓毒など)があります。
 そこで以下、「週刊文春」と「文藝春秋六月号」の記事を中心にコメントしたいと思います。
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