日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

活動回顧録 2017 - 薫風の飛騨

2018-02-14 22:11:42 | 旅日記
旅先に車を置いての一時帰京を繰り返し、五月の下旬、場合によっては六月まで、花見の旅の番外編を繰り広げるのが近年の通例でした。それが今季は大型連休でひとまず完結しました。空いた時間でどこへ行くかと思案の末に行き着いたのは、二週続けて飛騨へ行くという意外な選択でした。しかし、当時のことを振り返ろうとしたとき、そもそも何故飛騨に行こうとしたのかを忘れていることに気付きました。当時の記録を繙いてようやく思い出すことができ、このblogの効用を思わぬ形で再発見した次第です。

・薫風の飛騨を行く(5/20-21 2日間)
東北からの帰還後、天候不順による活動休止を一週挟んでの旅立ちでした。ただし、元々飛騨へ行こうとしていたわけではありません。
その当時念頭にあったのは、仙台の新緑、高知の初鰹、それに七年ぶりとなる佐渡の再訪です。しかし、仙台の宿泊事情は相変わらず厳しく、繁華街から徒歩圏内という条件で宿を探すと、最低でも八千円はかかってしまう状況でした。晴天ではなかったものの、大型連休中に一日滞在していることを考えると、高額な宿代を払ってまで再訪する必然性が感じられません。高知についても、宿が仙台並みに混んでおり、さらには帰りの「サンライズ瀬戸」も手配できなかったため見送りました。ならば佐渡かと思いきや、あろうことかロングライドなる催し物に重なってしまい、宿どころか行き帰りのフェリーすらも手配できない始末。消去法で残ったのは、前橋の薔薇を見に行くという選択肢でした。もちろん悪くはなかったものの、いささか地味な感は否めない中、高山の宿が空いていることが直前になって分かり、急遽目的地を切り替えるという顛末です。
長らく無沙汰を続けていた飛騨に、久々の再訪を果たしたのは三年前の初冬で、その翌年もほぼ同じ時期に訪ねました。時期的には対極ともいえる半年後の再訪だけに、あらゆることが新鮮でした。まず甲府と松本に寄ってから木曽路を下っていき、木曽福島から国道361号線で高山へ向かいましたが、甲府で眺めた薔薇も、松本で眺めた菖蒲も風薫る五月の季節感に満ちており、残照で影絵になった御嶽山も印象的でした。高山では居酒屋に加えて酔客御用達のラーメン屋を体験し、翌日は新緑の城山公園を歩きました。
それとともに特筆すべきは、図らずも花見の旅の番外編とでもいうべき活動になったことです。まず驚いたのは、松本市街に八重桜がわずかとはいえ残っていたことです。その後木曽路を下っていくと、やはり散りかけながらもところどころに八重桜が残っていて、さらに進めば見頃の桜も残っていそうな予感がしてきました。その予感は的中し、翌日高山から361号線を引き返していくと、山桜が散りかけながらもまだ咲いていました。長野との県境を越えた先には満開の八重桜も。極めつけだったのが、国道をそれたところにある小さな集落の一本桜です。車道から少し離れた小高い斜面に、まだ満開の山桜があるのを見つけ、歩いてそこへ近付こうとしたところ、桜の向こうに御嶽山の山頂が顔を出していました。北東北でさえとうに桜が散った五月の下旬、日帰りできる場所に見頃の桜が残っているという事実に驚き、図らずももう一度花見ができた幸運に感謝した次第です。

・薫風の飛騨を行く 続編(5/27-28 2日間)
東北での花見をよい形で締めくくり、もう思い残すことはないと思っていたはずが、それに勝るとも劣らない名場面に思いがけない形で出会い、さらに多くを望めば罰が当たるだろうと思いました。しかし、またしても思いがけない形で翌週の再訪が実現し、しかもそれは単なる蛇足に終わりませんでした。
仙台と高知の宿泊事情は相変わらず厳しく、土日に休みを一日足して、佐渡を再訪できれば理想的でした。しかるに業務が立て込み休むことができず、その一方で高山の宿はまたもや空いていたため、毒を食らわば皿までもの心境で再訪を決めたのがそもそもの始まりです。甲府と松本で時間を食い、木曽を実質素通りせざるを得なかった前回の教訓を活かし、まずは諏訪まで直行しました。しかし、ここで「御湖鶴」の蔵元が倒産しているというまさかの現実に遭遇。まだ在庫があればと思い立ち、特約店のある松本まで急遽車を走らせました。残念ながら最後の一本を押さえることは叶わなかったものの、前の週には出ていなかった「明鏡止水」の限定品を手に入れて、結果として無駄足にはなりませんでした。
単なる蛇足で終わらなかったのは、前の週以上に印象的な場面が続出したからでもあります。その一つが木曽福島から高山にかけての車窓でした。いつまでも明るい西の空を追いかけつつ、交通量のほとんどない国道をひた走って県境を越えると、やがて視界が開けて空が広がり、針のように細い上弦の月が浮かんでいました。その月が徐々に沈んでいくのを追いかけながらさらに走り、高山へ着くと同時に暗くなるという顛末です。
翌日の車窓がこれまた勝るとも劣らないものでした。ただ晴れただけではなく遠景も鮮明で、木々の緑がより鮮やかに感じられました。国道をそれ、荒れた舗装の山道を延々走っていき、ようやく視界が開けた先に現れたのが、残雪を被った御嶽山です。さらに、県境の先にあった八重桜がまだ咲いており、少し離れた場所では前回気付かなかった満開の八重桜まで咲いていました。その後木曽から峠を越えて伊那谷に下り、伊那公園の夫婦桜と月が重なる光景をしばし観賞した後、杖突峠の頂上付近に残っていた八重桜を眺め、これを最後の花見としたのでした。
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