日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 21:02:41 | 居酒屋
雨の中を歩いて「独酌三四郎」にやってきました。教祖が幾多の著作で絶賛してきた名店中の名店ですから、不肖私が今更多くを語る必要はないのかもしれません。しかし、この店について、教祖が言及していなかったことが一つあるのに気づきました。それは意表を突く店の佇まいです。
駅前の宿を出て「2条通5丁目」という所在地を手がかりに歩くと、向かって行くのは呑み屋街とは違う薄暗い市街でした。たしかに何軒かの呑み屋がまばらに散らばってはいるものの、以前歩いた呑み屋街とは明らかに違う場所です。半信半疑になりながらもそのまま歩くと、ようやく店の明かりが見えてきます。しかし、これより先には街灯以外の明かりがなく、一軒の呑み屋もないのが一目瞭然です。要は呑み屋街のまさに終端ということで、自力でたどり着かなかったのも無理はありません。仮にたどり着いたとしても、店先に品書きも何もないこの店に、何の手がかりもなく飛び込むことはできなかったでしょう。教祖が紹介する名店の中にも、店構えからして期待できるところと、事前に知らなければおよそたどり着かないところがあります。この店は明らかに後者の部類です。
実は、この店を訪ねるにあたり、一つだけ懸念していたことがあります。教祖が激賞し、口コミサイトでも全国トップクラスの高得点を叩き出す有名店だけに、たとえば秋田の「酒盃」のように予約満席という事態にならないかというのが一つです。仮に入店できたとしても、道外から来た一見客でカウンターが埋まっていたとすれば、これまた興ざめというものでしょう。わずかに開いた障子から中をのぞくと、平日の少し遅い時間ということもあるのか、少なくとも小上がりについては先客の姿がないようです。とりあえず前者の事態だけは回避できると一安心して暖簾をくぐりました。

北国らしく二重になった玄関をくぐると、まず見えるのが左手にある畳の小上がり、次いで飛び込むのが、分厚い白木の一枚板を奢った右手のカウンターです。ここから先は教祖がつぶさに語ってきたことなので繰り返しませんが、それでも百聞は一見に如かずと思ったことがあります。カウンターの一番手前に三つの竈がL字型に並んで、右は炉端、左は燗付け場となっており、そこが店主の仕事場となっているのです。しかもこの燗付け器というのが、見たこともないような風変わりなもので、羽釜の蓋の代わりに丸い穴をいくつも穿った銅板を乗せ、穴の一つ一つに酒器を落とし込んで燗をするという仕掛けになっています。その酒器の独特さについては教祖の著作で何度も語られてきたことですが、果たして現物は一見醤油差しのような焼締の器で、たしかに他の店では絶対に出会わないであろう唯一無二のものです。酒器は先代店主が京都の骨董品屋で掘り出したものだといいますから、おそらくこの燗付け場も酒器に合わせて設えたのでしょう。長年の煙と油で燻されたこの竈周りで、店主が仕事をこなすのを眺めるだけでも楽しいものがあります。
座布団敷きのベンチシートと止まり木を合わせたカウンターは、十人弱掛ければ一杯といったところで、奥にも同じ造りのカウンターがもう一本あるようです。しかし、この店の特等席はなんといっても店主の前でしょう。一見にもかかわらずその特等席にいきなり陣取ることができたのですから、まさに僥倖だったということになります。

木の皮に筆書して束ねた品書きには、北海道らしさと秋らしさが随所に表れ、店の造りと同様眺めるだけでも楽しめます。その中からまず選んだのは〆さんまです。秋の北海道といえば秋刀魚の刺身という素人考えの裏をかいたこの品ですが、実際箸をつけると、酢で締めることにより秋刀魚のくどさが和らぎ、酒の肴としてはむしろ合っているということに気付きました。簡素ながら上品な器と盛りつけも、割烹の華やかさとは一線を画す、やはり正統派の居酒屋といった感があります。このように、酒との相性を考えて一つ一つの品を作り込むのが、「独酌」の看板を掲げる所以なのでしょう。竈の炭で野菜を直に焼くところは北海道らしく、これまた眺めていて楽しいものがあります。店の造り、品書き、仕事ぶりのどれをとっても北海道らしさが随所に滲み出て、眺めるだけでも楽しめるという点で、ここが道内屈指の存在だということだけは間違いがないようです。

ただ一つ難癖をつけるとすれば、あまりに完成度が高すぎるということでしょうか。もし自力でここを発見したとすれば、一生通い続けるほどの愛着が湧いただろうと推測します。しかし、「北海道一」との評判を事前に聞き、元々の期待感が高すぎるため、その期待をも上回る感動まではなかったというのが率直なところでした。この店のよさを理解するには、一度訪ねただけでは足りず、二度、三度と足を運ぶ必要があるのでしょう。明日からは、道北を二、三日旅して旭川に舞い戻ってくるという展開が予想されます。もしそうなったときには、再びこの店の暖簾をくぐることになるかもしれません。

独酌三四郎
旭川市2条通5丁目左7号
0166-22-6751
1700PM-2300PM(日祝日定休)

風のささやき・冽・麒麟山
お通し
〆さんま
鰊飯寿司
焼き茄子
宗八焼
きのこ汁
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 20:34:44 | 北海道
滝川からは12号線を淡々と走って旭川に着きました。気温は14度と昨日に比べて若干下がっています。それはまあよいのですが、ともかく午後は本降りの雨が続いて興ざめしました。最新の予報では明日の昼まで降るそうで、まったく飽きもせずよく降るものだと思います。この雨の中機材を担いで歩くのは現実的でないため、今夜は手ぶらで呑み屋街に繰り出します。

道北最大にして道内第二の都市である旭川ですが、近年は意外なほどに縁遠く、宿泊するのは六年ぶりのことです。当時は旅先の酒場で呑むという習慣も確立しておらず、呑み屋街を一周してめぼしい店を物色したものの、結局これといった店には出会えなかったという記憶があります。後に教祖の導きもあり全国各地の名酒場を訪ね歩くことになったわけなのですが、その間旭川は素通りを繰り返してきました。
「居酒屋密度」という教祖の言葉を借りれば、北海道は釧路を除き必ずしも居酒屋密度の高い土地ではありません。旭川も例外ではなく、心当たりは教祖が「北海道一」と激賞する「独酌三四郎」のみです。一軒だけが突出しており、他にめぼしい店がほとんどないという点では、名古屋の「大甚本店」や秋田の「酒盃」に通じるというのが、六年前の経験を踏まえた印象です。よって、まずは手堅く「独酌三四郎」を攻め、余力があれば自力でもう一軒という展開を想定しています。果たして先入観は覆るでしょうか。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 17:22:04 | MOS
滝川で再び12号線に戻りました。道中二軒目のMOSに寄ってから旭川へ向かいます。
昨日訪ねた新琴似店と同様、この店舗には思い出があります。ここを訪ねたのは新琴似店を訪ねた翌年、自身二度目の北海道へ渡ったときのことです。六月の中旬というおよそ旅行客がいないであろう時期を狙った、全十日間の旅でした。「はまなす」で北海道へ上陸し、三時過ぎには明るくなる東の空に鮮烈な出迎えを受けた後、一日活動して滝川までたどり着き、網走行の夜行列車を待つ間に立ち寄ったのがこの店なのです。
しかし、汽車旅の途中に立ち寄ったからといって、駅前の店舗などではありません。この店があるのは駅から3kmも北上した国道沿いです。滝川駅で降りたときにはバスの終車もとうの昔に出ており、自分は駅からMOSまで延々歩いて往復するという酔狂なまねを働いたのでした。あまりの遠さに最後は時間の余裕がなくなり、小走りで駅に戻ったのを昨日のことのように記憶しています。

そんな思い出深いこの店ですが、二十年近くの時が流れた今も、赤看板が緑に変わった以外は何一つ変わらず健在でした。強烈な個性を放つ新琴似店を訪ねた翌日だけに、箱形の外観は遠目には平凡にも感じられるものの、五角形のファサードを造り、そこに"THE MOST DELICIOUS HAMBURGER"の切り抜き文字を掲げるところは心憎いものがあります。道路に面したファサードの左側には三角屋根の塔が建ち、塔の下にはこれまた三角形をした明かり取りの窓が開けられて、吹き抜けになった天井へつながるという仕掛けです。緑色を基調にしつつ、赤の縁取りを効果的に使った色彩も秀逸。玄関をくぐれば、タイルで飾りステンレス焼き付けのMマークを貼り付けたレジカウンター、ニス塗りのテーブル、天井から下がった球形のランプシェードなど、全てのものが昔のままでした。
そして何より特筆すべきは、店主が自ら店頭に立つことです。今時ドライブスルーもない手狭な店舗では、レジカウンターで車のナンバーを聞き、でき次第駐車場へ受け渡しに出向くという昔ながらの方法でテイクアウト客がさばかれていきます。そんな人間臭さを含めて秀逸というほかありません。店舗の質の低下に歯止めがきかず、MOSの居心地よさが急速に失われつつある今日、古きよき時代の名残を伝えるこの店舗には、店主ともども末永く活躍してほしいものです。

モスバーガー滝川店
滝川市二の坂町東2-2-2
0125-24-8877
1000AM-2200PM
第819号
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 16:11:01 | 温泉
12号線から275号線に入ったところで一風呂浴びます。本日立ち寄るのは「うらうす温泉」です。
国道沿いに建つレストラン併設の日帰り温泉は、平日ということもあるのか今一つ活気がありません。しかし、昨日の「北村温泉」にもひけをとらない塩辛い源泉はなかなか個性的です。窓の外には鶴沼が広がり、晴れればどんな眺めかと想像させられます。畔にはキャンプ場もあり、雨さえ降らなければここで一風呂浴びてキャンプをするのもよさそうです。
雨に打たれた人影もない公園に、荷物を満載した自転車の旅人が現れ、小休止の後去っていきました。彼は今夜の雨をどうやってやり過ごすのでしょうか。道中お気を付けて…

★うらうす温泉
樺戸郡浦臼町字キナウスナイ188
0125-68-2727
1000AM-2100PM
入浴料400円
泉質 カルシウム・ナトリウム-塩化物強塩泉(弱アルカリ性高張性低温泉)
泉温 25.2度
pH 7.2
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 14:54:21 | 北海道
雨が予報通りに本降りとなって、いよいよ打つ手がなくなってきました。どうやら今日はこのまま旭川で淡々と走りきるしかなさそうです。しかし、はるばる北海道へ来たからには、高速で直行する手はありません。適度に寄り道しつつ一般道で北上します。
朗報なのは、今日の時点で天気予報が上振れしたことです。この雨が明朝までに上がると、道内滞在中はおおむね晴れると予想されています。もちろん再び下振れする可能性もあるとはいえ、こちらにとっては願ってもない展開になってきました。天気予報に一喜一憂する日々がもうしばらく続きそうです。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 14:13:53 | 北海道
北海道に二十年来通い続けて、今回ようやく気付いたことがあります。美唄では南北が「条」で東西が「丁目」になるということです。つまり、札幌をはじめとする道内の主流派とは逆で、帯広と同じになります。どのような経緯でこうなったのでしょうか。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 13:35:30 | B級グルメ
美唄市街に入ったところでセイコーマートが現れたため、ここで遅い朝食兼昼食をとります。本日は性懲りもなくホットシェフのフライドチキンとフライドポテト、それに100円パスタの三点セットです。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 13:07:38 | 北海道
案内板を頼りに進むと、市街から外れたところにかつての鉱山事務所らしき建物が現れました。背の高い木造平屋をL字に二つ並べて棟続きにしたもので、北海道にしては珍しい大きな窓と、半切妻のファサードに三つ並んだ菱形の装飾が、かつての栄華を物語っているようです。建物は今なお事務所として盛業中。ここに限らず、道央の炭鉱町は寂れながらも今なお人々の生活臭を放っており、完全な無人と化した道北道東の炭鉱にはない、不気味さとは違う哀愁とでもいうべきものを持っています。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 12:33:06 | 北海道
国道から離れて南美唄の町に立ち寄ります。炭鉱で栄えた時代も今は昔、うらぶれた市街は「兵どもが夢の跡」の言葉をそのまま形にしたかのようです。町の中心だったとおぼしき場所には、三角形のファサードに「幼」の文字をあしらった古めかしい建物が。その名も「三井美唄幼稚園」といい、折しも今春限りで閉園したとの張り紙が掲げられています。住民への感謝を伝える文面が、今日の曇った空の下ではなおさら切なく感じられてくるようです。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 12:04:34 | 旅日記
名建築はないと申しましたが、光珠内の駅はなかなかのものです。切妻屋根が急傾斜で立ち上がり、壁面と屋根とがほぼ一対一に見えるという個性的な外観を持ち、ファサードと車寄せの意匠も独特。妻面にはストーブの煙突が顔を出し、見上げるような高さの屋根へ向かって伸びます。さらに裏手へ回れば、その屋根が車寄せと同じ意匠で雁木のように張り出すという凝りようです。風雪にさらされやや荒れたところにも、むしろ味わい深さが感じられます。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 11:47:49 | 北海道
沿道の駅に寄りつつ12号線を北上します。昨日の小樽や銭函ほどの名建築こそないものの、駅前に立つ農業倉庫、金属葺きの三角屋根をかぶった民家に商店など、ここは北海道だと一目で分かる点景が秀逸です。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 11:16:23 | 北海道
三年前の花見で世話になった地元の御仁を訪ねてから三笠を出ます。気温は少し上がって18度、曇り空は相変わらずながら、傘も要らない程度の小雨が時折降るだけなのは助かります。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 09:32:08 | 北海道
小雨が降る中、一晩滞在した萱野駅を後にします。駅舎が修復されて十二年、漆喰壁など若干痛んだ箇所はあるものの、外観、室内ともによい状態で、今なお入念に手入れされているのはまことに喜ばしいことです。復路もおそらく空知を通ることになります。そのときは秋晴れの空の下で再会したいものです。
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色づく秋の北国へ 三日目

2013-09-30 08:52:18 | 北海道
おはようございます。道内二日目の朝は、どんより曇った空の下で目覚めました。気温は15度と引き続き暖かく、少し前から小雨が降っています。残念ながら天候の崩れが早まったようです。
最新の天気予報を確認すると、残り六日の滞在時間のうち、今日からの三日間が雨、翌日が曇で、最後の二日が晴れるということになっています。気候は日ごとに寒くなり、長雨が去った頃には最低気温が5度前後にまで下がるようです。秋から冬への移り変わりを目の当たりにすると思えば、この時雨に打たれるのもまた一興といったところでしょうか。昨日は最高とは行かないまでも上出来の部類だったので、この予報通りに天気が巡れば、少なくとも痛み分けということにはなるでしょう。何にしても早いところ回復してくれればよいのですが。

このように、本日は天候面ではおよそ使い物になりません。どんなに北上しようとも降り出しが遅れるだけで、冴えない空模様はどこへ行っても変わらないと予想されるため、一気に北上してこの雨を避けるという積極策にもさほどの効果はなさそうです。その結果、今日は適度に寄り道しつつ旭川へ向かい、早々に投宿して呑むといった展開を考えています。まっすぐ走れば100kmばかりの短い距離とはいえ、空知の炭鉱を中心に見所はいくつもあり、温泉なども交えれば、それなりに楽しむことはできるでしょう。
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