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星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

御園座 五月花形歌舞伎 夜の部「夏祭浪花鑑」(2)

2010-05-30 | 観劇メモ(伝統芸能系)
備忘録(1)からのつづきです。

<大 詰 長町裏の場>
花道から出てくる団七。汗をかきかき駕篭と義平次に追いつく。
橘三郎さんの義平次も浪花花形のときと同じ。
橘三郎さんと愛之助さん、二人の関西弁ネイティブによる流れるような言
葉の応酬がスコン、スコンと決まって関西人の私は実に心地いい。
カンペキな二人にカンペキに感情移入してしまい、どっちの言い分にも頷
くほどだ。ここでちょっとでも違和感を感じたら気持ちが引いてしまう。
そこにときどき歌舞伎らしい、ゆっくり重厚な台詞回しが混じる。
スバラシイ~!!

団七が駕篭をもどして欲しいと懇願するが、それが面白くない義平次。
何か言うたびにイチイチ返ってくる言葉や態度の憎たらしいこと。
暑いなと言いながら腰を落とし、団七の目の前におしりを突き出し、その
下からあおいで風を送ったりもする。
団七は世話になった舅を終始立てながら、堪えながら、謝ったり懇願口調
になったり、なだめたり。懇願するときは一段と声が高くなっている。
(堪え忍ぶ顔が楽しみになったのは、この演目からかも♪)

石をお金に見立てることを思いつくところも、流れがよくわかった。
義平次に蹴飛ばされた団七は、思わずそこにあった石を投げようとする。
が、ふとやめて、手の中で石をころがし、その重みを確かめている感じ。
その後に口調を変えて明るく義平次に話しかけた。
みんながたのもしで集めてくれた金がここにある、と。

義平次が駕篭を戻した後、嬉しそうな顔をして団七に金をねだるが、団七
は最初のうちははぐらかして知らんふり。
で、「その金は?」「その金は」「その金は?」「その金は・・・ここに
はござりませんわいー」と大きくゆっくり吐き出す。その顔は観念したよ
うにも泣き出しそうにも見えた。

もう1つよくわかったのは、なんで雪駄が使われたのか。
団七が後帯に刺していたから。イヤでも目につくわなあ。
自分でさえわらじなのに、なんでお前が!自分に向かって説教口調で諭し
たり、騙したりする団七への腹立たしさの塊がこの雪駄。
その思いをこめた雪駄で叩かれ、団七がいたた、と顔を覆った手をみれば
血が! 思わず刀に手をかける団七。
親じゃぞよ、斬るなら斬れ!と義平次に言われ、斬りゃしません、と。
(また堪えている。)









↑ 十三世片岡仁左衛門著『夏祭・伊勢音頭』よりイラスト部分を撮影


もみあううちに、義平次の肩から血が。
人殺し!と叫ばれた団七は咄嗟に義平次の口をおさえる。で、ふと自分の
刀を見ると血? 暗いせいもあってか、義平次と刀を交互に何度も見ながら
血を確かめている。
このとき初めて殺意がわいたのか、団七。
さっきまで堪えたのに、とうとう義平次を本気で刺してしまう。

その後、義兵次ともみあい、絡み合う一連の動きが、一つ一つ型となって
美しい見得が連続するこの場面。
いつのまにか団七の頭がザンバラになって、凄惨さが増す。
団七は義平次に帯を解かれ、着物がはだけて刺青と赤の下帯が現れる。
ってことはおみあしも大胆に見せちゃう。
(・・・のだけど、アレ?痩せた?今回は席が遠くて横から見てるから?
たしかもう少し古典的な体型だったと思ったけど。えらいカッコよくなっ
てるじゃないのぉ~っ!)

それに前回は気づかなかったけれど、義平次と井戸をはさんで向かい合う
ところで、逃げる義平次を刺そうとする団七が笑みを浮かべている。
うそっ、ゾクゾク。
あの油地獄の与兵衛と同じだ。義平次をもてあそんでいる。
団七にそんな瞬間があったのか。
選択肢のない切羽詰まった殺意から、いま狂気が芽生え始めている。
そんな刹那、刹那に見せる見得にはエクスタシーさえ混じり、劇場全体が
熱い高揚感に包まれてゆく。
なんて、なんて美しいんだろう・・・♪
花道七三の見得では大きな拍手がわき起こる。

しぶとい義平次は泥場に落とされても何度もよみがえる。
団七の足をつかんであがってくるときの不気味さ。
見方によっては喜劇にも見えるのか、殺人事件の真っ最中だというのに、
客席からは遠慮のない笑い声が何度か起きた。

だんじりがだんだん近づいてくる。早う、早うトドメを!
お囃子に合わせ、義平次の体の上でくるっと半回転。もう1回。
真上からグーーーッと一気に留めをさす団七。ここでも見得がキマル。
ひゃあ~、かっこえええええ!

はっ、だんじりが来る。死体はどうしょう? そや、泥の中へ!
蹴落とす団七。だんじりが来る、来る。自分は泥まみれ。
刀をいったん後ろに放り投げ、井戸のそばへ。
水をくみ、豪快に本水を2回かぶって足を洗う。足の次は刀。
近づくだんじりを気にしながら、刀を洗う。水をかけただけでは血糊が
とれないのか、何度もしつこく刀を振って水を切り血を落とす。
ようやく鞘におさめようとするが、手がブルブルふるえて入らない。
二度。三度。刀のふるえる音が大きくなる。
こんどは鞘を足にはさむ、が刀と交差! だんじりが来るよーーーっ。
ようやく両手で鞘におさめた瞬間、じゅわーっ。
感極まって涙が出ちゃった、私。
汗もべっとり、血のようにまとわりついていた。

スッと、後ろにある自分の浴衣をとって着直す団七。
なだれ込むだんじりの一団。ふう~っ。
ザンバラの髪を隠すため、手ぬぐいを抜き取りほおかむり。

花道のほうへ行きかけて向き直り、泥場(の義平次)に向かって言う。
この台詞回しが、耳に残っている3年前の言い方と少し違っていた。

「わるいひとでも舅はおや~」
ここは関西弁のイントネーションのまま歌舞伎の言い回しになっていて、
ゆっくり聞かせる感じだ。
「おやっどん」で高く言うのは同じ。一番違うのは次。
「ゆるしてくだんせー!」が一段と声高になって劇場中に響いた。
すごく感情のこもった台詞になっていてグサッときた。

最後の花道の引っ込みは踊りながら。
いや、手も足も動いているけどメチャクチャ滑稽な動きだよ。
滑稽だけど悲しい。
とうとうお囃子の音とともに行っちゃった団七。観客(私)を残して。


たった一度しか観られなかった。
けど、観られて本当によかった、よかった。
やっぱり、団七が好きなんや、私。
こんどは「お鯛茶屋の場」「内本町道具屋店の場」「田島町九郎兵衛内
の場」もいっしょに。
ていうか、とにかくどんどん上演を重ねていってほしいな。
また近いうちに『夏祭浪花鑑』、きっときっとお願いしますよ!
You'll be back. 団七は愛之助さん♪


御園座 五月花形歌舞伎 夜の部「夏祭浪花鑑」(1)(このブログ内の関連記事)
御園座、五月花形歌舞伎に大興奮。(このブログ内の関連記事)


●2007年浪花花形歌舞伎の「夏祭浪花鑑」関連
浪花花形歌舞伎  観劇メモ(1) 2007/4/6
浪花花形歌舞伎  観劇メモ(3) 2007/4/13
感動的な千穐楽カテコ@浪花花形歌舞伎 2007/4/8
愛之助さんの団七@産経新聞夕刊 2007/4/7
団七九郎兵衛@朝日新聞夕刊 2007/4/11
浪花花形歌舞伎@日経新聞夕刊 2007/4/17
(以上、このブログ内の関連記事)
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Unknown (puspitasari)
2010-05-30 12:32:47
(1)(2)を通して読ませていただきました。
今日は家で持ち帰り仕事をするつもりだったのですが、すっかり仕事をする意欲が失せました。ムンパリさんのせいです(笑)

もう一度「夏祭」を観た気持ちになっています。思い出して胸が熱くなってきました。

>滑稽だけど悲しい。

そうなんですよ。滑稽であればあるほど悲しく切ない気持ちになります。

細部まで詳しく、そして「愛」にあふれたレポありがとうございました。
返信する
puspitasariさま♪ (ムンパリ)
2010-05-31 01:34:11
超長文におつきあいいただき、こちらこそありがとうございます!
しか~し、お仕事に支障が?
プレイバックさせてしまい申し訳ございません!(笑)
でも、それが目的なんですよーーー! えへ。
前回もこの作戦で3年前の舞台を思い出すことができましたから。

puspitasariさんも今回はリピートされたし、ブログにもアップ
されたので、お囃子の音とともに団七の太腿♪・・・もといっ!
団七の美しい見得をいつでも思い返すことができると思いますよ。

十三世から受け継がれた大切なこの役を、これからも「愛之助さんの
もの」として、大事に上演を重ねていってほしいですね。

花道会歌舞伎セミナーが早くも満員御礼となっているのは
団七のせいでしょうかね♪
返信する
ありがとうございます!! (おばおば)
2010-05-31 01:58:30
詳細なレポ、拝見いたしました!
お疲れ様です&ありがとうございますm(_ _)m
目に浮かぶよう…といっても想像するしかないのがなんともやるせないのですが…またいつか拝めることを切に願います(TT)

団七といえば、私が歌舞伎を見始めた「第一次マイブーム」の頃、当時「花形」であった勘九郎さんが演じられていたのでそのイメージが強かったのですが、やっぱり大阪ネイティブが演じるのが一番!!と思い直した次第です。(「義賢」も松嶋屋さん以外が演じるのって想像できない!!と私個人は思っていたりします^^;)
返信する
おばおばさま♪ (ムンパリ)
2010-05-31 02:31:41
自分のための覚え書きなので、いつも長くて・・・。
お読みいただきありがとうございます~♪

これは間違いなく愛之助さんの持ち役の筆頭として、これからも
上演され続けることと確信しています。キッパリ♪
ただ若ければ若いほどよりリアルだと思いますのでお早めに!(笑)

いまや勘九郎さんの「夏祭浪花鑑」は、国内にとどまらず
世界的にも有名な公演になりましたからね。
勘九郎さんの団七しか見たことがないっていう人は多いと思います。
演劇としての完成度もエンターテイメント性もありますし。

愛之助さんの団七はなんてゆうか、上方の歌舞伎の匂いです。
本公演は今回が初めてだったので、これから一気に全国区へ!
すぐまた見られるとイイですね♪
返信する
こんばんは (桜扇)
2010-06-06 21:25:54
誰に聞いても愛ちゃんの団七は良かったみたいですね~。

7月の松竹座でも上演されたらいいのになぁ…。
季節といい、場所柄といい、役者さんといい、これ以上ないくらいピッタリなのに…

いつぞやは真夏に七草摘みの舞踊をやったりしていたでしょう?
松竹さんにはもう少し季節感とかを大事にして欲しいなぁ、と思うんですけどね。
返信する
桜扇さま♪ (ムンパリ)
2010-06-07 00:01:57
愛之助さんの団七は今後も見る機会がきっとあると思いますが、
松竹座では一度やっているので、どうでしょう?
むしろ博多のほうが可能性は高いかも・・・ナンテねー。
新しくなった歌舞伎座でも上演していただきたいし。
しかし、通しでは大阪で一番にやってほしい気がします。
うわ、勝手なこと書いてすんまそーん!
7月、9月は来られるのですよね!
また今年も暑い夏、熱い劇場になりそうですね♪
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