星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

浪花花形歌舞伎  観劇メモ(3)

2007-04-13 | 観劇メモ(伝統芸能系)

 公演名 第四回 浪花花形歌舞伎
 劇場 大阪松竹座
 観劇日 2007年4月8日(日) 
 第三部 19:00開演 21:00終演


浪花花形歌舞伎
第三部  夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)


団七を演じた役者さんはもう違う舞台で別の人になっているけれど、私はそっち
に行けないから、まだここに(笑)。
時間がたってもまだ時々、祭り囃子の音が聞こえる。
明るい祭りと陰惨な殺しをセットにして、ドラマチックに見せてしまうこの演目
の手法、今回ナマで観ていっそう好きになった。またいつか観たい。
2回目の感想はサラッと書こうと思ったのに。
この舞台を観られなかった友人に伝えたいのと、自分で脳内再生するために、少
し詳しいメモを残しておくことに・・・。

千秋楽の舞台もテンポよく進んだ。
思いがけないカテコを入れても終わったのが9時ちょうどだったから。
客席の反応もよく、1回1回の拍手も大きかった。
それに前方席で見たせいか、楽はズッシリ重みもあった。
「ハートで団七になりきれれば」という愛之助さんの言葉通り、男伊達の世界に
生きる若い団七が、ほんとにそこにいると思わせてくれた。

<あらすじ>
堺の魚売り団七九郎兵衛は、喧嘩が元で相手が死んでしまったため死罪になると
ころを玉島兵太夫の計らいで赦免される。
その恩人の子息玉島磯之丞とその恋人の琴浦の世話をし二人を守ろうと、団七は
女房お梶や一寸徳兵衛、その妻お辰らと奔走するが、欲に目がくらんだ舅義平次
の奸計により、琴浦をさらわれてしまう。長町裏で義平次に追いついた団七は、
言い争いの末、心ならずも義平次を殺めてしまう。折しも高津宮の夏祭りの日。

<序幕 住吉鳥居前の場>
牢から出てきた団七。つきそいの役人に言うあの「ありがとうございます~」の
神妙な渋い声。住吉鳥居前で迎えてくれた三婦とご対面して「よかったよかった」
と子供のような声を出して二人喜び合う時との落差がメチャメチャ楽しい。
年齢は相当違うようだけれど、男伊達二人の太い結びつきがここでうかがえる。

髪も髭もボウボウ、体もポリポリかいている団七。三婦にうながされて髪結い床
で身支度をし、再び登場。(すごっ、きれいな顔や~♪♪ ここで大きな拍手が。)
団七の白地の浴衣。上は紫色の銀杏で、裾にあった橙色の文字も「松嶋屋」と
ちゃんと読めた。(教えて頂いててヨカッタ♪ これは3階からでは読めない。)
ゆったり開いた浴衣の衿に手をやって直す仕草がまた色っぽい。

薪車さんの磯之丞、育ちのよさ、頼りなさが出ていて楽ではいい感じだった。
これに柔らかい色気が加わればもっともっといい感じになると思う。
その恋人の琴浦(千壽郎)はちょっと気が強そうに見えてそこがかわいい。
孝太郎さんのお梶、団七の世話を焼くのが嬉しそう。親子3人の絵がすごく自然
に見えた。団七がオンブする市松役の子役さん、睫毛が長くてホントにかわいい。

亀鶴さん演じる一寸徳兵衛、若くてちょいとカッコよくて、団七とは違った色気、
男気が漂う。団七と喧嘩する時に「俺はこうする」「俺はこうくる」と二人で交
互に台詞を言って渡り合うところが面白い。
二人の目的が一致するとわかるや、すぐに兄弟の義を結ぶのが男伊達なのか(笑)。
いわば、職無し徳兵衛と、もと宿無し団七の契り。片袖を「ちぎる」と「契る」
を掛けているのかどうかは私にはわからなかったけれど(笑)。

<二幕目 難波三婦内の場>
祭りを仕切るのは男の仕事。男伊達の出番やねっ!
そうそう。この日は獅子舞が、三婦の玄関先の献灯の花飾りを落として行った。
外から帰った三婦がそれを拾って「誰かいな。こんなものを落としたんは」と
アドリブで対応し、自分で灯明に飾り直していた。(三婦ちゃんっ ♪)

とにかく大人の心意気を見せつけられる三婦内の場。
なかでも徳兵衛の女房、お辰にはしびれっぱなし。(こんな女になりたくてなれ
ないから、芝居を見てるんだなあ~と、自分の侠気願望に突然気づく。笑。)
大坂に置いておけない事情ありの磯之丞をお辰に預ける、預けないの話になり、
預からせてほしい、とお辰。預けられない理由はお辰の色気だ、と言う三婦。
お辰はそれを聞き、魚を焼く鉄弓を自分の顔に押し当てる。
(扇雀さんのお辰。くっきり火傷がついた自分の顔をお盆に映しみて、一瞬か
すかな笑みを浮かべるのにはゾクッとした。)
そんなお辰の心意気に感心し、預ける決心をする三婦。
佐賀右衛門が琴浦を連れ去ろうとし、そのやり方が我慢ならず、身につけてい
た数珠を引きちぎって喧嘩に出かける場面がやたらカッコイイ!!
それを見た女房のおつぎが、惚れ直したよ、「成駒屋ーーーっ!」と声をかけ
るところが素敵。(夫婦二人で話している時のおつぎ、ほんとにカワイイ。)
お辰の顔の事を心配し、ご亭主に叱られないかとおつぎがお辰に問えば、亭主
が自分に惚れたのは「こっち(顔)じゃござんせん。こっちでござんす!」と
胸をたたいて花道を引っ込むお辰に「成駒屋ーーーっ!」。拍手、拍手~。

そこへ喧嘩から帰って来た三婦、団七、徳兵衛の男伊達3人。
団七がおつぎと二人になって話し始めたところ、舅の義兵次がおつぎを騙して
琴浦を駕篭に乗せて連れ去った事が発覚。団七、大急ぎで追いかけるーーーっ。
と思いきや、おつぎが急に倒れ込み、団七、行く? 止まる。行く? 止まる。
薬がここにあるから飲んで!と自分の煙草入れをポーンと投げ、今度こそマジ
追いかけるーーーっ。

<大詰 長町裏の場>
さて。ここからが愛之助さんの団七のまぶしいほどの魅力全開!!
さらわれた琴浦を奪い返すのにひとっ走り。長町裏で義兵次に追いついた団七。
(ゼイゼイハアハア~)
駕篭に乗せた琴浦を戻すよう懇願するのだけれど、これでひと儲けしようと企
む義兵次は全く相手にしようとしない。それでも決して力づくで奪おうとはせ
ず、舅である義兵次を立てながら懇願し続ける団七。悪態をつかれ罵倒されて
も、とにかく駕籠さえ戻してもらえればの一心で堪えている。
(この堪え忍ぶ顔、ベリーベリー愛之助さんらしいです。くう~~~っ!!)
義兵次は強欲かもしれないけれど、どこが面白くないのか言っていることは私
は理解できる。宿無しのロクデナシの団七を拾って世話をした恩も忘れて、何
が玉島様への忠義や! 自分一人りオイシイ思いをして。ワシの娘まで女房に
しておいて。ウンヌン。貧しさゆえに心が荒んでいるのもよ~くわかる。
そういう最底辺の人間の感情を延々としゃべらせるのに上方の喧嘩言葉はあま
りにピッタリはまる! 関西弁をこんなに味わいながら聞いたのは初めてだ。
だから、いっそうわかった。ひたすら耐える団七の気持ちが。それがあきらめ
に変わり、嘘を思いつかせ、やがて一線を越えそうになるのが。
ここにお金があるから駕篭を戻してくれと、石を拾って作った包みを触らせ、
駕篭を戻した後にそれが嘘とバレ、義兵次に雪駄で顔をはたかれる。
「いったぁ~! あいたた・・・」と額に手を当て、手についた自分の血を見
て本能的に刀に手をかけてしまう団七。
それを見て煽る義兵次。「斬るなら斬れやいっ!」「なんで、俺がそんなこと
するわけないやろ。なっ。俺がそんな・・・」。必死に自分の気持ちを納めよ
うとする団七。ここでもまだ一線だけは越えまいとして。
なのに、偶然、肩を斬ってしまったことがわかり、「しもたー!」と叫ぶ。
ここで団七の手がブルブル震え出すのはやってしまったことが恐ろしいんじゃ
なく、その瞬間に初めて舅を殺す決意をしたからだと思えた。
一種の武者震いなのか?

そのあとの殺しの見得。美しかったし、その形相がまたすごかった。
見得を切る時の、声とは呼べない地鳴りのような唸り声も間近で聴いたっ。
印象に残っているのは、義兵次の膝の上に自分の右足を乗せて見得を切るとこ
ろ。その足を義兵次にとられて海老反りのような格好に。着物の帯をクルクル
解かれてしまうのはここらへん? 着物を引っ張られて脱げ、白い肌に入れた
刺青と赤い下帯が現れ、ホンマもんの侠客の姿が一気にさらされる。(ここ、
赤と青と肌の白の3色がきれい~。古典的日本男児な体型も微笑まし~ ♪)
井戸に逃れて、手桶をくくりつけた竿を持って見得。ちょっと動いて、右片足
だけで鶴のように立って見得。もみ合って泥池にはまった義兵次に向かって止
めを刺そうとして、池の淵にすわったまま見得。(これが新聞掲載の写真。)
花道に出て来て、足を前後に大きくとって切る時は客席が特にわく。
最後、止めを刺す前。義兵次をまたいだまま、近づいてきたお囃子に合わせて
くるっと半回転、太鼓の音に合わせて調子をとり、またくるっと半回転。それ
がめちゃカッコよくて、岸和田のだんじりを思い出してしまう。
そういえば、泥の池が蓮池なのは河内蓮根のこと? などとフト思ったり。

止めを刺した後、迫り来る御神輿を気にしながら本水をかぶるところ、思いっ
きりかぶる。2回。慌ててはいるけれど足についた泥は忘れず洗い落とす(笑)。
そのまま井戸のそばで刀を鞘に納めようとするが、手が大きく震えて入らない。
左手に鞘、右手に刀を持ったまま二度、三度繰り返すこの動き、大きめ。
仕方ないのでかがんで膝の後ろに鞘をはさみ、両の手で刀を納め、着物をはおっ
たところになだれ込む祭りの群衆。ホッ。「ようさやちょうさ」の掛け声に張
りつめた空気が解ける瞬間。(う~ん、ほんとにうまい構成だ~。)
団七の最後の台詞。
池に沈めた義兵次に向かい「悪い人でも舅は親」と腹の底からゆっくり絞り出
すように吐いた後、頭上で手を合わせて拝みながら「おやっどん!」と声高に
続け「許してくだんせー」で一気に吐ききるように言う。
(このひと声に胸が詰まります~。涙、涙・・・。)
放心状態なのに、ただ走って逃げてもいいのに、群衆に紛れるためにさっき
一団から抜き取った手ぬぐいをかぶり、着物も乱れたまま、メチャクチャに
踊りながら花道を引っ込む団七。悲壮なのにどこかおかしみを感じさせる顔
と背中・・・。お囃子の音がやたら明るいのがたまりませんっっっ(涙。)
完!


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2 コメント

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目撃者 (スキップ)
2007-04-14 02:28:09
ムンパリさま
すばらしいレポですね。一気に読ませていただきました。
愛之助団七の美しくも凄味のある見得の数々が目にうかび、最後の絞り出すようなセリフが耳に甦るようです。
初役なのに持ち役にしたのは確実で、遠くない将来にまた観ることができるとは思いますが、朝日新聞評に西本ゆかさんが書いていらしたように、今この時の愛之助さんが演じる団七はこれきりですから、私たちはその目撃者になれて幸せでしたね。

お辰の「こちの人が好くのはここじゃござんせん~」っていう啖呵、私も大好きです。
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目撃者~♪ (ムンパリ)
2007-04-14 09:30:43
スキップさん、ありがとうございます。
2回観ただけでウロ覚えですが、あとで思い出すのに役に立てばいいなと思います。

目撃者・・・はい、ほんとにそうですよね♪ なんかあらためて感激してしまいますね。
「時分の花」の本当の意味をこの舞台を通じて教えて頂いたような気がします。
大歌舞伎の素晴しい役者さんたちの当たり役もそういう「時分の花」とぴったりきて生まれたものなのかもしれませんね。そんな舞台の一つに立ち会えて本当に幸せです。
花も技もハートもある役者さんとして、私も勉強しながらこれからも愛之助さんをゆるやかに応援していきたいと思いま~す♪ 

> お辰の「こちの人が好くのはここじゃござんせん~」っ
> ていう啖呵、私も大好きです。
あ、それですね! 正しい台詞は(笑)。ほんと! 何度聞いても惚れてしまいますねー!!
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