moiのブログ~日々のカフェ

北欧&フィンランドを愛するカフェ店主が綴る日々のあれやこれや

コーヒーカップ

2005-08-05 23:26:02 | コラム、というか
うずいぶんと前の話なのだが、からだの不自由なおじいさんが来店されたことがある。そのおじいさんは車いすに乗り、しゃべるのもままならないといった状態、当然ご家族の方が介助のため同行されていた。

ホットコーヒーを、ということだったのだが、ご家族の方からの指示でいっしょに空のグラスも添えてお出しした。不自由な手でコーヒーカップをあつかうのは大変だからという、ご家族の方の配慮である。はこばれたコーヒーを、身内の方がコーヒーカップから空のグラスへと移しかえようとすると、おじいさんはそれを拒み、震える手でなんとかしてコーヒーカップから飲もうとがんばった。それはたしかに危なっかしい光景で、ご家族の方ができればグラスで飲ませようとする気持ちも理解できた。

ただせつなかったのは、このおじいさんはきっとコーヒーが大好きなのだろうなというのが、痛いほどこちらに伝わってきたからである。コーヒーが好きなひとにとってなにより大切なのは、コーヒーをどう飲むかということだ。もちろん、あたたかいコーヒーはコーヒーカップで飲むものであって、グラスで飲むものではない。グラスで飲んでは、おいしいコーヒーだっておいしくなくなってしまう、おじいさんはきっとそう言いたかったにちがいない。

こんな光景を目にしておもったのは、からだの不自由なひとのための携帯用のコーヒーカップがあったらよかったのにということだ。本体の形状、材質、重さ、取っ手の位置や形態にじゅうぶん考慮し、しかもデザイン的にも洗練されたコーヒーカップ。家で使えるのはもちろん、外出時はこれを携帯し、お店ではこれに注いでもらえばいい。もちろん、中身を移し変えたとしても「コーヒーのたのしみ」は奪われない。100%満足というワケにはいかないにしても、すくなくともグラスで飲むよりはずっとマシ、そう、おじいさんなら言ってくれるのではないか。