曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  富士そば新宿店(2)

2012年09月07日 | 立ちそば連載小説
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
そしてやおら千円札を券売機に差し入れると、「月見/温泉玉子そば・うどん」のボタンをピッと押す。続いていなりも押そうとしたが、この日はやめておいた。お釣りのボタンを押すと、受け皿に小銭がじゃらじゃらと出てきた。
 
それにしても、富士そばのいなり設置の基準が分からない。このような極小店舗でもこうやってあるし、逆に、ターミナル駅にある広い店舗で置いてなかったりする。少なくとも規模には関係ないようだ。ひと括りに富士そばといっても店舗ごとに運営している会社が細かく分かれているので、その辺の絡みがあるのかもしれない。
 
わたしは食券を差し出しながら「そばで」と伝え、着席した。
「お客さん、玉子はどちらで?」
そうそう、このメニューは玉子も選ばないといけないのだ。わたしは温泉玉子と伝えた。
細長い店内。おひやのポットとコップはカウンターの上だし、店の端には肉そば用の肉がバットに入れられて積まれている。お品書きは貼ってなく、入口にあるポスト様の小箱に、メニューの書かれたB5の紙が入れられていた。スペースの有効活用が進んでいる。
わたしは呼ばれ、そばを渡される。もっとも呼ばれると言っても名前ではなく、「温玉そばの方」という代名詞でだ。
 
温泉玉子をまずは崩し、そして唐辛子をかける。この見た目が好きなのだ。わたしは数秒じっと見つめた後、食し始めたのだった。
 
 
(富士そば新宿店 おわり)