曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  富士そば新宿店(1)

2012年09月02日 | 立ちそば連載小説
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
富士そば新宿店
 
 
夜の街新宿。その伊勢丹本館の横にひっそりと明かりの灯る富士そば。わたしはそこに、ふらりと酔ってしまう。いや、寄ってしまう。
 
ちびちびと末廣亭周辺の店で酒を呑み、駅へ向かおうと明治通りの横断歩道で立ち止まると目に入るのは富士そばの明かり。酒のつまみで腹は満たされているというのに、わたしは吸い寄せられるように入店してしまうのだ。
立ち食いそばは味だけでなく侘しさも同時に味わうものだが、ここはそれを味わうのに適した店だ。なにしろ新宿区に12店舗ある富士そばの中で、最も小さい店舗。ビルに張り付くようにひっそりと存在している。やはり店というものは、小さければ小さいほど侘しさが漂うというもの。
 
それでもここは、「新宿店」。他の店舗は「新宿○○店」とさらなる言葉が付け加えられる。言葉だけで見れば、ここが新宿12店舗の中心店と言っていい。すぐ近くの、靖国通りとの交差点にある店の方が新宿店という名に相応しい規模だが、実際には新宿店は影に隠れるように佇むこの店舗の方。あちらは新宿三光町店だ。
 
狭い店だが券売機は2台。それも店外なので、酔って鈍くなった頭でも気兼ねなく迷うことができる。
わたしが迷っているとうしろに人の気配がしたので、横にずれる。その人はさっと「天ぷらそば・うどん」のボタンを押して券と釣銭を取ると、入店していった。わたしは再び券売機の前に立ち、じっくりとメニューを選んだ。
 
 
(つづく)