吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

マーチン・ファン・クレフェルト『補給戦』(その4)中公文庫 / 2016年6月20日12刷発行

2020-02-28 05:01:36 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護

(承前)←その3に戻って読み直したい人はこの文字列をクリック。

 

4.ロンメルは名将だったのか?

 

※砂漠に立つロンメル将軍

 

 ロンメルの指揮ぶりはつとに有名ですが、この本では補給という観点からその戦略を分析しています。

 ロンメル率いるDAK(ドイツ=アフリカ軍団)については、以前「砂漠のキツネ」という本の紹介で詳細にお知らせしていますので、ここでは過去記事を参照しながら、その戦術の評価を抜き書きしてみます。

 (↓)①~⑪の題名をクリックすると過去記事を参照できます

 

 ①.ロンメル登場~バトルアクス作戦(英)まで

   ヒトラーから攻撃を禁じられたロンメル。だが命令違反を承知で攻勢に打って出る。

   本来は英軍の進撃阻止のための迎撃部隊で、できるだけ小部隊にとどめる計画だった。

 ②.英軍の大攻勢・・・ロンメル敗退す!?

   英軍の戦車1000台による大攻勢が始まる。

   迎え撃つロンメル側の戦車は500台、戦力差は火を見るよりも明らかだったのだが・・・。

   ヒトラーのムッソリーニ援助は、守備範囲を『機動戦のできる広い地域』としていた。

 ③.第二次キレナイカ侵攻

   ロンメルの戦略は冴え、キレナイカに集結した英軍は壊滅した。

   ドイツ軍はムッソリーニを無視して攻勢に出た結果、作戦と兵站の板挟みになって苦しむことになった。

 ④.補給物資の不足に苦しむドイツ軍

   ロンメルの命令は『物資は英軍から調達せよ』だった。

   物資はトリポリに荷揚げされるため、前線まで届ける陸上輸送の距離が膨大なものになった。

 ⑤.ガザラ・ライン攻撃

   ドイツ=アフリカ軍団の危機!命からがらの脱出劇。

   補給の差が勝敗を決する砂漠戦では、輜重部隊の脱落は死に直結する。

 ⑥.トブルク要塞陥落

   戦いの主導権は再びドイツの手に!

   トブルク港を奪取したものの、さらに補給線は東に延びる結果となった。

 ⑦.マルサ・マトルーの戦い

   勝ちはしたものの、あまりに消耗が激しいドイツ=アフリカ軍団。

   英軍の空爆により機能しないベンガジ港とトブルク港。艦船の被害が増大し、前線の物資は常に不足した。

 ⑧.熱砂のエル・アラメイン

   ドイツ・アフリカ軍団は力尽きて砂漠に斃れた。

   嵐のような進撃が補給業務の崩壊を招いた。

 ⑨.最後の大作戦

   ロンメル畢生の大作戦だったが・・・。

   ドイツ軍の暗号が敵に解読され作戦は失敗に終わった。

 ⑩.英軍の大攻勢

   英米に物量の差で敗北するドイツ軍。

   米軍のモロッコ上陸で挟み撃ちの危機に陥るドイツ軍。

 ⑪.ドイツ・アフリカ軍団の最期

   近代戦における最後の一発とは何を意味するのか?

   ドイツ軍は最後まで戦い、残った武器を破壊して降伏した。

 

 この本では『利用できるものが何もない砂漠で、膨大な距離を輸送に費やしたことがドイツ軍の敗因となった』と結論づけています。

 

※北アフリカ全図:荷揚げ港トリポリからベンガジまでの距離は約600マイル、これはポーランドからモスクワまでの距離に相当する。

 

 トリポリ港の荷揚げ能力は低く、ドイツ=アフリカ軍団の需要をとうてい満たせなかった。また、ベンガジ港は英米軍の空爆圏内にあり、その能力は著しく制限されていた。そのため物資は膨大な距離を陸路で運ぶしかなかったのである、と。

 この本での結論は次のようになっています。

 ドイツ国防軍が一部しか自動車化されず、本当に強力な自動車産業によって助けられていなかった以上、また政治的事情のためにイタリア軍という無用の重荷を負わなければならなかった以上、あるいはリビアの港湾能力が低く運搬距離が非常に遠かった以上、ロンメルの戦術的天才をもってしても、枢軸国軍の中東進撃を補給する問題は解決不可能だったことは明らかだ。このような状況下では、北アフリカでは限られた地域を守るために部隊を送るのだというヒトラーの最初の決定は正しかった。そしてロンメルが再三にわたってヒトラーの命令に挑戦し、基地からの適当な距離を越えて進撃を試みたことは誤りであって、決して黙認すべきことではなかったであろう。

 

(つづく)←その5へ進んで読みたい人はこの文字列をクリック!

 

 

 

 


チョウ・ユンファ主演『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』(2020年香港)

2020-02-18 04:08:14 | 映画・ドラマを観て考えよう

 亜州影帝(あしゅうえいてい/アジア映画の帝王)と呼ばれたチョウ・ユンファが完全復活!

 「男たちの挽歌」シリーズで見せたアクションがパワーアップして帰ってきましたっ!

 

※チョウ・ユンファ主演『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』

 

 さあ、こう聞けばもう見ずにはいられませんね。

 

※アルブレヒト・デューラー作『騎士と死と悪魔』

 

 売れない画家レイを演じるのはアーロン・クォック、技術は素晴らしものを持っているのですが独創性がないと酷評され、サッパリ売れません。画商からは『ゴッホは一人だけでいい。二人は要らない』と言われる始末です。そんな彼が贋作に手を染め、デューラーの版画『騎士と死と悪魔』の複製を造ったことから、贋札造りを生業とする通称『画家』(チョウ・ユンファ)に眼を付けられスカウトされます。『画家』の一家は家業が贋札造りで、代々本物と見分けが付かない贋札の製造を行っているのです。

 

※売れない画家レイを『画家』はスカウトする。

 

 この贋札造りがオモシロイ。100ドル札に使われる無酸紙は同等の紙が電話帳に使われていることを突き止め入手、漉きの工程からしか入れられないはずのスカシは三枚の紙をサンドイッチ状に重ねて再現、特殊インクは自動車の塗料から調合できることを発見する。出来上がった贋札は自分たちでは一切使わず、世界中の反政府勢力に売りさばく。レートは20対1、つまり100ドル札1枚が5ドルという(良心的な)お値段。オキテを破った者は家族まで皆殺しという制裁で組織を束ねています。

 

※100ドル札のクローズアップ画像、右下の『100』の文字が特殊インクによる印刷。

 

※襟元にマイクロ印刷”United States of America”の文字が隠されている。

 

 この『画家』を演じるチョウ・ユンファがまことに魅力的、チャーミングな笑顔で平然と殺人を犯す危険人物です。『画家』の父親はロシア人とのイザコザで殺されたらしいのですが、その黒幕が黄金の三角地帯を制する麻薬王であることを突き止めると、取引を装い、麻薬王の『将軍』の一味をマシンガンとロケット砲で壊滅させてしまう。もはやランボーも真っ青のスーパーアクション、二丁拳銃ならぬ二丁マシンガンの乱射はとてつもない迫力です。

 

※チョウ・ユンファが出ると画面が引き締まります。流石です!

 

 いまや贋札工場の中心人物となったレイですが、ふとしたことからタイの警察に拘束され、香港に移送されることに・・・。

 かつての恋人を『画家』一味に殺された女性刑事が、レイから『画家』の正体を聞き出そうとするのですが、警察をも恐れない『画家』が口を塞ぎに来ると信じるレイは証言を拒みます。

 ついに『画家』が姿を現し、警察官に変装して署内に紛れ込みます。その意外な結末は・・・。

 

※『プロジェクト・グーテンベルク』予告編

 

 『ああ、そういうことだったのか!』観ていた私たちもスッカリ騙されていたことに気が付く予想外の結末には、アッ!と驚くことでしょう。オススメします。

 

 

 


神戸海洋博物館がリニューアルオープン!(2020年2月5日(水)~一般公開)

2020-02-11 05:38:52 | 日々美しいものに触れようよ

 リニューアルオープンした神戸海洋博物館に行ってきました!

※メリケンパークからポートタワーを望む。

 

※神戸海洋博物館とホテルオークラ神戸

 

※リニューアルした神戸海洋博物館の内部

 

 開港150年シアターへ向かいます。

※大型帆船模型「ロドニー」の向こう側の壁面に映画とプロジェクションマッピングが映し出されます。

 

 帆船模型の間を抜けるとカワサキワールドがっ!

※おおっ!Z H2がっ!(「↑」は東京モーターショウの写真です)

 そう、東京モーターショウでお目見えした"Z H2"が展示されているのですっ!

 

※正面から見ると何と4眼(!?)ド迫力のフロントマスク

 スーパーチャージャー付で常識外の馬力を絞り出す!

 

※公道を走れるレーサーH2Rもモチロン展示されています。

 

※新型Ninja ZX-250R

 

 さて、ここからはマニア垂涎の名車たちがズラリ!

※ご存知ゼッツー(Z900)

 ニューヨークステーキと呼ばれた正真正銘のこれが本家です。

 

※マッハIV(750)・・・空冷2サイクル3気筒!

 これが『寝ない、曲がらない、止まらない』三拍子揃った伝説のバイク!

 

※Z1000Rですっ!

 ライムグリーンのボディにKERKERのマフラーがそそります。

 

※KZ1000Sはスーパーバイク用レーサーのベースになり大活躍しました。

 

※おおっ!KR500だ!2ストスクェア4気筒のレーサーです。

 バイク好きなら一日じゅう眺めていられるぞ!

 

 で、バイクだけではない。

※ゼロ系新幹線の運転席に座れるコーナーもある!

 

※高精度の鉄道ディオラマ・・・在来線の向こうには新幹線まで!

 バイク好きとテツなら、まる一日遊べます。

※関連記事:カワサキモーターサイクルフェア2017(神戸海洋博物館/2月14日~2月26日)

 

 


2020年冬季アニメ勝手にランキングしちゃいます!

2020-02-07 06:01:24 | 映画・ドラマを観て考えよう

 新年になって登場したアニメも出揃ってきましたが案外『これはっ!』という作品は少ないものです。

 

 さて、その中で独特な画風でなかなか面白い作品を見つけました。

 勝手にランキング第3位は『地縛少年花子くん』です。

※学校の怪談を現代風にアレンジした『地縛少年花子くん』

 学校の怪談ふうの作品ですが、手慣れた和風の絵柄で楽しく観れます。

 全然怖くないので、小さい子供さんでも安心して観れるところがイイですね。

 

 勝手にランキング第2位は・・・。

 いつも『もういい加減にしたら?』と思うのが、異世界ファンタジーものですが、見直していて『オッ!?』というものに出くわしました。それが、『Reゼロから始まる異世界生活』です。

※主人公の一所懸命さが切ない『Reゼロから始まる異世界生活』

 

 冴えない主人公はコンビニに買い物に行った帰りに、異世界へと紛れ込んでしまうのですが、コンビニ袋を提げてジャージ姿のまま転送されてしまいます。で、何の能力もない主人公ですが、たったひとつだけ自分に備わった『能力』らしきものがあることに気づくのです。それは何と『死んだら時間を巻き戻してやり直せる能力』です。

 死んでも時間を巻き戻して、また蘇ることができるのですが、他に何の能力もない主人公は、好きになった女の子を助けるために、何度でも死ぬ目に遭う破目になってしまいます。これが実に痛いし怖いンです。で、時間が戻って『今度こそうまくやり直そう』と思っても、そこで『相手は自分のことを知らない』と言う現実にぶつかってしまうンです。二人が出会う前に時間が戻っているンですから仕方がないっちゃあ仕方ないんですが、これが実に切ない。

 必死に頑張る主人公が悲しいです。

 

 そして勝手にランキング第1位は『ドロヘドロ』です(←なんじゃあああ、この題名は?とちょっと引きますよね)。

※グロさ抜群の『ドロヘドロ』は題名に負けない内容で充実しています。

 

 主人公カイマンは頭をワニのような爬虫類に変えられた青年です。

 主人公の住む世界は『ホール』と呼ばれているのですが、東南アジアの猥雑な下町のような世界です。ここに『魔法使い』たちがやって来て、何のためかホールの住人の身体を昆虫や爬虫類に変化させるのです(どうも何らかのテストのようです)。主人公は強力な魔法によって頭部を爬虫類に変えられ、記憶を失っています。仲間からは『カイマン』と呼ばれていますが本当の名は分かりません。強力な魔法が掛かっているため、それ以上の魔法を受け付けない身体になった主人公は自分に魔法を掛けた相手を捜し続けているのです。

 この話がどうなっていくのか、さっぱり分かりませんが、独特の絵柄と残酷描写でアブなくも実に面白い作品となっています。

 観るヒトを選ぶ作品ですが今回はこれを1位に推すことにします。

 

※関連記事①2019年秋季アニメ勝手にランキングしちゃいます!

※関連記事②2019年夏季アニメ勝手にランキングしちゃいます!

※関連記事③2019年春季アニメ勝手にランキングしちゃいます!

※関連記事④2019年冬季アニメ勝手にランキングしちゃいます!

 

 


マーチン・ファン・クレフェルト『補給戦』(その3)中公文庫 / 2016年6月20日12刷発行

2020-02-03 05:53:45 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護

(承前)←その2に戻って読み直したい人はこの文字列をクリック。

 

3.自動車化で徹底を欠いたヒトラーの対ソ戦略

 時代は第二次世界大戦となります。

 

※東部戦線(対ソ戦)に向かうドイツ軍戦車隊。

 

 この時代を代表する戦法といえば、ドイツの行った電撃作戦(ブリッツクリーク)が有名です。

 これは航空機による爆撃と機甲師団による侵攻を組み合わせたものですが、この本では戦争を補給という側面から捉えています。

 

※東部戦線(対ソ戦)におけるドイツ軍の侵攻(1941年6月22日~12月5日)

 

 『ヒトラーは機甲師団の補給に自動車化された補給部隊を編成しようとしましたが、結局のところ中途半端に終わった』と、この本では結論づけています。鉄道輸送がなおざりにされた結果、これがドイツ軍の進撃を阻む要因となったというのです。

 東部戦線における侵攻とその失敗から、それを読み解いていくことにしましょう。

 ロシアの鉄道事情はヨーロッパのそれと全く異なっていました。

 ヨーロッパの鉄道が広軌であるのに対し、ロシアの鉄道は狭軌でした。このためドイツからロシアへの輸送は、まず線路を引き直すことから始めければなりませんでした。また、燃料となるロシアの石炭は粗悪でドイツの機関車には使用できませんでした。

 しかしながら『それでもなお、部隊への補給は大量輸送が可能な鉄道によって行うべきであった』とこの本では主張しています。『機甲師団の侵攻は鉄道路線に沿って行われるべきであった』と。

 鉄道の改修は遅々として進まず、侵攻する機甲師団への補給は専らトラック部隊が担うことになりました。ところが、このトラックの数が充分ではなかったのです。

 ドイツ軍はトラックを民間から調達しましたが、トラックの種類が多岐にわたる結果となり、膨大な種類の補修部品が必要となりました。このトラックがロシアの過酷な道路事情により次々と壊れていくのです。

 また、輸送距離が長くなればトラック自体の消費する燃料が膨れ上がります。試算によると『自動車部隊は300マイルを超えて輸送を行うことはできない』という結論がでていましたが、事実その通りになりました。

 そこへ運命の秋雨です。舗装されていなかったロシアの道路はたちまち泥濘と化し、車軸まで泥に埋もれて立往生する車両が続出しました。

 

※運命の秋雨・・・泥濘の中で立往生するグーデリアンの部隊。

 

 11月に入って路面が凍結すると、道路事情は改善されましたが、今度は鉄道輸送に重大な支障が発生しました。ドイツ製機関車は給水管をボイラー内に通す構造にはなっていなかったために、凍結により配管が破損して、鉄道輸送がマヒ状態に陥ってしまったのです。

 通常言われているように、ドイツ軍には『ロシアの冬期を耐え抜くための装備を持っていなかった』のではなく、実際には『充分な量があったにも関わらず、前線に届かなかった』のでした。

 

 この本では、対ソ戦失敗の原因は『①疑問のある戦略、②ぐらぐらしていた統帥機構、③乏しい資源のいわれなき分散』にあると見ています。

 ヒトラーは『ボルシェビキの精神的支柱を砕く』ことに熱中し、指導者の名前のついた街(レニングラードおよびスターリングラード)を目指して進軍し、そのの占領に拘りましたが、兵站術の観点からいえばドイツ軍は『鉄道線路に沿って進軍し、きちんと補給物資を受け取れる状態を保つ』べきでした。

 また、南方での戦力不足を補うため第一軍は90度の転進を強いられるなど、物資不足のために作戦自体が行き当たりばったりなものと化してしまいました。

 もともとドイツ軍は物資に恵まれた軍隊ではなかったのですが、乏しい資源の配分に失敗し、欠乏にあえぎ、最後には敗退する結果となったのでした。

(つづく)←その4へ進んで読みたい人はこの文字列をクリック!