吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

矢島文夫『ギルガメシュ叙事詩』ちくま学芸文庫/2017年4月10日第22刷

2017-10-25 09:00:00 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 余った時間があると本屋さんに行ってみるのですが、最近新刊本に『これだっ!』という本が少ないのです。ハウツー本や、オモシロ本ばかりが本屋さんを占拠しているのを見ると『日本の行く末はどうなっちゃうンだろう・・・』と思ってしまいます。

 そんな中、書店員さんイチ押しのスグレ本を発見!『何と!10年間も言葉をひねくり回してやっと完成!(店頭ポップから)』いったい何だろうと見ると、この本でした。


 世界最古の物語『ギルガメシュ叙事詩』。

 この本のどこが凄いかというと、著者は最初英語本からの翻訳を行ったのだが、どうも気に入らない。様々な書籍を探して、その探求に10年間を費やし、ついに原典の粘土板の解読と、楔形文字から(直接!)日本語への翻訳を行ってしまった奇跡の本なのです。

 こんな作品が900円+消費税で手に入るって、現代って凄い時代や~、と感慨を新たにした訳です。


 ※ギルガメシュ想像図(絶対ウソやろっ!)

 物語は、・・・
 ウルクの王ギルガメシュは並ぶ者のない強い王であったが、都の娘を次々と略奪するような乱暴者だった。
 神々はこれに対抗できる存在を創造する。その名はエンキドゥ。
 彼は獣とともに生活していたが、遊び女に誘惑され、ウルクの都に来てギルガメシュと相対する。
 ギルガメシュとエンキドゥは闘って分け、お互いの力を認め合った後は無二の親友となる。
 己に比する存在を認めたギルガメシュは行状を改め偉大な王となる。
 あるときギルガメシュは言う『森の守護者フンババを倒して杉の木を伐り出そう』と。
 エンキドゥは反対するがギルガメシュは聞かない。とうとう二人は武器を担いでフンババのもとに旅立つ。

 このフンババの描写が何とも恐ろし気です。

 フンババの叫び声は洪水だ
 その口は火、その息は死だ。



 ※森の守護者フンババ(『私の名はハンババ、愛称はレミィよ』って、こんなん知っとる人おるんか~い!)。

 壮絶な闘いの末、フンババは倒れる。

 命乞いをするフンババを殺すようエンキドゥは主張、その首を切り落とす。

 ところで、四大文明発祥の地はいま行ってみるとほとんどが砂漠ですが、もともとは緑に覆われた肥沃な土地だったらしい。
 そりゃそうです、砂漠の真ん中に都市や文明が発達する方がオカシイでしょう。
 ナゼいまは砂漠なのかというと、都市ができて森林を伐採しちゃったからです。
 建物を造る煉瓦を焼くために周辺の森林をガンガン伐採・・・自然破壊の始まりです。
 フンババを倒し広大な杉林を伐採し尽くした結果の砂漠化・・・かくも人類の業は深いのです。

 ギルガメシュとエンキドゥ、二人の最強タッグチームはフンババを倒し、これに怒った神々の遣わした天の牡牛まで屠ってしまう。あまりのことに神々はギルガメシュとエンキドゥに裁定を下す。『どちらかが死なねばならぬ』。
 病死したエンキドゥを甦らそうと決心したギルガメシュは旅立つ。

 マーシュの山には冥界への入り口があってサソリ人間がそこの門番だ。


 ※怪人さそり男。こっ、こんな感じなのかっ!? サソリ人間は夫婦者らしいのだが・・・。

 半神半人のギルガメシュはそこを通ることを許され、長い旅の末、生命の秘密を知る者ウトナピシュティムに出遭う。ウトナピシュティムはこの世の成り立ちと洪水伝説を語り、ギルガメシュに生命の草を取りに行かせる。
 しかし、ウルクへの帰途、ギルガメシュが水浴をする間にせっかく手に入れた生命の草は蛇に食べられてしまうのだった。
 悔やんでもどうしようもない失態、悲嘆にくれるギルガメシュを載せた船はウルクに辿り着く。


 やはり人間には生命の操作はできなかった。
 並ぶ者なき英雄も死だけはどうにもできないことを暗示する結びで物語は終わります。

八代亜紀 『 夜のつづき』(ユニバーサルミュージック/2017年10月11日発売)

2017-10-20 12:53:00 | 洋楽邦楽を問わず音楽はイイ
 先日からブログを開くと毎回広告が載っていて、さっそく買ってしまいました(我ながら宣伝にヨワイ・・・と)。



 前作『夜のアルバム』も買ってますからね~、仕方ないですね~。

 で、特典のハガキもゲット!

 わーい♪ヽ(∩。∩゛ヽ)(ノ〝∩。∩)ノわーい♪・・・我ながら単純!

 前作と同じジャズ・アルバムですが、聴き慣れたメロディーが多くて、こちらの方が歌謡曲寄りかな?と思います。
 今回はどの曲も八代亜紀の個性が強く出ています。中にはアレンジが激しくて、題名を確認しないと元の曲が分からないものも・・・。

 構成は・・・

 01.帰ってくれたら嬉しいわ
 02.フィーヴァー
 03.黒い花びら
 04.涙の太陽
 05.旅立てジャック
 06.ワーク・ソング
 07.カモナ・マイ・ハウス
 08.にくい貴方
 09.恋の特効薬
 10.夜のつづき (赤と青のブルース)
 11.赤と青のブルース
 12.男と女のお話
 13.夜が明けたら

 『ド演歌は絶対拒否だけど八代亜紀だけは許す』という私のようなファンには絶好の一品。
 このCDを掛けていると豪華なディナー・ショウに行った気分になれます。

 では出だしの部分だけですが一曲どうぞ・・・八代亜紀「帰ってくれたら嬉しいわ」

ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー(上・下)』河出文庫/2016年7月30日11刷

2017-10-19 08:39:24 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 かなりアブない本なのです。



 ベルリンの地下壕で死んだはずのヒトラーが、現代にタイムスリップして蘇る。
 しかも70年前と変わらない主義主張を人々に訴える・・・と、誰もが『これはヒトラーをパロったビルボード芸人に違いない』と思い込んでしまい、ヒトラーはたちまちメディアの寵児となってしまう。台本無しで持論を延々とブチ上げると聴衆は拍手喝采、彼は持ち前の知力で70年間の技術革新に追いつき、たちまちのうちに現代社会を認識し理解する。メディアとインターネットを駆使して主張を展開するやアクセスは70万回を超え『狂気のユーチューブヒトラー』として賛否両論の嵐を巻き起こす。

 映画化されたので、中にはご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

 ※映画のサイトを観たい方はこの(↑)画像をクリック!

 この本、東大・京大生が選ぶ本のトップ1に輝いたそうで、ウケているらしいのです(大丈夫なのか?東大・京大生!?)。

 時あたかも(一昨日のニュースで)ヒトラーの故国オーストリアでは31歳の若いカリスマ指導者のもと難民排斥を訴えて極右政権が誕生・・・おお、歴史は繰り返しているではないですか!

 ヒトラーの論旨は首尾一貫していてブレない。聞いていると全く正当な主張に思えてしまう。
 実は前提そのものに誤りがあるのだが、聞いているうちにそれがどうでもよくなってしまう。

 この本では、こんな感じに彼の優生学的見解が語られて行きます・・・・
 犬の飼育とは、それを行う人間の程度を示す、たいへん興味深い例だ。そこにはまた、人種の無制限な交配がどんな結果をもたらすかが浮き彫りになっている。犬というのはとりわけ、管理をせずに放置すれば、相手を選ばず交尾して繁殖してしまう生き物だからだ。その結果、何が起きるのか?南欧の諸国を観れば答えは一目瞭然だ。無節制な交配から生まれた雑種犬は野良犬となり、野生化し、堕ちていく。だが、人間が秩序ある交配を行えば、雑種ではなく純血種の犬を増やし、それぞれの種を完全形に近づけていける。

 第一声に『案外マトモじゃないか?』。次を聞いて『確かにそうだろう』。段々と『そりゃそうだ』→『いや全く・・・』→『そうだそうだ!』→『その通りだ!』から『ジーク(勝利)!』,『ハイル(万歳)!』,『ジーク!』,『ハイル!』の大合唱に繋がっていく過程が描かれて不気味です。

 

 ヒトラーはTVメディアとインターネットを武器に世論を味方につけ、新聞社をインタビューでコテンパンにノシ上げ、現在の極右政党に乗り込んでその堕落ぶりを叩きのめし、支持を広げていく。一方でネオナチからは『ユダヤのブタめ!』と敵視され(これは笑える)、とうとう襲撃を受ける。

 退院したヒトラーが政界への進出を決意、再び歴史が動き始めることを予感させて物語は終わる。

 また歩き始めたヒトラーの新しいスローガンはこうだ『悪いことばかりではなかった』。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス『幻獣辞典』(晶文社/1974年12月25日初版)

2017-10-16 08:38:36 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 古い本ですが私の蔵書から一冊紹介します。

 神話や文学作品等に登場する怪物や妖精たちについて網羅し解説した稀有の本。
 美術作品の絵解きに重宝するスグレモノ


 ※幻獣辞典:表紙はチェシャ猫とキルケニー猫

 ア・バオア・クー(Aの項)から始まってザラタン(Zの項)で終わる。

 例えば【セイレーン(Sの項)】に関する解説はこんな感じです。

(前略)『オデュセイアー』の語るところでは、セイレーンたちは船乗りを誘惑して船を難破させるのだが、オデュセウスはその歌声を聞いてなお生きていられるように、漕ぎ手たちの耳に蝋を詰め、自分のからだをマストに縛りつけさせた。セイレーンたちは彼を誘惑し、この世の一切の知識を約束する。(中略)神話学者アポロドロスが『ビブリオテーケー』に記している伝説によると、アルゴー船に乗っていたオルペウスはセイレーンたちよりも甘美な歌声を聞かせ、このために彼女たちは海に身を投じて岩に変えられた。魔力の利かなくなったときには死ぬ運命にあったのだ。スフィンクスもまた、謎が解かれたとき断崖から身を投げた。(後略)


 ※ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー『オデュッセウスとセイレーン』(「怖い絵」展より)

 解説は実に的確。香気あふれる文章で読み物としても楽しめます。原典や参考文献の記載もあって、この本を中心に読み進めていくと、幻想文学や関連する美術作品について幅拾い知識を効率的に手にすることができる、私の大切な本のひとつです。
 ぜひとも一家に一冊常備すべき本です(ホンマかいな?)。

 

開館120周年記念特別展覧会『国宝』(京都国立博物館/10月3日~11月26日)

2017-10-10 12:12:12 | 日々美しいものに触れようよ
 すべてが国宝の展示会!・・・展示会に行くと『これとこれは国宝だから見逃せません』などと言うのが普通ですが、今回は全部国宝、どれも見逃せません!

 期間中、第1期から第4期まで微妙に入れ替えがあり、全部見るには4回行かないといけないのですが・・・私なりに『むうううう・・・・ん』と展示内容を検証して『10月15日までの第1期がベスト!』との結論に達しました。

 あの火焔式土器縄文のビーナス3体が!そして雪舟の国宝6点(*註)が揃うのは、この機会を逃せばもう無いでしょう!
 まもなく『美の巨人たち』や『日曜美術館』で紹介されるとワッと人が押し掛けるので、行くなら今しかありません!
 いそいそと京都に向かったのだった。

 ※註)雪舟の国宝6点:慧可断臂図, 天橋立図, 四季山水図巻, 秋冬山水図(2幅), 山水図, 破墨山水図


  
 ※チケット(これだけで展示内容の凄さは一目瞭然です)


 ※庭園に設置されたパネル(絶好の自撮りスポットになってました!)もちろん来てます!


 ※入口のパネル

 出品目録を受け取って進む。

 ※出品目録、Ⅰ・Ⅱ期の見どころが書いてある。

 入ってスグは『書跡』のコーナー。『土佐日記』の写本(思ったよりもずっと小さい!)や高名な『高野切(こうやぎれ)』が並んでいます。
 ここは混むので、全体をザッと見渡して次のコーナーへ。
 時間があったらまた戻ってくればイイのです。ひとつひとつ読んでいるといくら時間があっても足りません。

 第2エリア『考古』は充実。火焔式土器縄文のビーナス(土偶)が3体並んでます。


 ※火焔式土器(これ、完全な形で残っているンです。奇跡です!)


 ※縄文のビーナス, 仮面の女神, 縄文の女神・・・三体三様のデザインが美しい。

 ここで3階は終わり、2階へ移動すると絵画作品を中心とした展示が・・・。
 やはりメインは雪舟の国宝6点が集まった一室。

 ※秋冬山水図(左幅)・・・雪舟を代表する一幅です。

 1階は陶磁器と絵巻物そして工芸。

 『信貴山縁起絵巻』が楽しい。

 ※信貴山縁起絵巻・・・米俵が空を飛ぶ!

 『天寿国繍帳』も!教科書に載ってる美術品ばかり!

 ※天寿国繍帳・・・後世の補修部分の方が褪色が著しい。

 陶磁器も凄いです!志野天目青磁・・・あ~!書ききれないっ!

 ※志野茶碗(銘:卯花墻), 玳玻天目, 飛青磁花入

 疲れたので館内のレストランへ。

 ※庭園を眺めながらの食事。

 ここはハイアット・リージェンシーホテル直営なのです。

 ※ワインを飲みながらメインディッシュを待つ。

 さあ、元気になった。もう一周しよう!・・・結局その日は5時間掛けて見て回ったのだった!


 ※庭園もキレイで散策が楽しい。

 見どころがあまりにも沢山あり過ぎてとても紹介しきれない展示会です!
 興味のある方はこちらを!→http://kyoto-kokuhou2017.jp/works.html

 何回でも行きたいですね!