ねこやま

徒然備忘録

ジェノサイド / 高野和明

2012-03-29 14:00:28 | 高野和明
抜粋

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。
それがすべての発端だった。
創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、
隠されていた私設実験室に辿り着く。
ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。
同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、
難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。
暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。
事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。
イエーガーは暗殺チームの一員となり、
戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。


































予約して半年待ちでようやく手元にきた高野氏の新刊。

やっぱり高野和明はおもしろい!

読後感はそれに尽きる。

荒唐無稽で眉唾な“ハイズマンレポート”をいかに信じさせるか。
グレイブディッガーを読んだ時も存在すると思っていたので
今回もそんなレポートがあるのかな、と半ば信じていた。
まぁ、都市伝説のような感じで元々あるんだろうとは思うけど。
誰もそれを証明できる人はいないし、証人が存在することを
政府が隠蔽しているって思えばわたしみたいな小市民にはあずかり知らぬこと、
として地球はとりあえず回っていくんだろうと思う。

プロローグはアメリカ大統領の朝から始まる。
随分デカイ風呂敷広げたな、と思った。
そして次にでてきたのは薬学の話。
理系文系といってもどっちにも属さない自分なので
彼らの理系ジョークを読みながら心の中で
いやいやいや、わかんね~よ、と突っ込んでいた。


「あれ、文系の子だろ?付き合ってんのか?」

「つかず離れずの、ファンデルワールス相互作用だ」

「土井はどうなんだよ?」

「同じ部屋にいい子がいるんだが、金属合成だ。

お互い、集団の中の一原子で身動きがとれん」

「なんとか供給結合したいなあ」


まぁ、なんとなくわかるけど!
わかるけど、頭かたそー 笑
基本的にはまず論理からなんだろうなぁと思う。
わたしみたいなタイプとしゃべってるときっとイラつくだろうなと思った。
ここは意味わかんないし、で笑うところだったんだろう。

まぁここらへんまではまだジョークの域だったので
そこまでめんどくさいなと思わなかったんだけど
親父の遺言を読み始めたあたりからめんどくさそうな予感が爆発。
文字はたっぷり詰まってるし、専門用語多いし分厚いし・・・
一瞬休憩挟もうかと思ったぐらいなんだけど
そうはさせないのが高野さんなんだな。

親父の遺言を受け取った息子・研人と
もう一人の傭兵イエーガーとの二元中継で話は進んでいく。

イエーガーはある特殊任務をうけ多大な報酬を得ようとしていた。
難病を患っている息子にはやはり多額の金がかかる。
そう長く生きられないと医者から宣告を受けているが
少しでもその命を延ばそうとあれやこれやと手を尽くしている。
しかしそれには金がかかる。
ミッションを終えるまでに息子は生きているのか・・・
葛藤するがやはりイエーガーは任務を引き受けることにする。

この二人がいつ繋がるのかそれが気になって一気読みだった。
途中研人に話が移るとめんどくさい話が多かったりするんだけど
進むにつれて、どんどんでっかい何かに巻き込まれていくので
けっこうスリルがあった。
読んでて思い出したのが伊坂氏の「モダンタイムス」

―検索から、監視が始まる―

あるワードを検索したら
暗殺者がやってきて日本なのに違法な火力でもって制圧しようとしてきた
という突拍子もない話なのである。

まさにこれと似たようなことが研人にも起こったわけで
いつ捕まるのかなーと他人事で読んでいた。
日本の警察(公安)ってそんなにお粗末なのかな、と思ったりしながら。
捕まったら話もそこで終っちゃうのでそれはしょうがないんだけど
最終局面ではいろいろ魅せてくれていたのでそこはよかった。

そしてここでタイトルに戻る。
“ジェノサイド”
この言葉は本の中に何度となく登場する。
大量殺戮のルビがジェノサイドとなっていた。
感想を書くにあたってこのワードを検索したらwikiにはこうあった。
ユダヤ系ポーランド人法律家の造語である、と。

以下抜粋

元はアルメニア人虐殺やナチス・ドイツのユダヤ人虐殺(ホロコースト)
に対して使われたため、一般には大量虐殺の意味で使われるが、
国外強制退去による国内の民族浄化、あるいは異民族、
異文化・異宗教に対する強制的な同化政策による文化抹消、
また国家が不要あるいは望ましくないと見なした集団に対する
断種手術の強要あるいは隔離行為など、あくまでも特定の集団の抹消行為を指し、
物理的な全殺戮のみを意味するわけではない。


以上

因みにジェノサイド条約というものも存在し
現在ではこれを目的とした行為は集団殺戮行為も含めて禁止されている。

知らなかった。
こういう条約があることを。
この法が絡んでくるお話だということはタイトルからも察せられることと思う。
つまり、重い話でもあるのだ。
どこかの国では少年兵が銃をもって戦争をしている。
それは憲法第9条のある日本からしたら遠い国の話になるけれど
現実に起きていることなのだと、思う。
この本に表現されている極悪非道で鬼畜な行為は筆者が
どこからか見聞きしてきたことをさらに大げさに書いたと思いたい。
そういうぐらい鬼畜なシーンが非常に多いので
精神状態が悪い時には読まない方がいいと思う。

イエーガーがミッションをやり遂げるまでに殺した人の数は数え切れない。
これは戦争なのだから、と読んでるほうも思わなければやってられない。
それはさながらプライベートライアンだ。
一人の兵士の救出に激戦地へ向かう兵士たち。
イエーガーにとってそれは息子の命だった。

誰でも大事な人をもっている。
その人のためなら命だってかける。
ことができる人もいたりいなかったり。
ヒトは言葉や文字を使うようになって意志の疎通ができるようになった。
動物も声を発するので言語ではないけど意志を伝えることはできる。
でもヒトってその先が知りたくなる知的動物だ。
怖さを知って初めて安心が生まれる。
安心を手に入れるために攻撃したり虚勢をはったりする。
もっともっとを求めるのが人間ならこの先どうなっていくんだろう。
進化って、そういう意味では危険でもあるんだなぁと思った。

ラストシーン、もう大丈夫だよ
という言葉に一瞬さす陰。
それが少し不安要素ではあるけど大団円だった。


個人的に好きなシーンは戦闘機に追っかけられる空中戦。
といっても、彼らが乗っているのは火力のないボーイング737型。
進んでも国境でズドン・燃料はあと少し・
後ろからはレーダーに映らない戦闘機。
絶体絶命な困難をどう乗り切るのかが読んでてスリルたっぷり。
ここまできて目的達成できないわけないので
そこのところは落ち着いて読んでられるんだけど
どうやるのか!が見物だった。
協力者によって次々と手が打たれていき
最終的には随分前に置いといた伏線をきれいにひろった時は
おお・・・とため息がでた。
そんなことってあるんだ~~~~。
でもこの世界ならありえるんだ、きっと。・・・きっと
と思わないと物語を楽しめない。

この伏線については、あちこちにちりばめられており
それを要所要所で拾ってくれるのでこんなに気持ちいいことはないのである。
おおー、ここもか。
あれもか。
それもかよ!
といった具合だ。



とにかく久しぶりの高野氏はボリューム満点で、
とことんエンターテイメントだった!





一つ、不明な点があるとすればこの本の中の日本人の描かれ方。
ダブルキャストである研人は善良な日本人である役どころだけど
イエーガーのチームにいたミックは酷い描かれ方だった。
ろくに彼の過去を描写するでもなく、ただのヒールと化していた。
典型的なステレオタイプの殺戮者を演じていて(という役どころなのか?)
彼に好感を抱く読者はまずいないだろうと思われる。
そこで思ったのが、なぜこの人物を登場させたのか、という疑問だ。
ここまでヒールに仕立て上げるならなにかしら意図があるのかと思ったけど
そうでもなくあっけなくいなくなってしまったので
なんのために登場させたのかがよくわからなかった。
それを考えると筆者が日本人嫌いなのかなと思うぐらいだ。












そんな点もあるけど今回は久しぶりに満足感に浸れたので満点。
よくできたエンターテイメント。
高野氏渾身のホラ話。といったら聞こえが悪いか。
戦闘シーンは本当に嘘であって欲しいフィクションだった。
残虐なシーンが多いのでそれだけには注意してください。
そういうの無理な人は手を出さないのが吉かと。
ということで読者選ぶかもしれない本だけど
でも、いろんな人に勧めたくなるような1冊だった。


2012.03.22


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