夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『八日目の蝉』

2011年05月06日 | 映画(や行)
『八日目の蝉』
監督:成島出
出演:井上真央,永作博美,小池栄子,森口瑤子,田中哲司,
   渡邉このみ,劇団ひとり,余貴美子,風吹ジュン他

「優しかったお母さんは、私を誘拐した人でした」。
このキャッチコピーに引き寄せられ、
角田光代の原作を読んでから観に行ってきました。

大学生の恵理菜は、生まれて間もない頃に父親の不倫相手に誘拐され、
その女に4歳まで育てられた過去を持つ。
両親のもとへは戻ったものの、幼い彼女には知らないおじさんとおばさんにしか見えず、
母親はしばしばヒステリーを起こし、父親は世間から非難を受ける。
もはや普通の家庭を築くことは不可能だった。

人を寄せつけずに生きてきた恵理菜は、大学入学をきっかけに一人暮らしを始めるが、
アルバイトをしていた塾の講師で、既婚者である男と深い関係に。
自分の人生をめちゃくちゃにした誘拐犯を憎んでいたはずなのに、
その女と同じ人生を歩みかけていることに愕然とする。

そんな恵理菜のもとを訪れたのは、千草と名乗る女性。
あの事件について書きたいと言う彼女を最初は冷たくあしらうが、
誘拐犯に育てられていた時期に、千草も同じ施設にいたことがわかり、次第に心を開く。
恵理菜は千草とともに、当時の逃亡生活をたどる旅に出るのだが……。

映画を観てから原作を読む。
原作を読んでから映画を観る。
どちらも優劣はつけられない楽しさがあります。

本作は、あの本をこんなふうに映画化したんだという、
映画ならではの良さがたくさん詰まっていました。

まず原作と異なる箇所がいろいろと興味深いです。
当日は雨。火事もなし。母親の浮気話は出て来ない。
恵理菜に妹はいない。最初に身を寄せる演歌女がいない。
健康診断もなければ、ラブホに住み込みもなし。
これを映画に取り入れたら、余計悲惨になっちゃうのかも。

とても暗くて重い話ですが、
逃亡生活を送る誘拐犯の希和子を演じる永作博美には、常に怯えながらも、
薫と名付けた娘と過ごす間の、とびっきりの笑顔がたくさんあります。

原作にはなかった「おほしさまの歌」のシーンは優しさに溢れ、
映像化された虫送りの神事は幻想的で美しいことこの上なし。
また、映画独自の登場人物、田中泯演じる写真館の主人は、数分間なのに凄い存在感。
写真館でのエピソードは映画ならでは。

その子はまだごはんを食べていません。
朝と晩のちがいはあったけれど、これは胸を突く台詞。
ぜひ、原作と映画、両方どうぞ。

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