375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●復活待望!河合奈保子特集(3) 『nahoko 音』を聴く

2013年09月08日 | 河合奈保子


河合奈保子 『nahoko 音
(2006年11月28日発売) RMRCD-001

収録曲 01.face to face 02.in any case 03.if you think so 04.to the best of my knowledge 05.thanks 06.in my opinion 07.in real life 08.as soon as possible 09. for your amusement 10.in other words 11.it's a possibility 12.bye bye for now 13.keep it short and simple 14.as a matter of fact 15.tears running down my cheeks 16.what do you think? 17.significant other 18.just smile


長らく歌謡曲の歴史を見ていると、そこには明らかに、時代を反映した栄枯盛衰の波のようなものが存在している。1年に四季があるように、活動するアーティストそれぞれにも春夏秋冬の季節があり、それらの人生模様が複雑に絡み合い、さまざまなドラマを映し出しているのが芸能界の現実だ。

どんなに才能や実力のある歌手でも、完全な順風満帆はありえない。ブレイクするまでに長い下積みを経験する人も多いし、人気が出てもそれが長続きするという保障はない。ただ、程度の差こそあれ、そこにはある一定のプロセスを見出すことができる。

第1期:ブレイクするまでの下積み期間(冬に当たる時期)。
第2期:ブレイクして、人気が上昇する期間(春に当たる時期)。 
第3期:人気が安定している全盛期(夏に当たる時期)。
第4期:人気が落ち目になっていく低迷期(秋に当たる時期) 。
第5期:活動停止したり、他分野に活動の場を移していく期間(冬に当たる時期)。
第6期:復活して再ブレイクする期間(春に当たる時期)。

ごく稀なケースとして全盛期(夏に当たる時期)に突然引退を表明した山口百恵やキャンディーズの例もあるが、ほとんどの人は春夏秋冬の四季を通過しながら(人によっては何サイクルも繰り返しながら)キャリアを築いていると見ていいだろう。

それでは、河合奈保子は今どの時期にいるのだろうか、と考えてみると、いうまでもなく第5期、つまり芸能活動を停止し、他分野(=主婦業)に活動の場を移している期間と見ることができる。具体的には第1子出産の1997年から数えて、2013年現在で17年間、歌手としての活動は行なっていない。

この17年という年数は長い期間のようにも思えるが、活動停止の理由が子育てに専念することにある以上、これだけの年数は最低限必要であるし、そろそろ長子のハイスクール卒業が近いことを考えれば、芸能活動を再開するのはそう遠い先の話でもないという希望が出てくる。そのように言える根拠は「時間的余裕」も大切な要素ではあるのだが、何よりも決め手になるのが「音楽に対する情熱」である。これがないと、どんなに余暇があっても歌手復帰に関しては悲観的に考えざるをえない。

たとえば、山口百恵の歌手復帰がなぜありえないか、というと、引退時に芸能界から完全に決別する区切りの儀式(=引退コンサート)を行なっており、それ以降は音楽に対する情熱をまったく見せる素振りがないという事実が根拠となる。同じ理由でちあきなおみの復帰も難しいかもしれない。彼女の場合は引退宣言したわけではないのだが、ある意味、引退宣言すらできないほどの精神的打撃を受けてしまったことが歌手復帰への道を困難にしているように思われるのである。おそらく、夫の死とともに、音楽に対する情熱も醒めてしまったのではないだろうか。もしも音楽に対する情熱が残っているならば、子供がいるわけではないし、時間的余裕はいくらでもある。復帰する気があるのなら、とっくに復帰しているはずなのだ。

それに対して、河合奈保子の場合は、音楽に対する情熱を確実に持ち続けているという確かな証拠がある。活動停止から10年目の2006年に発売された『nahoko 音』というアルバムがそれである。

『nahoko 音』は、現在オーストラリアのゴールドコーストに在住しているといわれる河合奈保子が自宅のリビング・ルームで録音した自作のピアノ曲集で、当初はインターネット音楽配信限定という形で発表。そして反響の大きさから、あらためてCDでリリースしたものである。収録された18曲にはすべて英語のタイトルが付けられており、それぞれの曲の内容を暗示している。あくまでインストのみなので奈保子自身の声を聴くことはできないが、そこには確かに、声を封じ込めたメッセージが秘められているようだ。何を感じるかは、あくまで聴く人の感性にゆだねられる。いわば、奈保子流「無言歌」とでもいうべきものだろう。

ブックレットの最終ページに書かれたクレジットには「Piano by Naoko Kawai」、「All tracks written by Nahoko Kawai」と印刷されている。つまり表現者としては芸名の「Naoko」、作曲家としては本名の「Nahoko」を使い分けているところに、彼女ならではのこだわりが感じられて興味深い。

奈保子がこの作品を発表した背景には、将来の本格的な音楽活動復帰を視野に入れながら、ファンの反応を手探りする意図もあったのではないだろうか。ホームページにも語られているように、「自分はもう忘れられている存在かもしれない」という不安を持つのは、10年も表舞台から遠ざかっていれば当然であるからだ。しかしながら、予想以上の反響によって、その不安は解消されたようである。もともと控えめで内向的な人なので、無理にスポットライトを浴びようという気は毛頭ないだろうが、マイペースで活動できる環境が与えられるなら、歌手復帰の可能性は大いにあるだろうし、それも決して遠い未来ではないだろうという期待もできる。

第8曲目のタイトルが「as soon as possible」というのも暗示的だ。諸事情さえ許せば「できるだけ早い時期に」実現させたい・・・という気持ちを表わしているようにも受け取れる。

あえて大胆に予測するなら、活動停止から20年目に当たる2016年には、「デビュー ~Fly Me To Love」の歌詞にもあるように、夏空のステージで再び河合奈保子の歌声が聴けるのではないだろうか。その頃ならまだ50代前半であるし、ジャス・テイストの新しい大人のラブソングを歌うにはちょうどいい年齢であるはずだ。

いかにもオーストラリアの海辺の風景を感じさせるような、癒しのメロディの数々。
自分の耳には、こう語っているように聴こえる。

必ず戻ってきますから、待っていてくださいね・・・

そこに込められているのは、間違いなく、ファンのひとりひとりに向けた親密なメッセージなのである。

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