375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●復活待望!河合奈保子特集(2) 『ゴールデン☆ベスト B面コレクション』を聴く

2013年09月02日 | 河合奈保子


河合奈保子 『ゴールデン☆ベスト B面コレクション
(2013年1月23日発売) COCP-37797~8

収録曲 [Disc. 1] 01.ハリケーン・キッド 02.青い視線 03.そしてシークレット 04.キャンディ・ラブ 05.セレネッラ 06.あなたはロミオ 07.No No Boy 08.春よ恋 09. ゆれて―あなただけ 10.黄昏ブルー 11.木枯らしの乙女たち 12.若草色のこころで 13.恋のハレーション 14.リメンバー 15.冷たいからヒーロー 16.プリズム・ムーン 17.夏の日の恋 18.メビウスの鏡 19.バラードを止めて 20.ファーストネームでもう一度
[Disc. 2] 01.MANHATTAN JOKE 02.I'm in Love 03.白い影 ~ONLY IN MY DREAMS~ 04.ジャスミンの夢飾り 05.プールサイドが切れるまで 06.SENTIMENTAL SUGAR RAIN 07.十六夜物語(ピアノ・トランスプリプション) 08.やさしさの贈りもの 09.GT天国 10.あなたへ急ぐ ~Reach out to you~ 11.Searchin' for tomorrow 12.霧情 ~Till the end of time~ 13.Alone again ~Starting over~ 14.言葉はいらない ~Beyond The Words~ 15.心の風景
[ボーナス・トラック] 16.星屑シネマ *NAO & NOBU 17.Southern Cruise *河合奈保子&ジャッキー・チェン 18.町田学園女子高等学校校歌


河合奈保子の現時点でのラスト・シングル「夢の跡から」が発売されたのは1994年3月なので、すでに20年になろうとしている。ということは、少なくとも20歳以下の若い世代の人たちにとって、河合奈保子は未知の歌手であり、30歳以下の世代を含めても彼女の全盛期を記憶する人はほとんどいない・・・という事実を意味することになる。

それでも2012年11月に復刻発売された7枚のライヴDVDが好調な売り上げを記録したところを見ると、河合奈保子をリアルタイムで知る人のみならず、彼女を知らないはずの若い世代の人たちにも意外に関心を持たれている様子がうかがえる。たとえ過去のアーティストだったとしても、ネット上での評判や映像などを通して、良いものはものは良い、ということに気づいているのだろう。

これから河合奈保子の楽曲を聴いていきたいという若い世代の人たちに最初のCDをお勧めするとすれば、やはり2013年1月に発売された『A面コレクション』と『B面コレクション』になるだろう。それ以外に1枚物の『ゴールデン☆ベスト』も出ているが、これは最低ラインの有名曲だけを集めた抜粋盤なので、抜けている名曲も多く、あとで買い直す手間を考えると効率が悪い。それよりも最初からシングル全曲を網羅したこちらの2点のCDを選ぶほうが賢明であろう。

もちろん河合奈保子の楽曲がすべて名曲と言うつもりはなく、同時期の松田聖子あたりに比べると世間一般的に知られている曲は多くないかもしれない。その代わりに・・・といっては何だが、一筋縄ではいかない難曲(?)、突っ込みどころ満載の問題曲(?)、意外に感動的な名曲(?)等々、コアな音楽ファンの話題には事欠かない楽曲がそろっており、そういう意味では面白さがあり、何度繰り返し聴いても飽きが来ない。歌唱力に関してはもちろん折り紙つきなので、曲が今一つでも芸術鑑賞の観点から見れば満足度が高い・・・というのも大きなポイントになっている。

『A面コレクション』のほうはTVの歌番組などで歌われたお馴染みの楽曲を発売順に網羅しており、いわば「表の歴史」をたどることができる。発表される楽曲を四季ごとに追っていくと、プロデューサー側の売り出し戦術がどのように展開されているか、といった駆け引きも見えてくるところが面白い。それに対して『B面コレクション』のほうは、戦術や駆け引きとはやや距離を置いた「裏の歴史」として、純粋にA面との聴き比べを楽しむことができる・・・という点で興味深い位置を占めている。

ここで、バラエティに富んだ河合奈保子のB面曲の中から9曲を選んで簡単に紹介してみることにしよう。
いわば現時点での暫定的な「自選B面曲ベストナイン」ということになる。

●「ハリケーン・キッド」(作詞:三浦徳子、作曲:馬飼野康二)
河合奈保子自身が「こちらがA面になるんじゃないかと思ってました」と語っていたデビュー盤のB面曲。その言葉通り、A面の「大きな森の小さなお家」よりずっと出来がいいのではないかと思う。「大きな森の・・・」のほうは、あまりにも歌詞が幼いので、いい大人がカラオケで歌うには気恥ずかしいところがある。メルヘン仕立てを装いながら実は意味深長なアダルト・ソングという構造になっているのはわかるのだが、デビュー直後の奈保子のキャラにふさわしいとは思えない。それだったら、クールな主人公に翻弄される勝気な女の子という役回りの「ハリケーン・キッド」のほうがずっとイメージに合っている。こちらがA面であれば最初からベストテン入りのヒットになったのではないだろうか。

●「あなたはロミオ」(作詞:松本礼児、作曲:江戸光一・松本礼児)
1981年に発売された通算6枚目のシングル「ムーンライト・キッス」のB面曲で、例のNHKホールでの転落事故が起きた時期に当たる。「ムーンライト・キッス」はカスタネットという今では誰も見向きもしないようなレトロな楽器を、いかにも上品にたたく振り付けが印象的なのだが、曲の完成度としては今一つ中途半端なところがある。それよりもB面の「あなたはロミオ」のほうが単刀直入かつストレートな名曲で、こちらがA面だったらもっとヒットしたのではなかろうか、と思わせる。ひょっとしたらNHKホールでの事故もなかったかもしれない(?)

●「冷たいからヒーロー」(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお)
1983年に発売された通算15枚目のシングル「疑問符」のB面曲。当たり前のように会話していた幼馴染みの男の子が、年頃になると急に神秘的で遠い存在になってしまう・・・という乙女心を描いた名曲。シンプルなメロディ・ラインがさわやかで、マーチ風に余韻を残して消えていくところもなかなか効果的だ。同じ来生姉弟によるA面の「疑問符」も決して悪い曲というわけではないし、来生先生自身はお気に入りのようなのだが・・・。個人的にはちょっと哲学的すぎるというか、主人公が何を悩んでいるのか判然としないところがあり、聴くたびに大きな疑問符が浮かび上がってしまうのである。

●「プリズム・ムーン」(作詞・作曲:尾崎亜美)
1984年に発売された通算16枚目のシングル「微風のメロディー」のB面曲で、奈保子ファンの間では数あるB面曲の中でも屈指の人気を誇る。それというのも同じ尾崎亜美によるA面の「微風のメロディー」が今一つ評判がよろしくないという事情があり・・・
もちろん悪い曲ではないし、それなりの雰囲気があるので奈保子の歌唱力であれば抵抗なく聴けてしまうのも事実であるが、せっかく「for me~」と盛り上げた後で、「Happy Happy Lady」の単調なフレーズが続くのはいただけない、というわけであろう。そこへ行くと「プリズム・ムーン」は曲全体のバランスが取れている上、随所に隠し味のある名作だと思う。

●「メビウスの鏡」(作詞:売野雅勇、作曲:筒美京平)
1984年に発売された通算18枚目のシングル「唇のプライバシー」のB面曲。前年の「エスカレーション」に始まった売・筒コンビの活躍は翌年もとどまるところを知らず、この年の秋頃には最高潮に達する。特に、この「メビウスの鏡」は数あるB面曲の中でも出色の出来栄え。作詞の面では「メビウス」に象徴される異次元空間のイマジネーションが冴えまくっており、一部の隙も見せない完璧なメロディ・ラインともども究極の職人芸を味わえる。A面の「唇のプライバシー」も完成度が高い傑作なので、A・B面のカップリングとしては最強の組み合わせの一つということになるだろう。

●「I'm in Love」(作詞:売野雅勇、作曲:林哲司)
1985年に発売された通算22枚目のシングル「ラヴェンダー・リップス」のB面曲。前作「デビュー ~Fly Me To Love~」で起死回生のオリコン1位獲りを達成した勢いで、同じ売・林コンビが同年秋のシングルを任せられることになる。が、連続1位を狙うにはA面が「ラヴェンダー・リップス」ではややインパクトが弱かったようだ。むしろB面の「I'm in Love」のほうが歌詞のオリジナリティが冴えており、メロディ・ラインもスピーディーな魅力がある。秋だからといって必ずしも叙情的な曲がいいとは限らず、むしろ勢いを大切にしたほうがよかったんじゃないかな・・・と思わせる一例。

●「SENTIMENTAL SUGAR RAIN」(作詞:吉元由美、作曲:河合奈保子)
1986年に発売された通算26枚目のシングル「ハーフムーン・セレナーデ」 のB面曲で、A面と同じく河合奈保子自身の作曲。このシングルで奈保子はアイドル路線から決別し、シンガーソング・ライターとしての道を歩むことになる。A面でのシリアスな絶唱ぶりとは対照的に、B面のほうはソフトタッチでさわやかにまとめており、ちょうど陰と陽の関係になっているところが興味深い。ここから以後、奈保子の活動は「さまざまな性格を持つ子供たち」を手塩にかけて養育していくプロセスがメインになっていく。

●「あなたへ急ぐReach out to you~」(作詞:さがらよしあき、作曲:河合奈保子)
1989年に発売された通算30枚目のシングル「悲しみのアニバァサリー」のB面曲だが、当初はこちらがA面になる予定だっただけに完成度が高く、曲想も魅力的だ。一度は別れを告げた恋人の大切さに気がつき、取り戻しに追いかけていくというテーマはスリルがあり、「逢えなくなるなんて・・・逢えなくなるなんて・・・」と畳みかけていくサビの疾走感はマラソンの応援歌にも使えるのではないか、と思うほどの迫力がある。こういう名曲を埋もれたままにしておくのは惜しい。自分が歌手だったらぜひカバーしたいところだが・・・。

●「言葉はいらないBeyond The Words~」(作詞・作曲:河合奈保子)
1993年に発売された通算34枚目のシングル「エンゲージ」のB面曲。河合奈保子は基本的にメロディ・メーカーで作曲のみを担当し歌詞は専門の作詞家に任せる場合が多いのだが、この作品は例外的に作詞・作曲の両方を手がけている。ちょっと聴くと岡村孝子風の「愛の応援歌」という雰囲気で、恋人を想うピュアな気持ちを日常的な言葉でストレートに表現している。このような歌詞はプロの作詞家には気恥ずかしくて書けないだろうが、どこにでもいる普通の女の子が書けば歌になってしまうところに、等身大的な日常を歌う現代J-POPとの接点があるかもしれない。

これら9曲以外にも、奈保子自身が特に気に入っているという「若草色のこころで」や「ジャスミンの夢飾り」、両A面として発表された劇場用ルパン3世の主題歌「MANHATTAN JOKE」、作詞を担当した秋元康が自身のベストの1曲に数える「恋のハレーション」など注目すべき楽曲が多い。隠れ名曲の宝庫ともいえる『B面コレクション』の中で「自分だけの奈保子の名曲」を発掘してみるのも、このCDならではの楽しみといえよう。

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