375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(1) 八代亜紀 『夜のアルバム』

2013年01月06日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


八代亜紀 『夜のアルバム
(2012年10月10日発売) UCCJ-2105

収録曲 01.フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 02.クライ・ミー・ア・リバー 03.ジャニー・ギター 04.五木の子守唄~いそしぎ 05.サマータイム 06.枯葉 07.スウェイ 08.私は泣いています 09.ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー 10.再会 11.ただそれだけのこと 12.虹の彼方に


日本を代表する歌姫たち、いわゆるJ-DIVAの名盤を紹介する新シリーズの第1回は、「舟唄」、「雨の慕情」といった大ヒット曲で知られている演歌歌手・八代亜紀が初めて録音したジャズ・アルバム。これは購入する前から興味津々だった。

演歌は演歌でも、いわゆるこぶしの利いた「ド演歌」というのは元来あまり得意ではないのだが、八代亜紀の演歌は情感豊かな湿っぽいニュアンスと官能的なハスキー・ヴォイスに魅力があり、昔からけっこう好きだったりする。この種の歌声は日々の仕事に明け暮れる労働者にとっては癒しにもなり、クラブやバーで一杯やりながら聴くのにはうってつけと思わせるものがあるのだが、実際、演歌歌手でデビューする前の彼女は米軍キャンプや銀座のナイトクラブで歌うジャズシンガーだったそうである。

演歌歌手でデビューしたのは、他の多くの歌手と同様、レコード会社の方針だったのだろう。そして彼女のように成功してしまうと、しばらくはその路線で行かなければならなくなる。「作られたイメージ」というのはなかなか崩すことができないし、崩そうとしてもタイミングが難しい。ほんとうにやりたいことを実現させるには「時」を待たなければならない。それは実社会に生きるわれわれも同じだと思う。

八代亜紀にとって、その「時」は21世紀にめぐってきた。その前後にリリースされているCDの内容を見ると、これまでの演歌路線とは異なった方向を模索し始めているのがわかる。1998年には今回のジャズ・アルバムの先駆けとなるライヴ盤『八代亜紀と素敵な紳士の音楽会』を出しているし、2001年にはPOPS系アーティストたちの楽曲を集めた『MOOD』というアルバムで、ラップ調の「舟唄」なども収録している。そのような準備をしながら少しづつ転換を始め、ようやく2012年になって、本格的なジャズ・アルバムを発表することで原点回帰に足を踏み出した、ということができそうだ。

こうしてできあがったアルバムを聴いてみると、全体的にとてもゆったりした雰囲気に満ちあふれている。ジャズクラブで一杯やりながら聴き入る労働者たちに微笑みかける彼女が目に浮かぶような、リラックスした空気がある。

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」に始まる最初の3曲はジャズのスタンダード・ナンバーとしてお馴染みの名曲。英語の歌詞に日本語のフレーズも交えて叙情味たっぷりに聴かせる。八代演歌で聞き覚えのある独特の節回しが顔を出すのも微笑ましい。

続く「五木の子守唄~いそしぎ」の和洋2曲を合体したアレンジも面白く、同じ曲の表・裏であるかのように錯覚するほどだ。りりィの名曲「私は泣いています」もジャズ・アレンジで聴くと、さびれた情感が胸に迫ってくるし、シャンソン系の歌手が好んで採り上げる「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」や「再会」で歌われる人生模様も、それぞれの喜びと悲しみの場面が目に浮かぶようである。

そしてラストを締めくくるのは映画『オズの魔法使い』の主題歌「虹の彼方に」。
熟成されたソフトな歌声が、聴く人を文字通り虹の彼方に連れて行ってくれる。

歌を聴きながら夢見るような想像の翼を広げることができるのも、ジャズ・テイストの編曲ならではの味といえるだろう。


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