375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(20) グリエール バレエ組曲『赤いけしの花』

2007年03月28日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

グリエール 交響曲第2番+バレエ組曲『赤いけしの花』
交響曲第2番ハ短調(作品25)
バレエ組曲『赤いけしの花』(作品70)
1.苦力(クーリー)の英雄的な踊り
2.情景と金の指の踊り
3.中国人の踊り
4.不死鳥
5.ワルツ
6.ソヴィエト水夫の踊り
ズデニェク・マーツァル指揮 ニュージャージー交響楽団
録音: 1995年 (DELOS DE 3178)
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20世紀初頭に勃発したロシア革命の嵐は、同時期の多くの音楽家を亡命に追いやったが、グリエールは例外的に、革命後の「ソ連」に残る道を選び、政府お気に入りの作曲家としてサヴァイヴァルを遂げた。社会主義リアリズムの模範的作曲家としての評価を得ながらも、19世紀の伝統に基づく自己のアイデンティティを失わなかった彼の作風は、真に稀有のものであり、現在のマイナーな位置よりも、もっと高い評価をされてしかるべき大作曲家である。

そのグリエールのソ連時代の作品で、最も広く知られているものは、1927年に初演された、バレエ音楽『赤いけしの花』であろう。華麗なオーケストレーションで奏される異国情緒満点の音楽は、理屈抜きの愉しさがあり、一度聴いただけで虜になってしまう。時おり、フィギュアスケートの伴奏音楽として用いられることもあり、近い将来、スタンダード曲としての名声を得る可能性は十分にあるだろう。

バレエのストーリーは、中国の港を舞台に、ソ連船の船長と酒場で働く少女との恋物語を中心として、ソ連の船員と中国の労働者の連帯が描かれるという、体制賛美の内容である。革命後のグリエールは、以前のような国民学派的要素は希薄になったが、その代わりにウズベク、アゼルバイジャンなどの中央アジアの民俗音楽を活用し、オリエンタリズムの味付けが強くなった。この『赤いけしの花』では、中国風の旋律が多く用いられている。

バレエは、全曲演奏すると3幕8場の長大なものになるが、通常のコンサートピースとしては、全曲から抜粋した6曲の組曲で演奏される。

第1曲 苦力(クーリー)の英雄的な踊り
ハチャトゥリアンを先取りするような、野性味あふれるリズムが炸裂する舞曲。2分50秒すぎにちょこっと登場する中国風のモチーフが可愛らしい。
第2曲 情景と金の指の踊り
グラズノフ「四季」風の幻想的なオープニングから、大河のようなアダージョへの展開は感動的。個人的には、この部分が全曲中の白眉。
第3曲 中国人の踊り
中国風オリエンタリズムの魅力がいっぱいの、華麗な舞曲。
第4曲 不死鳥
ヴァイオリンのソロを中心とした、郷愁に満ちたロマンの歌。
第5曲 ワルツ
チャイコフスキー、グラズノフの伝統を受け継ぐ、優美なロシアン・ワルツ。
第6曲 ソヴィエト水夫の踊り(ロシア水兵の踊り)
力強いブラスのサウンドを背景に、革命歌「ヤーブロチコ(小さなリンゴ)」が何度も変奏される。全曲中最も有名な部分で、ここだけが独立して演奏されることも多い。

CDは、現在のところ唯一所有しているチェコの名指揮者ズデニェク・マーツァルの演奏が素晴らしく、色彩豊かな民族的旋律美を十二分に堪能できる。

このCDの前半には、革命以前の1907年に完成した交響曲第2番も収録されているが、こちらも民族色にあふれた佳作。第1楽章冒頭の勇壮な主題から、すでに広大なロシアの大地が眼前に開けてくる。第3楽章の深々としたロシアン・アダージョも、なかなか味が濃い。
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