375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

名曲夜話(16) タネーエフ 『オレステイア』序曲、交響曲第4番

2007年03月13日 | 名曲夜話① ロシア・旧ソ連編

タネーエフ 歌劇『オレステイア』より「序曲」、交響曲第4番ハ短調(作品12)
ネーメ・ヤルヴィ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
録音: 1990年 (Chandos CHAN 8953)
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ラフマニノフが、自作の交響曲第2番を、モスクワ音楽院時代の恩師タネーエフに献呈したことは、よく知られている。しかし、タネーエフがどのような音楽を書いていたかは、一般的には、あまり知られていないかもしれない。今回は、その「ラフマニノフの恩師」にスポットを当ててみたいと思う。

セルゲイ・イヴァノヴィッチ・タネーエフ(1856.11.25-1915.6.19)。モスクワ音楽院で、ピアノをニコライ・ルビンシュタイン、作曲をチャイコフスキーに学ぶ。当初はピアニストとして活躍し、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のモスクワ初演時には、ソロを担当した。1878年にモスクワ音楽院の和声・楽器法教授に就任、1881年からはピアノ科も受け持ち、ラフマニノフグラズノフなどを教える。1885年から4年間は院長を務め、作曲家としても数々の名曲を残した…、というのが、大雑把な経歴である。

このタネーエフの傑作を2つあげるとすれば、12年という長い歳月をかけて完成した、歌劇『オレステイア』と、1896年に完成した交響曲第4番になるだろう。

オレステイア』は、アイスキュロス作の古代ギリシャ悲劇『オレステイア三部作』に基づく歌劇であるが、現在は、歌劇そのものが上演されることはほとんどなく、「序曲」だけが、単独で演奏される。

序曲」の音楽は、悲劇的な歌劇のドラマを凝縮するように、重々しい展開を見せる。このオペラは、肉親同士の憎しみを背景とした復讐劇であり、血なまぐさい場面も多い。映画で言えば、間違いなく「R指定」である。そんな生き地獄さながらのストーリーの中で、救いとなるのが、最終場面に現われる無上に美しい音楽。まるで、戦乱のギリシャ世界に平和と調和が戻っていくかのように、別世界のハーモニーが繰り広げられる。これぞ、古今東西のオペラ序曲の中でも、最も感動的なエンディングの一つ…と、言いたくなってくる。

もう一つの代表作、交響曲第4番は、タネーエフの円熟期に書かれた最高傑作。ロシアの作曲家には珍しく、叙情性よりも、対位法的な構築性を重んじているので、最初のうちは、辛口に聴こえるが、何度も聴いているうちに、奥の深い美しさが、胸に迫ってくるようになる。

第1楽章アレグロ・モルトの歌謡性豊かな主題旋律。第2楽章アダージョの息を呑むような美しさ。第3楽章スケルツォの生き生きとしたリズム。いずれも、挽きたてのエスプレッソのような味の濃さが光る。そして、第1楽章からの主題旋律が回帰する、壮大なフィナーレ。圧倒的な盛り上がりとともに大円団を迎えるクライマックス・シーンの感動は、数あるロシア音楽の中でも屈指の素晴らしさと言えるだろう。

CDは、この2大傑作をカップリングにした、ネーメ・ヤルヴィ指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏があれば、まずは十分だろう。1980年代の後半から1990年頃にかけて、ヤルヴィは、カリンニコフをはじめとする知られざる名曲を積極的に録音していたが、中でも、このタネーエフは、快心の成果と言える一枚ではないだろうか。毅然とした気迫と、叙情的な美しさを兼ね備え、何度でも繰り返して聴きたい名盤である。


名曲夜話~ネーメ・ヤルヴィのDISC紹介

カリンニコフ 交響曲第1番
グラズノフ バレエ音楽『四季』
リムスキー=コルサコフ <7大歌劇>序曲・組曲集