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カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

グラントの種類

2005年08月05日 | サイエンス
久しぶりにグラントの話しをします。ここでは医学、理工学系の場合に話しを限定します。以前にも言いましたが、グラントには様々な種類があります。大きく分けると、
オペレーティング・グラント(以下OPと略す)
プログラム・グラント(同PR)
エクイプメント・グラント(同EQ)
メインテナンス・グラント(同MT)
パーソナルアワード(同PA)
といったところでしょうか。もちろんこの他にも特別な目的に標的を絞ったグラントがNIH(米国)やCIHR(カナダ)などから出ていますが、ここでは触れません。

OPとPRは、消耗品や人件費を主体としたグラントで通常3年から5年の期間に年間500万円から3000万円ぐらいまでの予算が計上できます。OPは主に一人の研究者が中心になって行う研究ですが、PRは複数の研究者が同一の研究目的に向けて共同研究を行うことで何らかの相乗効果が生まれることが期待される場合に適しています。PRは複数の研究者によるOPをまとめたものと見ることができます。研究者同士が互いに相補的に働いて、それぞれ一人で行うよりもより生産性が高くなるのであればいいのですが、往々にしてグループの中の一人が論文発表が好ましい結果でなく、他の人の足を引っ張りかねない状況が生まれますので、注意が必要です。逆にジュニアな研究者にとっては、経験がありすでにプロダクティブなグループに加わることで、グラント獲得のチャンスが増すというケースも当然生じますので、グループに入ることはプラスに考えたほうが懸命でしょう。予算の額に開きがあるのは、やはり人件費に対する考慮があるからです。すなわち、ジュニアな研究者は、新人のテクニシャンやポスドクを取るわけでしょうから、人件費は最小限に抑えられます。逆に、20年、30年継続してグラントを獲得している研究者には、長い間プロジェクトに貢献してきたテクニシャンがいるでしょうから、そう言う場合には人件費は必要なだけ支給される可能性が高くなるわけです。まあ他にも様々なファクターが関与してきますから、一概には言えませんが、予算の勾配はグラント獲得年数に比例してくるという法則はある程度あります。すなわち、ジュニアな方は最初から高額を要求しても、削られるか、悪くすると採点時にマイナスに働く可能性がありますから、予算の妥当性を十分に考慮することを薦めます。

EQは文字通り、装置の購入のみに当てられるグラントで、通常複数の研究者(多いほうが説得力がある)が利用することを前提にしています。ですから、「自分の研究に必要だから購入したい」という趣旨の申請書では、他の申請書と較べられたとき、それがどんなに重要な目的であっても、説得力に差が出ます。高額な装置が、学部全体、大学全体でどのように利用されるか、さらには学外の利用者も考慮されているか、などの項目がチェックされるでしょう。もちろん、これはケース・バイ・ケースで、きわめて特殊な装置は専門家のみで利用するとしても、科学的妥当性がしかっりしていて、その研究者の生産性が高ければ、通る可能性は十分あります。

MTは、既存の装置の保守・運転目的に必要は経費を計上できるグラントです。大型装置の保守契約などが該当します。この場合も、上記のEQの場合と同じで、できるだけ多くの研究者が、時間ロスのない運転を必要としていることを明白にし、そのためにMTが必要であることを説くことが、カギになります。

最後のPAは、科学者の給与に当てられるもので、5年間が普通です。勤務期間によって、何段階かのアワードがあるのが普通ですが、いづれの場合も直接研究者自身に入ってくるのではなく、グラントは大学や研究所に帰属されます。そして、給与の全額もしくは一部がこの予算を用いて支払われることになるので、得をするのは研究機関のほうである、という見方もできます。アメリカの場合、自分の給料はグラントから80%-100%支払うのが一般化してきていますが、こういうアワードがつけば、自分のOPへの負担も減るので研究室にとってもプラスになります。カナダの場合は、PAを取っていると、研究に専念するという大儀名文のため、ティーチングの責任を減らしてもらえたり、獲得金額に対して何割かを学内グラントとして支給する機関もあるようです。もちろん、こういうアワードは研究者自身のCVには大きなプラスになります。

以上グラントの話しでした。参考になれば幸いです。質問や意見はコメントでどうぞ。すべてにお答えできるかどうかは分かりませんが、できるだけお答えします。

David Suzuki博士

2005年07月23日 | サイエンス
読者の皆さん、この人をご存知ですか?私の予想では、ご存知の方は10人に1人ぐらいだと思いますが、いかがでしょうか?ところが、トロントの街角で一般市民に「カナダの有名な科学者の名前をあげてください」と尋ねれば、おそらく90%以上の人が、David Suzukiの名前をあげると思います。これは、カナダの他の大都市バンクーバー、カルガリー、モントリオール、オタワでも、おそらく同じだと思います。David Suzukiは日系三世のカナダ人で、第二次世界大戦のときには幼くして収容所生活を送りました。小学校から大学まで抜群の学力で進学し、最終的にシカゴ大学において遺伝学の仕事で博士号を取得しました。その後、アルバータ大学、ブリティシュコロンビア大学でショウジョウバエの遺伝学で教鞭をとりながら研究を続け、数多くの論文を発表しています。しかし、その後テレビの科学番組で、説得力があり分かりやすい解説と科学に対する深い造詣を披露して、科学者でありながらパブリックスピカーとして人並みはずれた才能を発揮しました。同時に、様々な角度から地球環境問題に取り組むようになり、一般の人々に益々広く知られるようになりました。現在は大学から離れ、科学キャスター兼著作家としてカナダを中心に精力的に活動しています。そして環境問題に取り組む財団を設立し、独自に問題解決に向けて活動しています。最近、彼の書いたもの、主張していることを読むにつけ、自然と人間のかかわり方について教えられることが多いと感じています。もしご興味のある方は、David Suzuki Foundationのホームページをご覧ください。それから、同氏は、CBC(NHKのカナダ版)のTop Ten Greatest Canadiansにもノミネートされています。


(写真は、Foundationのホームページから拝借しました。)

グラントの準備

2005年07月21日 | サイエンス
出張から帰って、山積みされた要件を処理するのに忙しくしています。一番大きな課題は、9月1日締め切りのグラント申請書の作成です。これは、オペレーティング・グラントで、これまで3年間サポートされたグラントの更新申請で、二期目は5年を要求する予定です。該当のプロジェクトに関して幸いよい論文が何報か出ていますので、すこし強気でいきます。一番大事な研究計画の部分は、図、表、文献抜きで11ページ以内にまとめなければなりません。ポイントは、複数の目標(今回は4項目)がはっきりと特定できているか?それらは、ほんとうに遂行可能か?それをバックアップする初期データはそろっているか?図や表は見やすくわかりやすいか?文献の引用は公平な立場に立っているか(審査員となりうる人の論文は入っているか)?など々です。まだしばらく完成までに時間がかかります。他に、メディア用のサマリーとか、過去3年間の成果のまとめなども、別に書かねばなりません。もちろん、予算の内訳やら、そのjustificationも加えなければなりません。この夏は、これが終わるまではほっと一息、というわけにはいきません。

学位審査の外部評価委員

2005年07月11日 | サイエンス
明日(12日)からアルバータ州に四日間出張です。エドモントンのアルバータ大学とカルガリーのカルガリー大学でそれぞれ行われる、二つの学位審査会に外部評価委員として出席するためです。北米の学位審査は、大学によって少しづつやり方は異なりますが、概ねよく似ています。直接指導した教授、アドバイザーとして指導した教授2-3人、学部内の委員2名程度、同大学学部外の委員1名、大学の外から外部審査委員1名、それに座長(まったく関係のない分野の教授であることが多い)を含めて総勢7-8名委員からなる審査会です。私の仕事は、候補者の研究が国内さらには国際的な大学の標準から見たとき、どのように評価されるべきかについて、意見を言うことです。多くの学部外の審査員を入れることで、学位の質をある水準以上に保とうとする意図がそこにあります。これも、前にグラントの話で書いたPeer Review精神の一つです。よりよい学位取得者を生み出すことが、その学部のみならず大学全体の評価と評判につながるからです。カルガリー大学には学位論文の評価レポートも提出せねばなりません。これはよくあることです。審査会自身は、1時間程度の候補者の発表(これは公開のケースが多い)の後、2時間程度の質疑応答(通常非公開)と続きます。こちらは、質問の準備をしていかなければなりません。では、そろそろ300ページの学位論文を読むことにします。

夏のラボパーティー

2005年07月10日 | サイエンス
毎年恒例なのですが、夏のバーベキューパーティーを昨日我が家で開催しました。参加者はラボのメンバーとその家族・友人、そして今年はラボのOB二人、もうすぐスタートを予定しているPDFの夫妻も参加してくれ、総勢25人ほどの賑やかなパーティーでした。今年のメインはタンドリチキンにしてみました。インドの香辛料をかなり利かせたオリジナルなソースに一晩寝かせ、とびっきり辛いものを作って、皆を驚かせるつもりでした。正直食べられるかどうか、心配していました。しかし、それはまったくの取り越し苦労でした。ほとんどの参加者は、その辛さにまったく平気で、きれいに平らげてくれました。その他、照り焼きチキン、韓国風バーべキューリブも作りましたが、あっという間になくなりました。気持ちのいい限りです。デザートは、皆が持ってきてくれたケーキがいつも綺麗にテーブルに並びます。これも美味でした。楽しいパーティーでした。

細胞接着のゴードン会議

2005年06月28日 | サイエンス
今ニューハンプシャー州アンドバーのプロクター・アカデミーに来ています。空港での入国審査も予想したより簡単に通り抜けられ、拍子抜けしました。それにしても指紋と顔写真を取られるのはあまり気持ちのいいものではありませんね。このゴードン会議は細胞接着に関する会議で、今回はカドヘリンを会議の中心テーマとしていて、初日の夜のキーノートは日本から竹市雅俊先生、ドイツからロルフ・ケムラー先生のダブルヘッダーで行われました。それにしても、とにかく蒸し暑いです。ゴードン会議というと、こういう田舎のプライベートスクールの夏の休暇を利用してやるのが恒例です。この会場も例にもれず、そういうところです。宿舎は学生用の寮で部屋にはエアコンなどありません。部屋にエアコンはありませんが、ワイアレスインターネットはあります。面白いですね。トイレとバスはもちろん共同。学生に戻った気分が味わえるのはありがたいのですが、この暑さにはまいります。昨夜はなかなか寝つけませんでした。幸い会場とダイニングルームはエアコンがきいていますので助かります。このあたりはこの学校以外に何もないので、特にすることもありません。私の発表も今朝無事終わり、4時から始まるポスターセッションまで休憩です。

アメリカへの旅行

2005年06月23日 | サイエンス
この週末から数日間ニューハンプシャーで行われるゴードン会議に行ってきます。アメリカ行きは久しぶりです。というのは、ここしばらくアメリカ行きを敬遠していたからです。とにかく空港の旅券審査に時間がかかります。極端な言い方をすると、誰でも容疑者扱いで見られます。私の場合、1時間半近く通過にかかったケースがあり(ほとんどの時間が待ち時間)、その後しばらくアメリカでの学会等を皆キャンセルしていました。私は日本のパスポートを持っていますが、アメリカに入国するには緑のカード(VISA WAIVER)に記入して、入国時にはその半券をパスポートにつけておきます。そして重要なのは、この半券をアメリカ出国時に必ずアメリカの移民局に戻さないといけません。日本と違ってアメリカは出国検査がないので、この半券は通常航空会社が飛行機の座席指定を行うとき返却を要求して、アメリカの移民局に戻すことになっています。これが行われないと、後にトラブルのもとになります。気をつけてください。今回はボストンに飛びますが、どのくらい時間がかかるか不安を感じています。会議には行かなければならないので仕方ありません。一日も早くアメリカが世界情勢の中で正常な状態にもどるのを望むのみです。

グラントの話し 2.はじめてのグラント獲得方法

2005年06月07日 | サイエンス
前回はピアーレビューの意義、正当性について書きました。何人かの方から、この話題を続けるようにとの要望がありましたので、今日はグラントの獲得方法、それも始めてのグラントの場合について触れたいと思います。すなわち、初めて自分で研究室を立ち上げて、初めてのオペレーティング・グラントを書く場合です。ここでオペレーティング・グラントとは、特定の研究プロジェクトに関して提案するもので、その研究の遂行に必要な人件費や消耗品を予算として計上できます。機器類の備品は一部認める機関もありますが最小限ですので、大型の備品(数万ドルを超える)については他の種類のグラントの申請が必要になります。アメリカの場合、このグラントには研究代表者(PI)の給料分も計上できます。すなわち、グラントが継続的に取れないと自分の給料も保証されないという過酷な現実があります。カナダの場合は、もう少し保守的な仕組みで、PIの給料は大学や研究所のコア予算から支払われ(もしくは研究者給与サポート専用アワード)、オペレーティング・グラントに自分の給料を計上することはありません。

 さて、初めてのグラントとなると、何を書くべきか迷うことでしょう。それまでやっていたこととはまったく違った新しいプロジェクトで書くべきか、ポスドク時代にやって来たプロジェクトの延長線上で書くべきか、迷うことでしょう。私の経験から、もしどちらにしますか?と聞かれれば、私は後者を選ぶように進めるでしょう。それはどうしてか?もし「理想的な科学の社会」があるとするならば、これはあまり正当な推薦とは言えません。科学は自由な発想と俊敏な実行能力によって前進するべきで、前にやっていたことばかりにこだわってやっていては、いっこうに新しいことは生まれないと考えるのは、私だけではないと思います。しかしながら、現実は、より確実な、より保守的な研究計画を求める気運が大勢を占めているのです。現在のグラントシステムは、残念ながら、まったく新規な研究を促進する方向にはありません。そのような新規性に富む研究は、「ハイリスク」な研究として、別枠で更新不可の1年程度のグラントを出している機関もあります。いわゆるシードマネーです。これらの現実を踏まえて、安定した研究費の「収入」を得るには、現在のところ後者を薦めざるをえないのです。

 では、あなたのグラントを審査する審査委員会の人々は、あなたの申請書のどこをポイントとして見ているのか?それはいくつかありますが、特に重要な3点について以下に述べます。

1.第一に、論文業績。特に、提案されたプロジェクトに関してすでに論文が発表されているか?
  -矛盾があると思いませんか?「新しいことをやりたくて研究費申請をするのだから、論文などまだない。論文が出たときはそのプロジェクトはもう終わっているのでは...。」最もな話しですが、これではグラントは通りません。上位で承認されるためには(すなわち分配予算も多く認められる)、いわゆるインパクトファクターの高い雑誌に論文が発表されていることが大きな後押しになることは、間違いありません。提案されたプロジェクトとは直接関連はなくても、論文業績は貴方の研究者としての評価に関して大きなウエイトを持ちます。審査委員は、研究計画だけでなく、研究者自身の資質や実績に関してもコメントを求められるのです。彼らが判断のよりどころとできるものは、やはり論文による業績ですし、あとはその分野での貴方の仕事の評判等です。よきにしろ悪しきにしろ、いわゆるreputationはついて回りますので、ご注意あれ。この研究者の仕事はいつもしっかりとしていて信頼がおけるという評判をもらえば、もう貴方のものです。

2.次に、提案されたプロジェクトに関して、その提案内容をサポートする初期実験がしっかりと盛り込まれているか?
  -ひとつは、審査する側から見て、申請者がどのくらい真剣に提案されたプロジェクトに取り組んでいるか、という点がはっきりしていないといけません。彼らの仕事は、ほんとうに優秀で意欲のある研究者が練りに練って出してきた申請書とそうでない申請書を見分けることで、大変な責任があります。それを助けてあげないといけません。そこで彼らが一番求める内容は、初期実験の結果です。どこまで、予定通り研究計画が進んでいるのか?という点です。これらをはっきりと示すことで、より説得力のある申請書になります。ここで、この審査の方法・基準の良し悪しの議論はしません。これが現実だからです。もちろん上で述べたように、論文が出ていればそれに越したことはありません。もっとも、研究計画ですから、そこには何か新規性がないと困ります。その新規な部分に対して、どれだけサポーティング・データがあるか?ということです。私の専門の構造生物学ですと、課題とする蛋白質について、発現・精製はもちろん完了していて、NMRですと綺麗なHSQCスペクトルが提出できているかどうか、X線ですと結晶の写真及び綺麗な反射データが見せられるか、がカギです。ここまで行っていれば、プロジェクトは半分終わったも同然ですね;-)

3.申請書は、科学的に高度で深く、しかも読みやすく作成されているか?
  -よくあるアドバイスですが、「審査員はあなたのグラントをどこで読んでいるかわからない。ビーチでビールを片手に横になりながら読んでいくかもしれない。そんな状況でも、読みやすく親切にまとめらた申請書が好感を与える。」オブジェクティブおよび仮説がはっきり書かれているか?それをどうやって解き明かすか、実験過程が論理的に書かれているか?予定の研究期間内に終了できる研究目標なのか?図の配置、必要は文献引用は完璧か?見かけをよくするページ・フォーマットにも工夫するとなおさら好感を与えます。ビーチであなたの申請書を読んでいる審査委員は、タダでその仕事をやっているのですから、キーポイントが押さえてあって、しかもそれらがハイライトされている読み安い申請書にすれば、彼らの仕事も速く進み、大いに好感を与えることでしょう。

最後に、初めてオペレーティング・グラントを書こうとするあなたへ。ポスドク時代に成果をあげたプロジェクトの延長線上で書く場合、どうしても付きまとう疑問符は、提案されたプロジェクトがポスドク時代のボスのものではないこと、あなたのオリジナルな提案であることを、はっきり示す必要があります。前のボスからのサポーティングレターもプラスになります。あなたの提案したプロジェクトに関して独自性を認めてもらう事と、できればボスからの支援も明記してもらえれば、より安全です。

ちょっと長くなりましたので、この辺で今日は終了します。書き足りなかったこともあると思います。それから、これはアメリカ・カナダのグラント制度における話しですが、日本の場合、このスタンスでうまくいく保障はありません。かなり共通するところはあるとは思いますが、日本固有のやり方があるようですから...。その辺の違い、及び問題点についても、いつか議論してみましょう。それをはじめると文化の違いとか歴史的は背景などに話しが飛んでしまう恐れがあります。今回の話しが皆さんの参考になれば幸いです。参考になったかどうか、コメントをいただけると嬉しいです。

グラントの話し 1.ピアーレビュー

2005年06月04日 | サイエンス
今日はグラントの話しをします。科学の分野でグラントとは研究費を指します。日本では文科省や厚生省、アメリカではNIH、カナダはCIHR(Canadian Institutes for Health Reseach)などの国の機関や私的な研究助成団体などに研究申請書を提出し、認められれば研究費がおりて、めでたく研究が遂行できるわけです。ここで重要なのは、研究者の研究活動の生命線とも言える研究費を、いかに公平に効率よく配分するか、という問題です。「公平に」といいましたが、これは研究者全員で均等に分配するという意味ではなく、配分した予算に見合う研究成果が生まれる研究者のところに確実に必要なだけ配分できているかという意味合いでです。研究費をどんどんつぎ込んでも、何もいい成果が出てこない状況は避けねばなりません。ここで、いい研究者、いい研究申請書を一体どうやって決めるのか?これが重要なカギになります。ここに公平性の意味があるわけです。この公平性をいかに保つか?の答えは、「ピアーレビュー(peer review)」制度であるというのが、一般に世界的に広く受け入れられている常識です。特に欧米諸国では、この方法が科学の世界に広く浸透していて、我々科学者はこの制度を避けて通ることはできません。
 ピアーレビューとは何か?一言でいうと、専門家が専門家の研究申請書なり研究成果を評価する、ということになります。ここで重要なのは、審査する側が誰なのかは審査される側には公表されません。それから、審査する側は審査される側の研究者と個人的な利害もしくは友好関係にある人であってはいけません。例えは、親しい友人同士とか、同じ大学で同じ学科の同僚の場合とか、または、同じ分野で激しく競合している相手同士、など正にも負にも「私情」が混入する可能性がある場合は、審査員としての資格はありませんし、その場合は自分からできないことを伝えるのが常識です。この状況のことを「conflict of interest」と言って、研究申請書や論文の審査の依頼があって断りたいときに使う言い訳(excuse)にもなります;-)要するに、審査とは、客観的に判断が可能でしかも専門的に深い理解をもった者によってなされるべきである、ということです。このことが、厳格たる公平性を保つ根源にあるわけです。もちろん、具体的には色々な問題はありますが、ここで議論したかった論旨から逸脱しますので、ここでは触れません。
 では、具体的にどうしたらグラントがとれるのか?そのポイントは?特に若い研究者でこのシステムに入ろうとされる方には興味があるところでしょう。これはグラントの種類によっても違いますから、長くなります。これは次の機会に書きます。こういう話しは、読者の方は興味があるのでしょうか?お教えください。

蛋白質・核酸・酵素 6月号

2005年05月25日 | サイエンス
科学雑誌『蛋白質・核酸・酵素』(共立出版)の連載リレーエッセイが4月に始まったが、ついに私の番が回ってきた。6月号(5月23日発売)に「トロントはシルクロード」という題名で私のエッセイが掲載されている。私の住むカナダ・トロント市は多民族都市で、そのモザイク文化が数千年前のシルクロードのオアシス都市に似ているかも、という話しである。詳しくは、同誌をご覧いただきたい。

Summer Student Program

2005年05月18日 | サイエンス
カナダの大学の多くは、5月はじめから8月末まで夏休みに入る。この4ヶ月間、学部の学生は何をするのか?それは学部によって大きく異なるが、医学ライフサイエンス系では、多くの学生がsummer studentとしてラボで働くチャンスを求めてくる。私のいる研究科(Medical Biophysics)では、例年500-600人の応募者があり、そのうちの約10%が職を得られるという大変な競争率である。学部学生にしてみれば、夏の4ヶ月間みっちりとベンチでの実験補助の仕事が体験でき、研究とはどういうものかについて、彼らの先輩(大学院生、ポスドク)から学ぶことができるし、なおかつそれ相応の収入(月14万円程度)が得られるのであるから、将来大学院に進もうと考えている学生にとっては、この上ない貴重で価値のある経験なのである。一方、教授サイドからみると、将来の大学院生候補を4ヶ月というはっきりとした期限付きで観察でき、本当によい学生を早い時期に見出すことができる。しかも、こういう選ばれた学生は短期間に何か習得したいという強い願望をもっていてよく働くので、プロジェクトの進行に大いに貢献してくれるのが通例である。今年も、私の研究室には2人の学部2年生のsummer studentが来ており、先輩のポスドクと一緒に仕事をしている。彼らの生き生きとした目を見るとエールを送りたくなるし、こちらも活力が沸いてくる。

このブログで伝えたいこと

2005年05月13日 | サイエンス
このブログの来訪者の多くは、科学と何らかの形でかかわっていらっしゃる方と推察する。もちろん、その他の方も大歓迎だ。特に私が最初に想定した読者は、博士研究員や大学院生の方々であって、そういう若い方々に何か役に立つメッセージが発信できればと思い、このブログをはじめたのである。そんな背景と皆さんからの暖かいコメント(すべてにご返事できなくて、ゴメンナサイ)を参考にして、もう一度このブログで何を伝えたいかについて考えてみた。このブログで私のテーマとするものは、以下の通りである。

・科学と向き合う姿勢について
   すなわち、科学をいかに見つめるか?、科学をいかに楽しむか?、そして、自分の科学をいかに高めるか?などの疑問を解くヒントを、日常の出来事や自然とのかかわりの中で、一緒に見い出していきたい。科学的な正確さはできる限り守りたいが、平易な言葉で書いたり、内容を簡略化しすぎて不正確になった場合は、ぜひご指摘いただきたい。

・海外での研究と生活について
   特に日本にこだわらず(日本でも大いに結構だが)、国際社会の中で科学の発展に貢献していこうという諸氏の参考になればと思い、海外での日常生活の一端を紹介していく。それが、読者の不必要な心配の緩和に役立てば幸いである。ですから、あまり悪いことは書きませんのであしからず。それから、これは私の北米での居住地と訪問先に限定した情報です(他のところは知りません)。

・私の趣味や趣向品等について
   これは、まったくの遊び心と気晴らしの目的 ― 読まれる方、すみませんが、お付き合いください。この項目にかぎりませんが、私のデジカメ一眼レフの愛器Canon EOS20Dをフルに活用して、様々な写真を紹介する。その他、興味のあることは何でも書いて行きたい。ウエブ上でどんな出会いが待っているか、楽しみだからだ。

まあ、こんなところですが、できるだけ肩の凝らない話しをリラックスした気持ちで書いていこうと思いますので(そうでないと長続きはしません)、よろしくお願いします。

花冷えと大学院試験

2005年04月26日 | サイエンス
今日もまた寒い日だった。小雨が降ったりやんだり、空はどんよりと垂れ下がっている。今日は、うちの研究室の修士の学生J氏の博士課程移行試験であった。日本の大学と同じように、トロント大学の当研究科では、大学院生はまず修士過程としてスタートするが、18ヶ月以内に博士課程に移行するかどうかを教授とともに決めて、試験を受ける必要がある。試験といっても、筆記試験ではなく、自分のプロジェクトに関する口頭発表と質疑応答である。今日の場合、担当教官である私も含めて7人の教授陣から約1時間半から2時間の質問攻めにあう。それを、うまくこなせば合格となり、めでたく博士課程に進むことができる。今日の学生は、発表もよく質疑応答も何とか持ちこたえたので無事合格した。この他に、研究科全体の学生セミナーやラボのセミナーで揉まれながら、学生は成長していく。それを見るのが楽しみである。試験が終わって、その学生と反省会をしたあと外へ出ると、花冷えの空はまだどんよりと低く、小雨が冷たかった...。

科学者のVision

2005年04月23日 | サイエンス
あなたが科学者であるとする。科学をする人間は研究に没頭するあまり、何のためにその作業をしているかを忘れてしまうことが多い。今日のこの実験がうまくいくかいかないかが問題であって、その他の事はどうでもよくなる。あなたが科学者なら、きっとそんな気持ちになったことがあるに違いない。しかし手を休めてぼんやりと空を眺めながら研究以外のことを考えたりできる休日などに、はたと、一体自分はなぜこの研究をしているのか、と考えたことがないだろうか?また、グラント(研究費)の申請書を書くときや、論文や口頭発表をまとめるときに、自分の研究が社会のためにどのように役に立っているのか、ということを考えたことがないだろうか?
 実はそういう思索が研究者の資質を磨く上で大事なのだ。自分の研究のVision(ビジョン)をあなたは持っていますか?と問われたとき、ちゃんとした答えができるだろうか?どんな研究テーマにでも、必ずVisionはあってしかるべきで、社会の一員としての研究者は、やはりこの問いに答えられるようにしておかねばならない。もちろん、非常に基礎的な研究には、癌の治療薬の開発とか、環境汚染の改善といった類の分かりやすい目的を示すことが難しいことはある。しかしながら、どんな研究でも、ピラミッドの一つの石のように、たくさんの石が積み重なって最終的に形をなすような、貢献はしているはずである。問題は自分の研究が大きなピラミッドの中で何番地の何号にあるかを把握しているかどうかであって、その思索と理解が、社会貢献を問われたときに、役に立つ。そして、そのピラミッドが全体としてどんな形をなすものかを、きちんと説明できるかどうかが、重要なのである。そのピラミッドは、「人間の健康」であるかもしれないし、「人類の宇宙への展開」なのかもしれない。これこそが、Visionなのである。あなたの研究の社会的価値なのである。抽象的な言い方で分かりにくいといわれるかもしれないが、研究とは何に役立つかが自明でないことが多いので、やはり、そこは独自のオリジナリティーを持って、考えてほしいのである。
 最後に、研究者であるあなたへ。これは私の独断だが、研究室で実験に没頭しているときは、こういうことは考えなくてよい。むしろ邪魔だ。とにかく今やっている実験がうまくいくことだけを考えればいい。それが、人類の知恵と知識を深め、科学技術すなわち文明を前進させる原動力であるからだ。

科学者の楽しみ

2005年04月20日 | サイエンス
サイエンスを職業にして、一体何が楽しいですか?こんな質問を時々受ける。科学者には、どんなに働いても、それに見合う残業手当が支給されるわけではないし、大学や研究所の教員や研究者のサラリーがいいとは冗談にもいえない。科学の楽しみは、やはり「新しい発見」にあるとしか答えようがない。この地球上で私しか知らないかもしれない新しい事実に遭遇したときや、新しいアイデアを思い浮かんだときは、ほんとうに震える。ただ、それは毎月あるわけではなく、日々の努力の積み重ねから、年に一回、いや数年に一回あれば、いいほうである。その喜びと感動が忘れられなくて、また次の新しいことがやりたくなる。サイエンスは、その繰り返しだ。
 ただ最近では、私にはもう一つ楽しみが増えた。それは、ほんとうにやる気のある若い学生やポスドクとの「インターラクション」である。歳をとったと言われるかもしれないが、自分で毎日実験ができなくなった今、彼らとのディスカッションや会話から大いに刺激されて、実験者の心持になったとき、本当に興奮できる。そんな興奮をいつまでも忘れたくないものだと思っている。