私がティーンエイジャーの頃( つまり十代の頃)、奈良公園に隣接するピアノ教室に毎週通っていた時期があった。

よく教室の前には公園から迷ってきたであろう
迷い鹿がぼんやりと(本人は道に迷ってあせっていたのかもしれないが、私にはそう見えた。)突っ立っていたものだ。

その頃の私は、日常見るに余る
鹿や寺には目をくれず、自分の中の
エキゾチスムを刺激してくれそうなものを夢中で追い求めていた、そんな時代であった。
姉のように親しくしていたピアノの先生は、夏に迎える私の誕生日にお祝いをしてくれる、と言ってきた。
「レストランでも行く? miehfちゃんは何がたべたい?」
ティーンエイジャーといえば
「巨大なチョコレートパフェ」や
「ちょっと高級な感じのイタリアンレストラン」などが定番の答えであっただろう。
しかしその当時、エキゾチスムに憧れていた私は迷うことなくこう答えた。
「
ワニの肉が食べたい。」 常にどこかしら枠に外れていた私を信じ、出来る限りのことは大らかに受け止めてあげたい、そんな先生であった。
鹿の肉、ではなく
ワニの肉 と言った私を軽蔑する様子も見せず、しばらく沈黙の後彼女はこう言った。
「
わかった。ワニ肉でいいのね。」 真夏の日中、彼女と私はせんべいを求めて寄ってくる鹿をかき分けながら(鹿のフンもよけながら )、やっとのことでエキゾチスムな雰囲気溢れる
某アフリカンレストランへと到着した。
なんせ生来田舎育ちの私だ、未知なるものに内心ビクビクしていた。レストランの主人に「本当は
ワニ なんてウソでしょう?
鶏肉なんでしょう?」と、今思うと大変失礼な質問をしていた。
「いいえ、
本当ですよ。ワニの肉です。」
その後も親切な主人は ワニの肉にまつわる話をくどくどと( !? )、ワニ皿を目の前に続けてくれた。
実際出されたワニ肉の煮込みはパサパサとしていて、気分のせいだろうか、味が全くなかった。
どんどん食欲が失せ、誕生日にこんな提案をした自分を呪っていた。
メニューには、どれもまともに聞いた事のあるような一品はなかった。
ピアノの先生は入念に主人に質問した後、一番無難そうに感じた
「ホロホロ鳥のから揚げ」なるものを注文していた。
ワニ皿の五分の一ほどしか手をつけずじっとうつむいている私に、先生はその
「ホロホロ鳥のからあげ」を食べてみるように薦めた。
「、、、ワニ肉を出すところだ、きっとホロホロ鳥ってやつも、ダチョウみたいなすごい鳥なんだろう、、」
私は口には出さなかったが、名前だけでも不気味なその
ホロホロとかいう鳥のから揚げを、しぶしぶ無我夢中でほおばった。
ところがホロホロの肉はワニのそれとは違い、大変ジューシーでやわらかく、美味ともいえる味わいであった。
それから今日まで、私はフランスで時折耳にする
ホロホロ鳥( Pintade)を聞くとこの若かりし頃の痛い記憶が蘇り、一度も料理する機会を持たなかったものだ。
容姿も今日までどんなものか知らず、ホロホロ と聞くだけでアフリカの大草原を駆け回る巨大な
ダチョウの姿をイメージしていた。
今回私の知り合いが、このホロホロ鳥にマスカットと肉の詰め物をし、ブドウの葉っぱで全体を巻いた
「ホロホロ鳥の詰め物のロースト」
を作ってくれた。付け合せには、カモの脂で炒めた、前もって下茹でしておいた縮れキャベツと湯がいたジャガイモであった。
その素晴らしい一品を食べ、十何年来に渡る私の痛々しい( ?)思い出が見事に崩れ去っていったのだ。
今日 偶然にもこの
「 ホロホロ鳥のマスカット詰めのブドウ葉巻き」を名物にしている肉屋と出会った。秋のご馳走として今晩早速料理していくつもりだ。
皆さんも、今が季節のブドウと葉っぱで作られた この
「Pintade Farcis」 を肉屋で見つけたら、ぜひ一度味わってみてください。
ちなみに、ホロホロ鳥の容姿は大変小さく見た目ニワトリのようなものだと、さっき初めてサイトで知りました。
ただ
アフリカ象と共存して生活している点を除いては。。。

それでは皆さん、素晴らしい初秋を ホロホロと( ?)味わってくださいね!!
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肉屋でもらった レシピ
ホロホロ鳥のマスカット詰め ぶどうの葉巻き( 1 roti de Pintade aux Raisins )
一掴みの 白マスカット
エシャロット二個 みじん切り
白ワイン100 cc
バター40g
1) バターでホロホロ鳥をローストする。
2) そこにエシャロット、白ワイン、マスカットを入れる。
3) 鍋に蓋をし 一時間煮込む。