よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

お腹の不調!  原因はSIBOかも?

2021-03-08 16:52:10 | 健康・病気
 新型コロナウイルス感染症に振り回されている世の中ですが、1年を待たずにワクチンが開発され実際の臨床の場で使われ始めました。マスク着用、手洗い、三密回避など個々の努力と合わせて、一刻も早くこの感染症が終息することを願っています。

 さて今回は、腸内細菌に関しての最近の話題をお話ししたいと思います。
 ヒトの消化管には100兆個の腸内細菌(300~500種)が棲息しており、その遺伝子の総和は、100万種類とも言われています(ヒトの遺伝子は2万数千種)。ヒトは、膨大な細菌と共存し、その影響を受けて生きていることがわかってきました。腸内環境をよくするために、乳酸菌、ビフィズス菌といった善玉菌や食物線維、オリゴ糖、発酵食品などを積極的に摂取していらっしゃる方も多いと思います。

 ところが、腸内細菌も増えすぎるとかえってよくないということもわかってきました。それが、SIBO(小腸内細菌増殖症)です。お腹がゴロゴロする、お腹が張る、下痢、便秘など様々なお腹の不調の原因になります。

 通常小腸には、腸内細菌は1万個/ml程度しかいません(大腸には1000億~1兆個/ml)。しかし、食生活の変化で、腸内細菌が増えすぎ、小腸まで棲み処を拡げ(10万個以上/ml)、悪影響を及ぼすようになっているのがSIBOです。
 日本の中高年の2割弱が原因不明の腹部症状に悩んでいると言われますが、小腸の検査は難しいため胃や大腸の内視鏡検査で器質的な異常がなければ過敏性腸症候群と診断されます。心因性やストレスが原因とされ有効な治療を受けることができず、何十年も腹部症状に悩まされていることもあります。この過敏性腸症候群と診断された方の約8割に、SIBOが隠れている可能性が指摘されています。

 腹部のガスは、ほとんどが腸内細菌の発酵により作り出された、水素ガス、メタンガス、二酸化炭素です。これらはオナラとして排出、あるいは腸管から吸収されて吐く息の中に出て行きます(これらは無臭で気付きません)。SIBOの患者さんは、この腹部ガスが通常の5倍以上産生され、主に小腸に溜って腹部膨満感の原因となります。さらに水素ガス産生が多いと下痢型に、メタンガス産生が多いと便秘型になることもわかってきました。

 さらに、SIBOでは、小腸粘膜の透過性が亢進し、本来は吸収されないもの(細菌の毒素や未消化の栄養分)まで吸収してしまい、体の中で慢性炎症が起き、アレルギー、感染症、動脈硬化など様々な病気の原因になります(漏れる腸症候群)。
 この腸のバリア機能の低下を助長するものとして、①果糖、②アルコール、③鎮痛薬、④歯周病菌、⑤ストレス、⑥激しい運動、⑦食中毒が挙げられています。
 逆に、バリア機能を改善するものは、①規則正しい生活、②ω3脂肪酸(魚油、えごま油、亜麻仁油)、③骨スープ、④薬(メトホルミン、ルビプロストン、亜鉛)などが知られています。

  SIBOの原因としては、腸の蠕動運動の低下、胃酸、胆汁、膵液の分泌低下による殺菌力低下、小腸と大腸の間の弁の機能不全、老化、食生活の乱れなどが考えられています。診断は、ラクツロース負荷により呼気中の水素およびメタンを測定することによりなされます。

 治療としては、抗生剤投与(リファキシミン、ネオマイシン)、栄養剤(エレンタール)、そして低FODMAP食という食事療法です。
この食事療法の肝は、細菌が喜んで食べるエサを食べないということです。すなわち小腸で消化・吸収されにくい糖を排除することです。具体的には、パンやパスタなどの小麦製品、玉ねぎに含まれるフルクタン、豆類に多いガラクトオリゴ糖、牛乳などの乳製品に含まれる乳糖、腸から吸収しづらい果糖、人口甘味料を含むポリオールなどの発酵性糖質を避ける食事です。
 この低FODMAP食は、「腸内細菌にエサを与えて、腸内細菌を増やそう」という一般的な「腸活」とは全く逆の食事法です。
SIBO(過敏性腸症候群)の方は、低FODMAPな野菜や果物から適量の食物線維をとり、十分な水分摂取が重要です。さらに、間食を摂らず小腸を休ませる時間(この時小腸の蠕動運動が活発になる)をつくることが必要になります。

 最近の研究では、便秘の人は善玉菌である乳酸菌が多い、デブ菌(ファーミキューティス門)、やせ菌(バクテロイデス門)と称された腸内細菌も肥満との相関関係が日本人ではない、長寿者にデブ菌が多いなど今までと違った新事実も続々わかってきました。免疫機能を高めてくれる腸内細菌カクテルも開発されています。
これまでのように、腸内細菌を単に善玉・悪玉・日和見と区別するのではなく、多様な腸内細菌叢を適切な場所に適切な量保有することの重要性が認知されてきています。
 今後は、個々の患者さんの腸内環境に沿ったオーダーメードの食生活指導が健康長寿の鍵になることは間違いありません。

 
参考文献:江田 証『腸内細菌の逆襲 お腹のガスが健康寿命を決める』幻冬舎新書
     江田 証『腸のトリセツ』学研プラス


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