健康診断で、「コレステロール(あるいは中性脂肪)が高いから動脈硬化に気を付けてください。」と指摘を受けた方も多いと思います。今回は、コレステロールと中性脂肪に関して考えてみます。
コレステロールは、生体でいろんな物質の材料となります。代表的なものとして、①細胞膜、②コルチゾール、③性ホルモン、④胆汁酸、⑤ビタミンD、⑥コエンザイムQ10などがあります。これらは、脳、免疫、生殖、消化吸収、エネルギー産生などに必要で、コレステロールがないと生命活動が維持できません。
一方、中性脂肪は細胞のエネルギー源として使われ、余ったエネルギー(糖質やタンパク質も含む)は中性脂肪として脂肪細胞に貯蔵されます。
コレステロールや中性脂肪は脂質であり直接は水に溶けないため、血液中では、リン脂質とアポたんぱくでできたトラックに荷物として載って各細胞、組織に運ばれ使われます。この荷物を載せたトラックをリポたんぱくと言います。
リポたんぱくには、載せた中性脂肪とコレステロールの量と割合により種類があり、比重の軽いものからカイロミクロン、VLDL、LDL、HDLなどがあります。
カイロミクロンは、主に食事から得た脂質(中性脂肪やコレステロール)を各組織に運搬します。VLDLは肝臓で合成され主に中性脂肪を、VLDLが代謝されてできたLDLは主にコレステロールを全身の細胞に運搬します。そしてHDLが、余ったコレステロールを回収し肝臓に戻す役割を果たします。すなわち、リポたんぱくは、脂質を腸管から吸収し、肝臓で合成あるいは再利用して、全身の細胞に過不足なく運搬する脂質代謝の要として働きます。
さて、健康診断で測定されるLDLコレステロールですが、全身の細胞に運ばれるコレステロールの重要な指標になりますが、高すぎると動脈硬化が進行し、脳心血管系疾患の発症率が上がることが疫学的に知られています。いわゆる悪玉コレステロールと言われる所以です。他方、HDLコレステロールは、余分なコレステロールを回収する指標となり、動脈硬化を予防する善玉コレステロールと言われます。
ここで知っておかなければならないのは、LDLコレステロールが低いのも問題であるということです。すなわち低栄養状態(ガン末期や心不全末期に多い)では、コレステロールが作れずLDLコレステロールも低値になります。したがって、LDLコレステロール値と死亡率の関係をグラフにすると、高すぎても低すぎても死亡率が上がるというJカーブ現象が見られます。
ではLDLコレステロールが高いと言われたらどうしたらよいのでしょうか?
まず、自分の状況を把握することが重要です(症状がないから放置ではダメです)。高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴(身内に心血管系疾患罹患者がいる)などの動脈硬化危険因子があれば治療の必要性が高くなります。頸動脈エコーや脈波検査(俗にいう血管年齢)で現在の動脈硬化の程度を知りましょう。
特に問題なければ、食事・運動療法で経過観察します。かつては、コレステロールを多く含む食品(卵など)を避けることが推奨されましたが、食事中のコレステロール量と血中コレステロール値の相関が低いためあまり言われなくなりました(ただし、コレステロールの吸収率には個人差20~80%あり、摂り過ぎは禁物です)。さらに、LDLが酸化され血管に沈着し、免疫細胞に貪食され慢性炎症を起こすことが動脈硬化進展の機序であるため、抗酸化物質(ビタミンCやE、ポリフェノールなど)を積極的に摂り、酸化LDLを作らないことが重要です。中性脂肪が高いとsmall dense LDLと呼ばれる酸化LDLになりやすい物質がつくられるので、これにも注意が必要です。
また、中性脂肪の構成要素である脂肪酸の種類によっても、動脈硬化を防ぐことが可能です。ω3脂肪酸を多く含む魚油を摂り、ω6脂肪酸を含む植物油や肉に含まれる飽和脂肪酸を減らすことで抗炎症効果が期待されます。適度な運動も、LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げます。
動脈硬化危険因子が多い、あるいはすでに脳心血管系疾患になったことがある人は、薬物治療も考慮します。個々の状況によりLDLコレステロールの目標値は違います。一部では、下げれば下げるだけ動脈硬化は抑制され問題はないと言われますが、コレステロールにも大事な働きがあり、私は下げ過ぎには反対です。
LDLコレステロール降下薬(スタチンと呼ばれます)は、抗動脈硬化作用、心血管系疾患抑制が証明されており生命予後を改善するとしてよく使われます。ただし、まれに筋肉融解や筋肉痛、風邪をひきやすい、体がだるい、消化吸収不良などの副作用もあり注意が必要です。これは、コレステロールが下がり、体に必要な物質が不足しておこる症状です。この場合は、ビタミンDやコエンザイムQ10、消化酵素などのサプリを用い積極的に補充する必要もあると考えます。
週刊誌で「飲んではいけない薬」の常連に挙げられるスタチンは、ただ単に「LDLコレステロールが高い」と言われただけでは、確かに不要な薬だと思いますが、必要な方が飲まないのも問題です。専門医に相談し、副作用対策も含めて上手に治療に取り入れていただきたいと思います。
参考文献: 『動脈硬化診療のすべて』日本医師会雑誌 第148巻・特別号(2)
西崎統『中性脂肪』PHP研究所
コレステロールは、生体でいろんな物質の材料となります。代表的なものとして、①細胞膜、②コルチゾール、③性ホルモン、④胆汁酸、⑤ビタミンD、⑥コエンザイムQ10などがあります。これらは、脳、免疫、生殖、消化吸収、エネルギー産生などに必要で、コレステロールがないと生命活動が維持できません。
一方、中性脂肪は細胞のエネルギー源として使われ、余ったエネルギー(糖質やタンパク質も含む)は中性脂肪として脂肪細胞に貯蔵されます。
コレステロールや中性脂肪は脂質であり直接は水に溶けないため、血液中では、リン脂質とアポたんぱくでできたトラックに荷物として載って各細胞、組織に運ばれ使われます。この荷物を載せたトラックをリポたんぱくと言います。
リポたんぱくには、載せた中性脂肪とコレステロールの量と割合により種類があり、比重の軽いものからカイロミクロン、VLDL、LDL、HDLなどがあります。
カイロミクロンは、主に食事から得た脂質(中性脂肪やコレステロール)を各組織に運搬します。VLDLは肝臓で合成され主に中性脂肪を、VLDLが代謝されてできたLDLは主にコレステロールを全身の細胞に運搬します。そしてHDLが、余ったコレステロールを回収し肝臓に戻す役割を果たします。すなわち、リポたんぱくは、脂質を腸管から吸収し、肝臓で合成あるいは再利用して、全身の細胞に過不足なく運搬する脂質代謝の要として働きます。
さて、健康診断で測定されるLDLコレステロールですが、全身の細胞に運ばれるコレステロールの重要な指標になりますが、高すぎると動脈硬化が進行し、脳心血管系疾患の発症率が上がることが疫学的に知られています。いわゆる悪玉コレステロールと言われる所以です。他方、HDLコレステロールは、余分なコレステロールを回収する指標となり、動脈硬化を予防する善玉コレステロールと言われます。
ここで知っておかなければならないのは、LDLコレステロールが低いのも問題であるということです。すなわち低栄養状態(ガン末期や心不全末期に多い)では、コレステロールが作れずLDLコレステロールも低値になります。したがって、LDLコレステロール値と死亡率の関係をグラフにすると、高すぎても低すぎても死亡率が上がるというJカーブ現象が見られます。
ではLDLコレステロールが高いと言われたらどうしたらよいのでしょうか?
まず、自分の状況を把握することが重要です(症状がないから放置ではダメです)。高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴(身内に心血管系疾患罹患者がいる)などの動脈硬化危険因子があれば治療の必要性が高くなります。頸動脈エコーや脈波検査(俗にいう血管年齢)で現在の動脈硬化の程度を知りましょう。
特に問題なければ、食事・運動療法で経過観察します。かつては、コレステロールを多く含む食品(卵など)を避けることが推奨されましたが、食事中のコレステロール量と血中コレステロール値の相関が低いためあまり言われなくなりました(ただし、コレステロールの吸収率には個人差20~80%あり、摂り過ぎは禁物です)。さらに、LDLが酸化され血管に沈着し、免疫細胞に貪食され慢性炎症を起こすことが動脈硬化進展の機序であるため、抗酸化物質(ビタミンCやE、ポリフェノールなど)を積極的に摂り、酸化LDLを作らないことが重要です。中性脂肪が高いとsmall dense LDLと呼ばれる酸化LDLになりやすい物質がつくられるので、これにも注意が必要です。
また、中性脂肪の構成要素である脂肪酸の種類によっても、動脈硬化を防ぐことが可能です。ω3脂肪酸を多く含む魚油を摂り、ω6脂肪酸を含む植物油や肉に含まれる飽和脂肪酸を減らすことで抗炎症効果が期待されます。適度な運動も、LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げます。
動脈硬化危険因子が多い、あるいはすでに脳心血管系疾患になったことがある人は、薬物治療も考慮します。個々の状況によりLDLコレステロールの目標値は違います。一部では、下げれば下げるだけ動脈硬化は抑制され問題はないと言われますが、コレステロールにも大事な働きがあり、私は下げ過ぎには反対です。
LDLコレステロール降下薬(スタチンと呼ばれます)は、抗動脈硬化作用、心血管系疾患抑制が証明されており生命予後を改善するとしてよく使われます。ただし、まれに筋肉融解や筋肉痛、風邪をひきやすい、体がだるい、消化吸収不良などの副作用もあり注意が必要です。これは、コレステロールが下がり、体に必要な物質が不足しておこる症状です。この場合は、ビタミンDやコエンザイムQ10、消化酵素などのサプリを用い積極的に補充する必要もあると考えます。
週刊誌で「飲んではいけない薬」の常連に挙げられるスタチンは、ただ単に「LDLコレステロールが高い」と言われただけでは、確かに不要な薬だと思いますが、必要な方が飲まないのも問題です。専門医に相談し、副作用対策も含めて上手に治療に取り入れていただきたいと思います。
参考文献: 『動脈硬化診療のすべて』日本医師会雑誌 第148巻・特別号(2)
西崎統『中性脂肪』PHP研究所
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