よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

「老い」について(2)

2012-06-29 14:54:11 | 健康・病気

回は、「老い」についてお話しました。 要約すると、

「老い」は細胞の衰えと捉えることができ、エネルギー不足が原因の一つである。エネルギー(ATP)を産生しているのがミトコンドリアであり、ミトコンドリアを元気にすることが若さを保つ秘訣(いわゆるアンチエイジング 抗加齢医学)である。

そして、現在知られているミトコンドリアの能力を高める方法が、カロリー制限運動です。

カロリー制限の研究によると、酵母、線虫といった微小生物から、マウス、ラット、サルまですべての生命体で食事量を30%程度少なくしたほうが長生きすることが観察されています。これは、カロリー制限をすると、インスリンの分泌が少なくてすみ、長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)がフル活動した結果と考えられています。そして長寿遺伝子が活性化するとミトコンドリアの量が増えることが報告されています。逆に、カロリー過剰で肥満であればインスリン分泌が多くなり、長寿遺伝子が働かず、その結果ミトコンドリアの能力も低下し、老化が進むのです。

次に、運動について考えて見ましょう。ミトコンドリアは、酸素を使って効率よくATPを作り出すことができます。しかし逆に、酸素がうまく使えなければ細胞を傷つけ老化を促進してしまう活性酸素を産生してしまいます。したがって性能のいいミトコンドリアを増やさなければなりません。ミトコンドリアの7割は筋肉の中に存在するため、運動して筋肉を使うことが有効であり、しかも運動の程度は、“ちょいきつめ”が最も効率がよいと考えられています。なぜならより酸素が必要となれば血管拡張性ホルモンの分泌が増え血の巡りもよくなり、ミトコンドリアの数も増えるからです。具体的には、じんわり汗ばむ運動(速歩など)を2040分、週23回以上が目標です。

 

さらに、ただ食べ物を減らすより、積極的に体を動かす方が、ミトコンドリアをより活性化できるそうです。逆に、不規則な食事、偏った栄養は、長寿遺伝子をおかしくし老化を進めることにもなるそうです。

「老い」は誰も避けることはできませんが、その進行スピードを変えることができます。若々しく元気に生きるために、適切な食事としっかり体を動かすことを心がけたいものですね。

参考文献: 「臓器は若返る」 伊藤 裕 (朝日新書)


「老い」について(1)

2012-06-29 14:38:29 | 健康・病気

さて今回は、「老い」について考えたいと思います。

皆様はどんな時に「老い」を感じますか? 今まで何事もなかった坂道歩行で息が切れたり、膝の痛みや足の疲れを感じた時あるいは細かい字が見えにくくなったり、物忘れが多くなったと自覚した時に年をとったと感じるのではないでしょうか。

これらは体の各部の臓器の衰えとして捉えることができると思います。すなわち、息が切れるのは心臓・肺の衰え、膝痛や足の疲れは関節、筋肉の衰え、目が見えないのは眼の衰え、物忘れは脳の衰えといった感じです。そしてそれは臓器を構成する細胞が衰えることにほかなりません。

細胞がその役割を果たすためには、多くのエネルギーが必要です。エネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)という分子として供給されます。このATPを作る方法として、①細胞内にあるミトコンドリアで酸素を使って脂肪やブドウ糖から作る経路(TCA回路 効率が良い)と、②ミトコンドリアと酸素を使わずブドウ糖から作る経路(解糖系 効率が悪い)、があります。例えば、長距離走など持久力が必要な運動(有酸素運動)中の筋肉内ではTCA回路で、瞬発力が必要な短距離走(無酸素運動)中の筋肉内では解糖系からエネルギーを補給します。 そしてエネルギーが十分に供給されると細胞は活発に活動しますが、逆に不足すると十分な働きが出来ません。細胞の衰えとは、言い換えるとエネルギーが不足している状態であり、そのエネルギー量を左右するのが、効率よくATPを生成できるミトコンドリアの能力ということになります。

 では、ミトコンドリアの能力を高めるにはどうしたらよいのでしょう。現在知られている方法は、カロリー制限運動です。まさに生活習慣病の治療と同じです。 逆に言うと生活習慣病の人は、ミトコンドリアの能力が低くそのために老いやすいということになります。

次回は、このあたりをもう少し詳しく紹介したいと思います。