よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

睡眠の話(2)

2017-10-30 17:14:32 | 健康・病気
 今回は、睡眠にまつわる皆様の疑問にお答えするQ&A形式でお送りします。

Q.睡眠は何時間とることが必要でしょうか?
A.年齢により違います。若い方に比し、高齢者は睡眠時間が短く、日本人の平均は6時間程度と言われます。一般的にも、長時間睡眠が良いわけでなく、6~7時間程度の睡眠が健康に最もよいと考えられています。
また単に時間ではなく、質の良い深い眠りが重要です。睡眠の前半は、深い眠りで脳が十分休養し、後半は、浅い眠りで覚醒に向けて準備し、朝すっきり目覚めるという役割分担もあります。

Q.体内時計とは?
A.ヒトに限らず、すべての生命が約24時間周期の時間を把握し、昼夜を認識するシステムをもっています。これを体内時計といい、ヒトでは脳内の視交叉上核とよばれる部位にあります。この細胞は、時計遺伝子に基づいて時計機能を担うたんぱく質を製造し、これが24時間周期で変動することにより時間をとらえます。
体内時計は、朝、太陽の光を浴びる(見る)ことによりリセットされ、その約15~16時間後にメラトニン分泌増大、深部体温低下などが起こり、睡眠を促すように働きます。
人の生活パターンで朝型、夜型がありますが、時計周期が24時間と同じか短めの人が朝型に、長めの人が夜型になりやすいと考えられています。

Q.昼寝はしてもいいですか?
A.時計遺伝子の働きで、午後早い時間帯に積極的に眠りを促している可能性も指摘されています。すなわち動物の昼寝と同じで、日中気温が高い時間に活動するとエネルギーの消耗が激しいので休むという考え方です。これは昼食のあるなしには関係ありません。
昼寝をすると午後からの仕事効率が上がるとの報告もあり、眠気があれば、30分以内の浅い眠りはよいとされています(個人差がありますから、夜間の睡眠で十分とれており、眠気のない人は必要ありません)。

Q.不眠症とは?
A.①寝つきが悪い(入眠障害)、何度も目を覚ます(中途覚醒)、早く目覚めて再入眠できない(早朝覚醒)、熟眠感かない(非回復性睡眠)などの夜間不眠症状と、②それにより日中の身体精神機能に影響を伴っているという二点が求められています。
 また、不眠症状の出現する他の疾患(うつ病、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害など)を鑑別する必要があります。

Q.不眠症の治療は?
A.睡眠衛生指導(定期的な運動、寝室環境の整備、規則正しい食生活、就寝前の水分・カフェイン・飲酒・喫煙制限、寝床での考え事、就寝2時間前の入浴など)、認知行動療法(起床・就寝時刻など睡眠スケジュールを決定しカウンセリングしながら調節する)と薬物療法があり、これらを組み合わせて治療します。

Q.睡眠薬の種類とその副作用は?
A.脳の働きを抑える(GABA神経系)に作用する薬に、ベンゾジアゼピン系(ハルシオン、デパス、レンドルミン、ロヒプノール、ユーロジンなど)および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリー、ルネスタなど)があります。前者は、催眠作用に加えて筋弛緩作用や抗不安作用もあるため、効果はやや強いのですが転倒や依存といった副作用が問題になります。後者は、より催眠作用に特化しているため副作用が少なく、最近よく使われるようになっています。
メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)は、体内時計を整えるという生理的作用機序をもち、効果は比較的弱いのですが副作用が少ないと考えられています。
最も新しく開発されたオレキシン受容体遮断薬(ベルソムラ)は、覚醒を維持するホルモンを抑え、睡眠を促し安定させる作用が期待されています。

Q.睡眠薬を飲むと認知症になるのでは?
A.ベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期服用にて、一時的に認知機能(記憶力や判断力など)が低下することが報告されていますが、多くは休薬にて改善することが知られています。
睡眠薬を長期服用することにより認知症発症の危険性が高まるかについての疫学調査の結果は、一定せず、まだ結論は出ていません。ただ、不眠症自体が、認知症の発症リスクであるため不眠症が強い場合は治療が必要です。

Q.睡眠薬を飲むと止められなくなるのでは?
A.現在用いられている大部分の睡眠薬には強い依存性はありませんから、短期間服用するには問題ありません。ただ長期間、高用量服用すると依存する可能性がありますから、不眠が治っている場合は、減量、屯用、休薬日を設けるなどの方法を主治医の指導のもとに検討して下さい。


参考文献:中公新書『睡眠のはなし』 著者 内山 真
        じほう『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』 編集 三島和夫