よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

BMIパラドックスとは?  ~フレイルの危険性~

2018-06-02 08:04:13 | 健康・病気
 皆様は、BMIという言葉をお聞きになったことはありますか?

BMIとは、Body Mass Indexの略で、健康診断で使用される体格の指標です。
具体的には、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算され、正常は22前後とされます。
BMIが25以上は肥満、逆に18.5未満は低体重(やせ)と診断されます。
 一般的には、BMI 22前後が、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の罹患率が低く、肥満になればなるほど生活習慣病のリスクが高くなり、総死亡率が高くなることが様々な疫学研究で明らかにされています。したがって、BMIが25以上の方は生活習慣に気をつけ減量するように指導されます。実際に、40~59歳の中年日本人を対象とした研究では、男性はBMI 23~27で、女性はBMI 19~25あたりで死亡リスクが最も低いことがわかっています。

 しかし、65歳以上のいわゆる高齢者では、BMIが低値(やせ)だとかえって総死亡率が高いことがわかってきました。これがBMIパラドックスとよばれる事象です。下図は、65~79歳の高齢日本人を11年間フォローした時の総死亡率(縦軸)とBMI(横軸)の関係です。



 グラフを見てお分かりの通り、総死亡率が低いのはBMIが20~30の間であり、20未満では、BMIが低くなる(やせがすすむ)ほど死亡率が上昇してきます。

 では、なぜ高齢者ではやせの方が死亡率が高いのでしょう。
 一つには、中年の肥満者は高齢者になる前に病気で死亡していた可能性があります。あるいは、ガンでやせて亡くなる方も多いと思います。しかしそれ以上に、高齢者では、やせている人ほど栄養摂取が不良で、筋力低下や免疫力低下がおこり全体的に虚弱になっていることが考えられます。この虚弱状態を“フレイル”と呼び、将来介護が必要となる予備群とも考えられています。
 気をつけていただきたいのは、高齢者は肥満であってもいいと短絡的に考えることもできません。高度の肥満者は、正常体重者に比し、フレイルの割合が多く、身体能力が低下している人が多いというデータもあるからです。

“フレイル”の最大の要因は、筋肉減少症(サルコペニアと呼ばれます)です。一般にヒトの筋肉量は40歳代より低下が始まり(年に0.5%づつ減少)、65歳からは減少率が増大し、80歳までに30~40%低下します(減少分は脂肪に置き換えられます)。筋肉は蛋白質で構成されていますから、食事から十分な蛋白質を摂取し、運動して筋力を維持することが非常に重要になってきます。
高齢者では、若年者と同様にたんぱく質を摂取しても、筋細胞での筋蛋白合成が進みにくいため、1日を通して満遍なく、より多くの蛋白質を摂取する必要があるとされます(0.85~1.0g/kg/日)。
運動に関しては、たとえ十分量の蛋白質を摂取しても運動不足であれば、フレイルが進行する恐れがあると考えられています。筋トレより有酸素運動(軽く汗をかいて息がはずむぐらい)の方が筋肉量維持にはより有効と考えられています。

さらに最近では、口腔サルコペニアを基盤とする“オーラルフレイル”の概念が提唱されています。口に関する些細な衰え(歯が少ない、噛む力が弱い、むせる、滑舌の低下など)が、食べる機能を障害し、さらには心身の機能低下につながるという負の連鎖が生じるという考えです。
一方、身体活動(運動習慣)をしていなくても、文化活動や地域活動ができていれば“フレイル”になりにくいということもわかっています。
いずれにしろ、“フレイル”を予防することが健康長寿につながります。

話を元に戻します。中年までは、生活習慣病(メタボ)予防のためエネルギー制限が必要ですが、高齢者になるとフレイル・サルコペニア予防のために高蛋白質・高ビタミンなど適切なエネルギーを摂取するという、ギアチェンジが大事ということです。
ただしこの考え方は、一般論であり、糖尿病や腎機能障害などすでに病気のある人には個別に対応しなければならないことを付け加えます。

 
参考文献:厚生労働省HP 『多目的コホート研究(JPHC study)』より 
     Tamakoshi A ら Obesity(Silver Spring). 2010;18:362-9  

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ヒトと微生物の共存

2018-04-03 15:19:52 | 健康・病気
 人は、ヒト細胞のみで形作られ生きているわけではありません。ヒトは40兆個弱の細胞からできていると言われています。しかし私たちの腸内には少なくとも100兆個4000種類の腸内細菌が棲息し、皮膚や口腔内その他の部位にも多数の細菌・菌類・ウイルスなどの微生物が存在します。古来から、これらの微生物と共存しともに進化してきたのが人体という生物の集合体なのです。

 ヒトの遺伝子は、たかだか2万1000個ですが、これら微生物の遺伝子の総和は440万個といわれ、遺伝子ではわずか0.5%を占めるにすぎないのです。ヒトほど複雑に高度に進化した生物は、その基本的設計図である遺伝子が他の生物より多いと考えられていましたが、実は、ミジンコや植物のイネなどよりも遺伝子が少ないことが判明しました。ヒトは、自分で作れない蛋白質やビタミンを共生している微生物に作らせ、それを利用することにより生きているのです。

 さて近年、便を調べることにより腸内細菌叢を知ることができるようになりました。それによると、先進国では腸内細菌叢の多様性が未開の地のヒトに比べて減っていることが判明しています。そして腸内細菌叢のバランスの崩れが、かつて人類が経験したことのない、肥満、糖尿病などの代謝疾患、過敏性腸炎などの消化器疾患、喘息、花粉症などのアレルギー疾患、自閉症、うつ病などの精神疾患の大きな要因になっていることがわかってきました。

 したがって、これらの病気を予防・治療する上で、腸内細菌叢の健全化は重要な意味をもちます。健常者の便を患者に移植する便移植も実臨床に応用され成果を上げています。それ以外にも、善玉菌のエサになる食物繊維や発酵食品をしっかり食べる、腸内細菌叢を撹乱する抗生物質、化学物質の乱用を避ける、過度の衛生は不要、できるだけ経腟分娩で生み母乳で育て母親の良質な細菌叢を子供に継承するなどの対策が有効です。
私たちは、遺伝子自体を変えることはできませんが、環境を整えることによりその発現を一部調節することができます。それと同じように、共に暮らす微生物を選ぶことができるのです。
   
  
  参考文献:河出書房新社『あなたの体は9割が細菌』 著者 アランナ・コリン
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睡眠の話(3)

2018-01-06 09:52:07 | 健康・病気
 あけましておめでとうございます。本年も皆様にとって素晴らしい一年となることの祈念しております。当クリニックも、皆様の健康管理にお役に立てる医療を実践していきます。引き続きご指導ご鞭撻よろしくお願い申し上げます。

 さて、今年は初夢をみられましたか? 昨年末から睡眠に関する話題を提供しておりますが、今回は、“最高の睡眠”について考えてみたいと思います。

 睡眠で最も重要なのは、入眠直後から始まる最初の90分間のノンレム睡眠(黄金の90分間)です。この睡眠がしっかりとれれば、①自律神経が整い、②成長ホルモンが分泌され、③脳のコンディションが良くなります。
 そして、睡眠の主な役割である、①脳と体に「休息」を与える、②「記憶」を整理して定着させる、③「ホルモンバランス」を調整する、④「免疫力」を上げて病気を遠ざける、⑤「脳の老廃物」をとる、が果たされ、睡眠の8割が確保されたと言われています。

 最高の睡眠”をとるためには、体温をコントロールすることが大切です。

体温スイッチ  覚醒時は、体温を上げてパフォーマンスを上げる。入眠時には、皮膚温を上げて(熱放散して)、深部体温を下げる。黄金の90分には、しっかり体温を下げて眠りの質を上げる。朝が近づくにつれて体温を上げて覚醒する。
このための方法として、就寝90分前の入浴、すぐ寝る時はシャワーか足湯、寝室を快適な室温に保つ、などが有効です。

脳のスイッチ  寝る前は、単調な(退屈な)状態にすること、睡眠のルーティンをつくる(いつもの時間に、いつものベッドで、いつものパジャマで、いつもの照明と室温で寝る)、ことが速やかな入眠を促します。
朝起きたら光を浴びる、手を冷たい水で洗う、朝食をしっかり噛んでとる、早足のウオーキング(汗だくのジョギングはだめ)、コーヒーを飲む、重要な仕事を朝にするなどで覚醒スイッチをオンにすると良い覚醒が得られ、その結果良い睡眠をもたらすと考えられています。

“黄金の90分間”しっかり眠りましょう。「果報は寝て待て」です。


参考文献:サンマーク出版『スタンフォード式 最高の睡眠』 著者 西野 精治
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睡眠の話(2)

2017-10-30 17:14:32 | 健康・病気
 今回は、睡眠にまつわる皆様の疑問にお答えするQ&A形式でお送りします。

Q.睡眠は何時間とることが必要でしょうか?
A.年齢により違います。若い方に比し、高齢者は睡眠時間が短く、日本人の平均は6時間程度と言われます。一般的にも、長時間睡眠が良いわけでなく、6~7時間程度の睡眠が健康に最もよいと考えられています。
また単に時間ではなく、質の良い深い眠りが重要です。睡眠の前半は、深い眠りで脳が十分休養し、後半は、浅い眠りで覚醒に向けて準備し、朝すっきり目覚めるという役割分担もあります。

Q.体内時計とは?
A.ヒトに限らず、すべての生命が約24時間周期の時間を把握し、昼夜を認識するシステムをもっています。これを体内時計といい、ヒトでは脳内の視交叉上核とよばれる部位にあります。この細胞は、時計遺伝子に基づいて時計機能を担うたんぱく質を製造し、これが24時間周期で変動することにより時間をとらえます。
体内時計は、朝、太陽の光を浴びる(見る)ことによりリセットされ、その約15~16時間後にメラトニン分泌増大、深部体温低下などが起こり、睡眠を促すように働きます。
人の生活パターンで朝型、夜型がありますが、時計周期が24時間と同じか短めの人が朝型に、長めの人が夜型になりやすいと考えられています。

Q.昼寝はしてもいいですか?
A.時計遺伝子の働きで、午後早い時間帯に積極的に眠りを促している可能性も指摘されています。すなわち動物の昼寝と同じで、日中気温が高い時間に活動するとエネルギーの消耗が激しいので休むという考え方です。これは昼食のあるなしには関係ありません。
昼寝をすると午後からの仕事効率が上がるとの報告もあり、眠気があれば、30分以内の浅い眠りはよいとされています(個人差がありますから、夜間の睡眠で十分とれており、眠気のない人は必要ありません)。

Q.不眠症とは?
A.①寝つきが悪い(入眠障害)、何度も目を覚ます(中途覚醒)、早く目覚めて再入眠できない(早朝覚醒)、熟眠感かない(非回復性睡眠)などの夜間不眠症状と、②それにより日中の身体精神機能に影響を伴っているという二点が求められています。
 また、不眠症状の出現する他の疾患(うつ病、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害など)を鑑別する必要があります。

Q.不眠症の治療は?
A.睡眠衛生指導(定期的な運動、寝室環境の整備、規則正しい食生活、就寝前の水分・カフェイン・飲酒・喫煙制限、寝床での考え事、就寝2時間前の入浴など)、認知行動療法(起床・就寝時刻など睡眠スケジュールを決定しカウンセリングしながら調節する)と薬物療法があり、これらを組み合わせて治療します。

Q.睡眠薬の種類とその副作用は?
A.脳の働きを抑える(GABA神経系)に作用する薬に、ベンゾジアゼピン系(ハルシオン、デパス、レンドルミン、ロヒプノール、ユーロジンなど)および非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリー、ルネスタなど)があります。前者は、催眠作用に加えて筋弛緩作用や抗不安作用もあるため、効果はやや強いのですが転倒や依存といった副作用が問題になります。後者は、より催眠作用に特化しているため副作用が少なく、最近よく使われるようになっています。
メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)は、体内時計を整えるという生理的作用機序をもち、効果は比較的弱いのですが副作用が少ないと考えられています。
最も新しく開発されたオレキシン受容体遮断薬(ベルソムラ)は、覚醒を維持するホルモンを抑え、睡眠を促し安定させる作用が期待されています。

Q.睡眠薬を飲むと認知症になるのでは?
A.ベンゾジアゼピン系睡眠薬の長期服用にて、一時的に認知機能(記憶力や判断力など)が低下することが報告されていますが、多くは休薬にて改善することが知られています。
睡眠薬を長期服用することにより認知症発症の危険性が高まるかについての疫学調査の結果は、一定せず、まだ結論は出ていません。ただ、不眠症自体が、認知症の発症リスクであるため不眠症が強い場合は治療が必要です。

Q.睡眠薬を飲むと止められなくなるのでは?
A.現在用いられている大部分の睡眠薬には強い依存性はありませんから、短期間服用するには問題ありません。ただ長期間、高用量服用すると依存する可能性がありますから、不眠が治っている場合は、減量、屯用、休薬日を設けるなどの方法を主治医の指導のもとに検討して下さい。


参考文献:中公新書『睡眠のはなし』 著者 内山 真
        じほう『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』 編集 三島和夫  
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睡眠の話(1)

2017-09-10 09:44:14 | 健康・病気
皆様は、すっきり快適な目覚めで毎日をスタートしていらっしゃいますか?
ある調査によると日本人の5人に一人が不眠の悩みをもっているそうです。

さて睡眠の役割は何でしょうか。
我々哺乳類は、魚類、両生類、爬虫類といった変温動物から進化して恒温動物となりました。身体の内部環境を一定に保つことができる恒温動物は、環境に対する適応力が大幅にアップし活動範囲が増えました。 しかし一方では、体温を保つために多くのエネルギー(食物)を獲得しなければなりません。また、内外からの情報を処理し、よりよく対応するために大脳を発達させる必要がありました。この高度に発達した大脳をもつ高等生物の頂点にいるのが人間です。
大脳は膨大なエネルギーを必要とし、活性酸素のような有害な老廃物も産生し、機能変調をきたしやすいという脆弱性を併せ持ちます。この大脳をうまく働かせるためには、休息を上手に管理する技術が必要となります。これが睡眠であり、身体が休む時間帯に大脳をうまく休息・回復させ、必要な時に高い機能状態の覚醒を保証する機能です。 すなわち、睡眠とは、身体が休む時に脳の活動をしっかり低下させ休養させるシステムなのです。

このシステムは、体内の温度を積極的に下げることで成り立ちます。体内の温度が下がると、生命を支えている体内の化学反応が不活化し(代謝が落ち)、休息状態となります。人間は、手先や足先から熱を逃がし、体内(脳内)の温度を下げ、強制的に脳を休ませているのです。

睡眠には、主に大脳を休める睡眠で睡眠の80%を占めるノンレム睡眠と、主に身体を休める睡眠で、残り20%を占めるレム睡眠があります。ノンレム睡眠とレム睡眠は90~120分の周期で繰り返し、入眠時はノンレム睡眠が多く、覚醒前にはレム睡眠が多くなります。
ノンレム睡眠は、眠りの深さにより三段階に分類されます。深い睡眠時には、自律神経系が安定的に働き、呼吸、循環は穏やかに保たれ、寝汗によりさらに脳の温度を下げ、脳はしっかり休息します。
レム睡眠は、脳は少し活動していますが、四肢筋肉は脱力しているため、いわゆる金縛りが起こる睡眠で、その多くで夢を見ています。
元々レム睡眠があり、大脳の発達に伴いノンレム睡眠が発達したと考えられ、脳は休むが身体は動くノンレム睡眠と身体が休むが脳が活動するレム睡眠を繰り返すことで、無防備な時間帯を少なくする役割があったと考えられています。

さてここから、少し専門的になります。睡眠・覚醒の基本メカニズムは、覚醒系神経(ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、オレキシン作動性など)と睡眠系神経(GABA、ガラニン作動性など)のバランスを生物時計(体内時計)が制御することにより生じると考えられています。
日中の活動に応じて睡眠欲求が高まりますが、覚醒系シグナルを高めることにより覚醒水準を維持します。覚醒シグナルの強度は時間依存性であり、生物時計により駆動されています。入眠の2~3時間前に覚醒水準は最も高くなり(入眠禁止ゾーン)、その後急速に眠気が強まります。これは、この時間帯に、松果体からメラトニンの分泌増大、深部体温の低下、糖質コルチコイドの分泌抑制など睡眠を促進する生理機能が高まることに由来します。入眠すると睡眠欲求は急速に減少し、十分な睡眠がとると消失し、覚醒します。これが、睡眠・覚醒に関する24時間の日内変動リズムです。



眠りを誘発する経路として、日中の活動で脳疲労物質(プロスタグランディンD2)が蓄積し、これを眉間の奥にある受容体が感知し、アデノシン神経系を介して視床下部のGABA神経系の活性化させることが知られています。GABA神経系は、ヒスタミン覚醒系神経を抑制し、入眠を促します。
コーヒー・お茶(カフェイン)は、アデノシンを抑制することで睡魔を妨害します。アルコールやベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA神経系を活性化することで眠気を誘発します。また風邪薬や花粉症薬に含まれる抗ヒスタミン成分を摂取すると覚醒系神経を抑えて眠くなります。


参考文献:中公新書『睡眠のはなし』 著者 内山 真
     じほう『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』 編集 三島和夫 

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