よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

ヒトと微生物の共存

2018-04-03 15:19:52 | 健康・病気
 人は、ヒト細胞のみで形作られ生きているわけではありません。ヒトは40兆個弱の細胞からできていると言われています。しかし私たちの腸内には少なくとも100兆個4000種類の腸内細菌が棲息し、皮膚や口腔内その他の部位にも多数の細菌・菌類・ウイルスなどの微生物が存在します。古来から、これらの微生物と共存しともに進化してきたのが人体という生物の集合体なのです。

 ヒトの遺伝子は、たかだか2万1000個ですが、これら微生物の遺伝子の総和は440万個といわれ、遺伝子ではわずか0.5%を占めるにすぎないのです。ヒトほど複雑に高度に進化した生物は、その基本的設計図である遺伝子が他の生物より多いと考えられていましたが、実は、ミジンコや植物のイネなどよりも遺伝子が少ないことが判明しました。ヒトは、自分で作れない蛋白質やビタミンを共生している微生物に作らせ、それを利用することにより生きているのです。

 さて近年、便を調べることにより腸内細菌叢を知ることができるようになりました。それによると、先進国では腸内細菌叢の多様性が未開の地のヒトに比べて減っていることが判明しています。そして腸内細菌叢のバランスの崩れが、かつて人類が経験したことのない、肥満、糖尿病などの代謝疾患、過敏性腸炎などの消化器疾患、喘息、花粉症などのアレルギー疾患、自閉症、うつ病などの精神疾患の大きな要因になっていることがわかってきました。

 したがって、これらの病気を予防・治療する上で、腸内細菌叢の健全化は重要な意味をもちます。健常者の便を患者に移植する便移植も実臨床に応用され成果を上げています。それ以外にも、善玉菌のエサになる食物繊維や発酵食品をしっかり食べる、腸内細菌叢を撹乱する抗生物質、化学物質の乱用を避ける、過度の衛生は不要、できるだけ経腟分娩で生み母乳で育て母親の良質な細菌叢を子供に継承するなどの対策が有効です。
私たちは、遺伝子自体を変えることはできませんが、環境を整えることによりその発現を一部調節することができます。それと同じように、共に暮らす微生物を選ぶことができるのです。
   
  
  参考文献:河出書房新社『あなたの体は9割が細菌』 著者 アランナ・コリン
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