〈毎日暑い日が続きますね。昨日のNHKニュースによると、19日も西日本を中心に気温35℃以上の猛暑日となり、広島県福山市などで38.3℃を記録。全国で298人が熱中症のため病院に運ばれたそうです。皆様も十分にお気をつけくださいね〉
先日、NHK総合TVで「どこか変だぞ 日本の自然」という、「2010国際生物多様性年」に絡めた番組が放映されていました。その中で、奥日光(栃木県日光市)のシカ問題が取り上げられていました。「ニホンジカが増えた結果、ある野鳥ばかりが増えた」-と。
増えた野鳥って何かおわかりですか?
キツツキの仲間など、木の洞(うろ=穴)を利用する鳥たちです。アカゲラやコゲラ、コガラ…現在、奥日光で見られる野鳥の約7割を占めるまでに。でも、どうしてなのでしょう?
その答えは、
増えたシカが(一部の植物を除いて)地面の草をほぼ食べつくした
?
食べるものがなくなったシカは、樹木の皮を剥いで食べ始めた
?
樹皮を剥ぎとられて形成層(樹皮の下にある細胞分裂をする組織)を失った樹木が枯れ始めた
?
枯損木を幼虫の餌とするカミキリムシなどが多く集まって来た
?
その幼虫を好物とするキツツキの仲間などが増えた
-のだそうです。
こうして聞くと「なるほど」と頷けますね
奥多摩でも、シカが原因になって予想外の問題が起きている場所があります。西多摩郡奥多摩町の奥多摩湖北岸にある倉戸山(くらとやま・1169.3m)。昨日、行って来ました。実はこの山、奥多摩では「●●●の多い山」として有名です。
今回は、標高約600mの同町 熱海(あたみ)、ちょっと洒落た地名の集落からの往復です。
昨日の奥多摩は、幸いにも曇り空。気温は30℃を切り、涼風にも助けられました。霧に包まれたクリ、ミズナラ、ホオノキ、オオモミジ、ナツツバキ…広葉樹の森が幻想的で、美しい。しかしここでも、シカによる真新しい樹皮剥ぎがちらほらと見受けられました。
二等三角点のある頂上。樹林に覆われた広く、静かな場所ですが、どこか違和感を感じませんか…?
こちらの写真は、どうでしょう?目につく草本はマルバダケブキ(丸葉岳蕗/キク科)ばかり。8/13「歴史と文化と花?…の道」でもご紹介した、シカが食べない植物ですね。
鮮やかな黄色の花。
北アルプスなどシカが入っていないエリアでは、お花畑を構成する重要な種として彩りを添えているのですが、これだけになってしまうと、やはり痛々しさを否めません。
同じコースを下山します。
この2枚の写真の中に、奥多摩での問題が隠されています。いずれの場所も、倒木や枯枝のそだ(束ねたもの)を置いて誘導しているため、歩道がわかるかと思いますが、実はこの倉戸山、「道迷いの多い山」として有名なのです。特に下りで…。
倉戸山自体がなだらかな山容をしており、地形が読み取りにくいことに加えて、シカの食害により下層植生がきれいになくなったため、道と道でないところの区別がつきにくくなっているのです。これが落葉期の秋になると、落ち葉で道が隠され、ますます難解になります。秋の日はつるべ落とし-道に迷って日が暮れて…救助要請が入るのです。
(最近は、東京都など歩道管理者設置の簡易道標やそだによる誘導で随分改善されました)
もちろん遭難の最大の原因は、
・倉戸山を甘く見ている
・昼頃から出発し、下山が遅くなる
・ヘッドランプ、地図・磁石などの登山装備を持っていない
・携帯電話ですぐに救助要請をする
など、登山者側に問題があるケースも多いのですが…。
「シカが増えると、道迷いが増える」-は言い過ぎかもしれませんが、これも、増え続けるシカが思わぬ形で引き起こした連鎖の一つと言えそうです。
「自然界は一つバランスが崩れると、思いもかけない方面に波及していく。生物学の研究が進んだ現在でも、実際にどう波及していくかは(奥日光のケースのように)実際に起きてみないとわからない」とは、先のNHK番組に出演していた専門家の弁。
この言葉、心に残りました。これらの連鎖がどこまで発展するのか…誰にもわかりません。人間と、シカに代表される野生動物、引いては自然が共生できる道を探り、着実に実践していくことの大切さを実感しました。
(倉戸山山頂にある注意標識)
7月に行ったとき、この植物ばかりが目立って、ほかの花がほとんど見られませんでした。
とても異様な感じを受けましたが、鹿が食べないから残ったのですか。なるほど・・・
「自然界は一つバランスが崩れると、思いもかけない方面に波及していく。」というのは本当にそうだと思います。
人間の浅知恵などでは読みきれないほどに自然は複雑にいろんな要素が絡み合って形成されているんですよね。
人為的かく乱を最小限にするとともに、注意深く見守ることも大事ですね。
実際に奥多摩を歩かれて実感されたことと思います。こういった光景って、西日本ではまだ見られませんよね?私は記憶にありません。
もちろん、こうなってからでは遅いのかもしれませんが…。