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アニメ及び周辺文化に関する雑感

【DCSS】初音島桜前線注意報(13) 白河ことり・恋愛の彷徨

2005年10月21日 | アニメ
 第14話、第15話は音夢の復活以来しばらく表舞台から消えていたことりが、自分の気持ちと向き合う話でした。
 今回はTVシリーズにおけるヒロインキャラクターとしての白河ことりの位置付けと、これからの役割を考察してみましょう。

(1)他人の心を読める少女

 前作では彼女もまた、枯れない桜の魔法によって不思議な力を与えられた少女でした。彼女に与えられた力は他人の心を読む力。いや、読むというより耳に聞こえたり心に流れてくると言った方が適当なのかも知れません。彼女自身ではその力をコントロールできてなかったようですから。
 枯れない桜の木の魔法……それは願ったことを叶えてくれる魔法。ならば、他人の心を読む力も彼女自身が望んだ力だったはずです。
 何のために彼女はその力を欲したのか。他人の考えがわからなかったから? 他人の気持ちが信じられなかったから? でも、その力が彼女にもたらしたのは、知りたくも無い他人の本音とか、必ずしも意図したものではなかったはずです。

(2)純一との出会い

 物理的に2人がいつ知り合ったのかはわかりません。しかし、前作のスタート当初の時点では、ただ同じ学年同士として知り合っていただけで、さして親しい間柄ではなかったようです。
 ことりは他人の心が読めるという力のために、逆に他人に対して脅えを持ってしまいました。他人に自分を酷く思われることを極端に嫌い、そのために必要以上の気配りに徹して八方美人を振舞っていました。
 周囲の人間はことりにそんな力があるだなんて思わないから、ことりの気配りをことりのやさしさだと思い込み、ことりを学園のアイドルに押し立ててしまいました。しかし、そんな特別扱いされればされるほど、ことりは他人の自分に対する評価が気になって、傷付き脅えるようになっていったのです。
 そんな時に、自分に対して特別な感情や評価を持たない純一の存在を見付けました。いや、主人公の本心が何の穢れも無い聖人君子なんてことはありえないと思いますが、おそらくその時の純一の心の中は「かったりぃ~」だけでいっぱいだったのでしょう。

(3)力の喪失

 純一との出会いによって自分の力との折り合いを付けて何とかやっていたことりですが、その彼女に次の危機が訪れます。それは、力の源であった枯れない桜が枯れたことによる力の喪失でした。
 流れてくる他人の心に合わせることで八方美人を演じてきたことりにとって、それが出来なくなるということは、自分が他人から嫌われる厭な人間になってしまうという恐れを生み出してしまいました。
 その不安を取り除いたのが唯一彼女の力を知っていた純一でした。彼女は普通に他人と向き合い、付き合っていくことを始めたのです。そして、その最初の一歩として純一に告白しました。
 答えは最初から知っていたはずです。ことりはずっと純一の心の中を見ていたのですから。でも、それは彼女が過去の力に囚われた生活から飛び出すための大きな一歩だったのです。

(4)サポート部隊

 ことりと純一の関係はそれで終わるはずでした。しかし、事態は予期せぬ方向に向かいました。純一が選んだ本命、音夢が初音島を出て行ったのです。
 これはことりにとってチャンスでした。いや、当初は本人もそんなことは考えてなかったのかもしれません。しかし、音夢との関係が深い美春や眞子に混じってことりがサポート部隊に入るには純一との個人的な繋がり以外は何も無い彼女にとって、何か背中を押すものがあったはずです。
 それは、本校に入ったら同じクラスになったとかいう単純なものかも知れませんし、純一には世話になったという感謝の気持ちからかも知れません。でも、美春や眞子を差し置いて彼女はいつの間にかちゃっかり純一の彼女的立場に収まっていたのです。
 それがいつ始まったのかは語られていません。サポート部隊が始まった直後のことだったのか、それとも割とつい最近の話だったのか。しかし、それはあくまで偽りの関係。純一の心の中には音夢のことしか無かったのはことりが一番良く知っていたはずでした。
 そのままずるずると続けていると後戻りできなくなるということは本人が知っていたはずです。それでいて、ことりはその偽りの関係に安らぎを感じていたのです。たとえ純一に相手にされていないことがわかっていても……
 しかし、本人にまったくその気が無いとはいえ、そのままの状態でことりを側に置いていた純一も残酷すぎる男ですね。

(5)音夢の帰還

 3年目の夏、音夢は初音島に帰って来ました。純一との関係を何ら疑うことも無しに……(いや、アイシアを絡めて多少の齟齬があってドタバタしてましたけど)
 サポート部隊は自然解消。ことりは黙って純一の側から去っていきました。最初からこの2年間のことは夢だったと思い込むように……その寂しげな姿に気付いたのはアイシアだけでした。
 確かにことりにとって純一と音夢の間というものは何者も割って入ることの出来ない大きな壁のように感じていたのかもしれません。それは3年前にふられた経験。そして、この2年間ずっと純一を見て来たから……
 自分の本当の気持ちを言えないのは辛い。でも、それを言ってしまえば音夢が傷付く。何よりも純一が傷付く。他人に気配りすることで自分の居場所を築いてきたことりにとって、自分の行為で他人を傷付けることは何事にもまして恐ろしいこと。自分が他人を傷付けてしまえば自分が嫌われる。自分のこれまでの行為が偽りにごとく壊れてしまう。自分の居場所を無くしてしまう……
 それは力を失った時に一度は乗り越えて来たことですが、自分の性格なんてそう簡単に変えられるものではありません。他人の心を直接読む力は失っても、それ以外で他人の心を慮ることは出来ます。他人の心の声が耳に飛び込みことはなくなったけど、周囲の人間の自分に対する反応には敏感になります。以前のように誰でも彼でも相手に八方美人を演じてはいられないかもしれないけど、周囲の身近な人間には気配りによる人間関係を続けていたのでしょう。

(6)本心の吐露

「だって、朝倉くんのことが大好きですから」
 海辺の温泉旅行でサポート部隊のお礼を言う音夢に、ことりはつい口を滑らせてしまいました。
 その場に純一がいなかったこと、とっさに眞子が機転を利かせたこと、そして何より音夢がさくらと対決してた頃とは違って、ボケボケに鈍くなっていたおかげでその場での修羅場は回避されました。まあ、ことりにはあるまじき失態です。
 この旅行でことりは白い水着を持ってきていました。でも、それが音夢の水着と同じことを知ったことりは、水着を忘れたと偽っていました。それは本人が音夢と同じ水着を着ることを拒否したという見方も出来ますが、ことりのことだから単純に音無を気遣い、自分が嫌われるのを避けたと考えた方が妥当でしょう。
 そこまで自分を押し殺しながらも、つい音夢の前で本心を口にしてしまったことり。よほど感情が追い詰められていたに違いありません。

(7)焼きそばサラダ

 一度は口にしてしまったけど、それを再び心に押し留めていることり。そんなことりの態度に納得できないアイシアは、音夢が帰って来る以前の純一とことりの関係を取り戻そうと画策します。
 音夢が研修で不在だからとスーパーでの買物に付き合わされたことりは、2年間のサポート部隊という名目での恋人役の記憶を思い出し、夕食を作ることを承諾します。ことりが選んだ料理は焼きそばサラダ。おそらく、純一との一番いい思い出が残ってる料理なのでしょう。
 しかし、作り上げた料理を冷蔵庫に入れようとしたことりは、そこに音夢の作り置きの料理があることを発見して、すべてがアイシアの策略だったことに気付きます。珍しくアイシアに怒ったことりは、そのままさっさと帰ってしまいます。
 ことりが他人に対して怒ってるって、おそらくこれが初めてだったと思います。ことりにとって他人を怒るということは、その相手を傷付け、自分が嫌われることに繋がるわけですから、滅多に怒ったりはしないはずです。そのことりが怒ったということは、怒りの限度が超えたのか、アイシアは八方美人の対象だと思ってないのか、それともことりの中の何かが変わったということですけど……ま、ことりじゃなきゃ当たり前のことなんですけどね。

(8)壊れた音符のガラス細工

 申し合わせた夏祭りに用事があると欠席してることり。眞子が協調性が無いと怒ってるのを聞いて不思議がってる純一だけど……八方美人のことりが他人との約束を破ったりすることはこれまで無かったんでしょうね。
 結局、みんな散り散りになり音夢とも離れ離れになった純一は、これまでのお礼をしにことりの家にやってきます。それを見て、ことりは浴衣に着替えて出掛けますが、心の中では純一に告白しようかどうか迷ってる様子です。
 突然振り出した雨、木陰で雨宿りする2人。意を決して告白しようとしたことりの前に純一は2年間のお礼だと言って、音符のガラス細工を渡します。それは2人にとって何か意味のあるデザインの置物みたいだけど、あいにくと音符の1つが壊れていました。
 取り替えてくるという純一に、そのままで良いと言うことり。壊れた音符は、壊れた思い出。2年間の思い出にはもう後戻りが出来ないと、ことりは悟ったみたいです。
 2年間の思い出に吹っ切れた感じのことり。たぶん、純一に対する恋心が消えたわけでは無いだろうけど、2年間の恋人役を前提に純一と付き合いたいとかいう自分の甘えとは吹っ切れたというところでしょうか。

(9)これからのことり

 第1話からの「恋人役」の流れでの純一に対することりの気持ちはリセットされた感じです。ことりにとっては3年前に純一にふられた時点まで戻ってしまったというところでしょう。
 これで終わってしまうのか、それとも新たなスタートラインに立つのか、それはことり次第ということです。現状の純一と音夢のラブラブぶりを考えれば3年前のリターンマッチを図ろうとしても、勝算は皆無に近いでしょう。でも、チャレンジするチャンスはいくらでも用意されているはずです。
 ことりにとって必要なのは、自分が何かを得るためには時として他人を傷付ける必要があるという現実を受け入れることです。自分が他人に嫌われることも恐れてはダメだということ。八方美人ですべてがうまくいくほど世の中は単純ではないのです。
 この先、ことりの恋がまた始まるなら、この辺のところはきちんと描かれてほしいところです。
(アニメでやらなけりゃ、後で自分で小説として書き起こそうか……)

(10)物語上のことりの役割

 ことりの役割というのは単独のヒロインというよりも、おそらくアイシアの恋の見本という位置付けの方が重要なんでしょうね。
 アイシアにとって純一の既定の恋人はことりであって、音夢は後から現れた謎の人って感じでしたから。もっとも、1クールが終わった時点ではアイシアも音夢のポジションを理解しているようですが、どちらかというとことりの方に肩入れしてるのは数々の介入振りを見れば明らかです。
 そりゃ、魔法使いの血を引くとはいえ、キリスト教文化圏からやってきたアイシアにとって、兄妹であり恋人であり(アイシアを除けば)2人だけで暮らしてる純一と音夢の関係というのは理解しがたいものがあるでしょう。それに比べれば純一とことりの関係の方が自然に見えていたとしても不思議ではありません。
 アイシアに影響を与えている人物としては他に美咲がいますが、美咲はアイシアに対して自分の気持ちは明らかにしていないので、現状、ただの相談役ぐらいにしかなっていません。
 つまりのところ、アイシアにとってはっきりと恋愛関係に見えていたのは純一とことりの関係だけだということですね。他のヒロインたちは眼中に無しってところです。ま、現実に(音夢を除けば)ことり以外は脱落状態だから判断として間違ってるわけでは無いのですが……

(11)もうひとりのことり

 前にも書いたのだけど、やはりこのシリーズでの美咲の位置付けというのはそういうところなのだと思います。
 共に恋心を抱きながらも純一に告白できない。自分が純一のことを好きでいながら現状の純一と音夢の関係も壊したくない……ことりの態度を理解できないアイシアに、それとなくその意味を語ってるのも、それが美咲自身の気持ちと同じだから言えることなのです。

 ことりと美咲、2人の影響を受けて自分の恋心に芽生えたアイシア……というのが今回のシリーズのクライマックスに掛けての展開でしょうか。
 そこで、未だに未登場のさくらですが、このままじゃどうせ出番も限られてるだろうから、最終回にふと現れて、失恋したアイシアを引き取っていくぐらいの役どころなんでしょうかねぇ。