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栗太郎のブログ

一人気ままな見聞記と、
手づくりのクラフト&スイーツ、
読書をしたら思いのままに感想文。

「三十光年の星たち」(上下巻) 宮本輝

2015-07-19 20:27:09 | レヴュー 読書感想文
それまで何度も職をかえ、恋人にも逃げられ、隣に住む老人に借金もし、行く先もおぼつかない30歳の青年・坪木仁志が主人公。冒頭、仁志はその老人・佐伯平蔵に、借金の返済の相談に行き、成り行きで、佐伯の借金回収の旅の運転手となる。その旅で仁志は、佐伯から時にささいなことで怒鳴られ、時に思いもかけずに褒められ、道中、上げられたり落とされたりと気の休まる間もない。なんで、そんな扱いを受けるのかよく飲みこめなま . . . 本文を読む

「紙の月」 角田光代

2015-01-12 13:44:28 | レヴュー 読書感想文
いつものおじさんに読みかけの本を問われ、”女子行員による巨額横領事件”をとりあげた話です、と答えた。するとおじさんは、ああ、足銀でもあったなそんな事件が、とつぶやいた。なんでも、事件が発覚した犯人の女子行員は、唆した男と逃避行、ようやく新潟の片田舎で捕まったのだという。宿に踏み込まれたとき二人は、裸で睦みあっている最中だったらしく、お互いの身体中にはキスマークだ . . . 本文を読む

「大悲の海に 覚鑁上人伝」 津本陽

2014-11-25 17:59:53 | レヴュー 読書感想文
先日、弥彦山中腹の西生寺を訪ねたとき、客殿の長押にかけられていた説明書きの中に、覚鑁上人の名があった。真言宗中興の祖という覚鑁上人とこの寺とのつながりはなんだろうと気になりつつも、即身仏の拝観時間が迫っていたので先を急いだ。帰ってきてから、本棚の中に背表紙に「覚鑁」の文字がある本を目にした。縁を感じて読み出してみたが、結局、興味にあった、寺とのつながりは直接はなかった。おそらく、西生寺の弘智法印( . . . 本文を読む

「木喰」 立松和平

2014-10-26 19:57:28 | レヴュー 読書感想文
タイトルに『木喰』とありながら、これは木喰にたかった、ノミとシラミの話であった。木喰上人の歌に、  「 木喰の裸の姿眺むれば のみやしらみの餌食なりけり 」 というのがあるが、だからといってなにも、ノミとシラミに木喰上人の生き様を語らせることはないと思う。しかも、上人の長い93年の生涯のなかの、たかだか61歳頃からの5年くらい(蝦夷地、陸奥、野州、江戸、信州、佐渡まで)しか描かれていない。上人を書 . . . 本文を読む

「そこのみにて光輝く」 佐藤泰志

2014-09-03 18:10:47 | レヴュー 読書感想文
まず、公開まもなくに映画を観た。当代、人気引く手あまたの綾野剛観たさに。その綾野(達夫)をも呑み込んでしまう空気につつまれた、池脇千鶴(千夏)の演技に圧倒されっぱなしの二時間。社会の底辺で生きている人間の、それでも尊厳を失わぬよう、へばりつくように生きている姿。失わないように懸命に、そこだけを自分が自分である唯一の支えであるかのように。身体を安売りしても、愛想笑いはしないし、気に入らなければ相手が . . . 本文を読む

「私の男」 桜庭一樹

2014-06-30 18:58:16 | レヴュー 読書感想文
※ネタバレあり。なぜならば、ネタをばらさないとレビューの核心に触れられませんので。まず、この本を読んだことを後悔している。話は近親相姦、こともあろうに、親と娘の。はじめは、「血のつながらない」養父と養女と思い、だんだんそれが「実の」親と娘であるというそのタブーを知るのは、中盤あたり。もしや?と想像しつつ、その事実を知ったとき、あまりの嫌悪感に読むことをやめようとさえ思った。しかし、この作家がタブー . . . 本文を読む

「熊野物語」 中上紀

2014-06-12 21:38:42 | レヴュー 読書感想文
詩嚢を肥やしていてこそ楽しめるおとぎ話のような短編集。どれも、「熊野」に関わる説話を下敷きに、時代も古代から現代、人物も多岐。まるで、和歌の世界の、本歌取りの妙にうならされるがごときの数々。『浮島の森』は、上田秋成の『蛇性の淫』の話だとぴんとくるが、けして現代訳にしただけの物語ではない。豊雄に執着した蛇の正体とは、もしや伊乃だったのか、と幻惑させられる。天竺にあるマガタ国の国王にかしずく『千人の妃 . . . 本文を読む

「紀州 木の国・根の国物語」 中上健次

2014-06-08 17:03:59 | レヴュー 読書感想文
新宮生まれの作家、中上健次。彼が自らの生まれ故郷の紀州を、半年以上掛けて聞き取り歩いたルポルタージュである。新宮に始まり、東は松阪、西は和歌山市。紀ノ川を上って吉野も御坊も訪ね、十津川も行く。地域に残る風俗風習を探し歩いた先人といえば柳田國男や宮本常一がいて、故事や事跡を訪ね歩いた達人に司馬遼太郎がいるが、中上の歩く場所は違う。その取材対象の基準は、作者の言葉で言うところの「差別と被差別の回路」だ . . . 本文を読む

「神去なあなあ日常」 三浦しをん

2014-05-15 00:23:40 | レヴュー 読書感想文
高校をでて、適当にフリーターとかやって生きていこうかとぼんやり考えていた高校生・平野勇気が、担任が勝手に決めてきた林業の世界へ就職する。就職といっても、国の補助を得た一年間の研修制度。三重の山奥にある神去村にはじめてやってきた頃の勇気はまるで、島流しにでもされたような、いや、タイムスリップでもしたような、それまで住んでいた横浜とのギャップに振り回されっぱなしだった。野生児のような先輩・ヨキに年がら . . . 本文を読む

「QED 熊野の残照」 高田崇史

2014-04-20 18:41:31 | レヴュー 読書感想文
先日の伊勢・熊野の旅にあわせて読んだ、この本。薬剤師の桑原崇(タタル)、同僚の棚旗奈々を中心に、いつものメンバーが熊野を巡る。今回は、旅の同行者・神山禮子が、ストリーテラーとなって話が進行していく。この禮子自身の出身が熊野なのだが、その素性を伏せてでも熊野に来なければならぬわけがあるようで、なにやら曰くありげな匂いがくすぶる。何かを隠し、人との接触を避け、人を疑うような視線でいる。まるで、人間から . . . 本文を読む

「QED 伊勢の曙光」 高田崇史

2014-02-26 17:56:53 | レヴュー 読書感想文
物語は、東京銀座での展覧会に出展予定だった、伊勢の小さな神社・海風神社の秘宝が盗難にあうところから始まる。しかも、その宝の鮑真珠『海の雫』(アマノシズク)を持ってきた神職が殺害されていた。そこで、事件解決を請け負った、タタルこと桑原崇が、棚旗奈々とともに伊勢に向かう。作者は、伊勢神宮についてはこういう。そもそも大和朝廷にとって、伊勢は忌避なる存在だという。 伊勢は常世=黄泉の国との境界ともいう。そ . . . 本文を読む

「伊勢神宮の暗号」 関裕二

2014-02-13 20:00:17 | レヴュー 読書感想文
著者は、はじめにいう。〈伊勢神宮が整えられた七世紀から明治維新に至るまで、持統天皇と明治天皇のたった二人しか足を伸ばしていない〉、と。なんとも、びっくりした。歴代、ほとんどの天皇が訪れていないのだ。けして京都から伊勢が遠いことはない。距離だけをいうのなら、伊勢より離れた熊野など、悪路を越えてまで何度もお参りしている天皇さえいる。世間一般の感覚で言えば、熊野に行った帰りに、ちょっとご先祖様のお墓参り . . . 本文を読む

「箕作り弥平商伝記」 熊谷達也

2014-02-04 21:52:53 | レヴュー 読書感想文
満足な身体を持たなくとも、これだけは人に誇れると自負するものを持った人間のメンタリティは強い。両足の長さが違うために、ひょこひょこと体を揺らしながら歩く弥平もそのひとりだ。彼は、自分の作る「箕」の出来のすばらしさを自負するからこそ、困難も乗り越えられる。人からからかわれようとも、馬鹿にされようとも、俺の作る箕を見てもらえれば、何も恥じることはないと。そんな描写の導入から入ったので、てっきりハンデを . . . 本文を読む

「上野介の忠臣蔵」 清水義範

2014-01-30 21:42:11 | レヴュー 読書感想文
昨年11月の新聞で、目を引いた記事があった。12月から、宮内庁HP内にある、図書寮文庫所蔵資料目録・画像公開システムで、吉良上野介屋敷図が閲覧できるというものだった。(写真の掲載には申請が必要とのことなので、ここに画像はありません)見てみると、案の定、吉良邸討ち入りの際の詳細な配置図。東側の表門を入ったところには、「大石内蔵助」の字が朱書きされている。ほかにも、よく聞く名前がそこかしこに。僕はしば . . . 本文を読む

「秩父困民党」 西野辰吉

2014-01-26 10:01:11 | レヴュー 読書感想文
ご一新この方、明治政府が西洋列強に追いつこうと躍起になっていた頃。地方経済は、急激な産業構造の変化についていけず、きしみが生じていた。政治では、自由民権運動が活発化してき、農村部では、借金ばかりが増える農民の不平が爆発寸前だった。そしてとうとう、各地で暴動が発生し、秩父地方でも農民が武装蜂起するに至った。(細かい解説wikiに譲ります。)さて、先日秩父を訪ねたせいもあり、その事件が気になっていた。 . . . 本文を読む