栗太郎のブログ

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「たたらシンポジウム」 @東京国立博物館 平成館大講堂

2012-11-25 18:22:29 | 見聞記 関東編

「出雲展」を観たあと、隣りの平成館で行われたシンポジウムへ。
シンポジウムのテーマは、たたら、なのです。

  http://東京たたら.jp/

司馬遼太郎『街道をゆく・砂鉄のみち』を読んでおいたのは、このシンポジウムの予習というわけ。


会場内は、眼鏡をかけた理工系のひとでいっぱいで、僕のような趣味で来ましたって人は見当たらない。
基調講演の講師は4人。
まずは、日刀保たたら、村下の木原明氏。
「日刀保ニットウボ」とは、日本美術刀剣保存会の略。代々木にある刀剣博物館の、あそこです。
「村下ムラゲ」は、たたらを操業する際の責任者。大工でいう棟梁のような立場。
日本刀は、たたら製鉄でつくりだす「玉鋼」を原料としているが、昭和になってそのたたらの存続が危ぶまれた。
そこで、日立金属の協力により、「日刀保たたら」として復活し、そのときに後継者の育成もはじまった。
木原氏は、その時の一人なのである。
だから、言葉の端々に、自分たちがたたらを守っているという誇りと愛情がビンビン伝わってくる。
内容は、日本における製鉄の歴史から始まり、出雲のたたらの特徴や現状の解説、たたらを通じた「ものづくり」「ひとづくり」まで。
現場・現物・現実の「三現主義」など、ものづくりの基本だなあと思った。

2人目は、刀剣研磨の藤代興里氏。
日本刀の刃文についての解説。日本刀の切れ味のような鋭く乱れのない語り口。

3人目は、東大准教授、宮本英昭氏。
このかた、どうやら惑星についてが専門のよう。
で、なぜにたたらのシンポジウムに?と思ったら、地球は「鉄の惑星」だという切り口。
全元素の中で、もっとも安定した元素核を持つのが鉄で、地球の1/3はその鉄で出来ているのだとか。
鉄の中心核は強力な磁場を作り出し、宇宙からの放射線を防いでくれているらしい。
そんな鉄で守られた環境のおかげで、地球に生命体が生まれたのだという。
それに、人間の血液の赤い色の素(ヘモグロビン)は、鉄。私たち人間は鉄なしには生きていけないわけだ。
さらにいえば、人類の機械文明も電気文明も鉄のおかげ、等々、鉄という物質と、地球と人間との関係を解説。
また、紹介していた新日鉄の「鉄学」の絵本(たぶんこれ)。言われていたように、たしかにわかりやすくていい。
鉄は、宇宙と地球に豊富に存在していて、かつ原子核が安定しているから加工もしやすい。
ただし、燃料とする炭を多量に消費するなど製鉄段階での環境負荷が高い。だから、未来型は「循環型」になっていくだろうという。


4人目は、東北大教授の安田喜憲氏。
この方が一番ぶっ飛んでいて面白かった。
鉄を道具として必要とした稲作の話を中心に、そこから生まれる神話の意味を氏独特の解説で語る。
古代中国において、稲作は1万年前から始まっていた。
長江を中心として稲作文明は発展していたが、4200年前に大きな気候変動があって寒冷化へと変化したのが発端となり、黄河付近の畑作牧畜民が、南下して耕作地を求めてきた。
そのため、長江付近の稲作漁労民は、押し出される形で大陸奥地(雲南省)や台湾、そして日本(越)へと逃れた。
そう、ここから日本の弥生時代が始まるのだ。

中国湖南省にある遺跡には、太陽・鳥・蛇・柱をシンボルとして崇拝していた記録が残るらしい。
太陽は、時代地域を問わず、信仰の対象となったもので、疑いの余地もない。
鳥は、天地を結合するものなのだとか。
遺跡には「鳥の絵」があり、インディアンのかぶるような羽飾りをつけた鳥人間が、シャーマンの役割をしていたという。
いまでも、中国奥地の少数民族(苗族とか)では祭祀の装いで、まるで中南米の民族衣装のような色彩と装飾のものがあるが、それはその名残なのだ。
古代遺跡に残る絵や彫刻に記された図案において、丸は太陽、四角は大地、三角は蛇という。
たしかに、とぐろを巻いた蛇は三角である。
蛇はクチナワとも読み、ゆえに「朽ち縄」で、たとえば長野の諏訪大社などにも巻き上げた縄があるのは、とりもなおさず蛇なのだ。
ただ、古代の絵はシンプルというか稚拙であったろうから、三角がすべて蛇を表したものではないと思うのだが。
また、氏は、注連縄は二匹の蛇の交尾している姿なのだと言っていた。
となれば蛇は、その姿からしてよくウナギにも模して言われるナニであろうし、子孫繁栄の象徴なのだろう。

日本にも、長江の稲作漁労民の末裔らしい痕跡があるという。
雲南省の人々と、同じ山陰の角田スミダ遺跡(鳥取県淀江)の人々はDNAが一緒らしい(あれ、骨格とかだったかな?)。
それだけに、最近の市町村合併で、島根県山間部の新自治体名が「雲南市」となったことを喜んでいた。

他には、ワニについて。
中国大陸においてワニは、黄河には存在せず、長江にしかいない。
日本書紀(事代主が化けた八尋ワニ)や出雲風土記(玉日女を慕うワニ)、肥前風土記(世田姫を慕うワニ)にワニが出てくる。
ゆえに日本の神話のルーツは、長江からで、朝鮮半島ではないと。
まあ原始的なルーツはそうだろうけど、僕としては、そこにのちのち朝鮮の物語が編み込まれて、日本の神話が形づくられていったのだと思う。
それは、日本民族が、先住民と大陸と半島から来た渡来人との混血民族であるのと同じように。


4氏の講演が終わると、国立科学博物館の鈴木氏、NPO法人ものづくり教育たたら理事長の永田和宏氏を交えてのシンポジウム。
(え~、あの歌人のお方ですか?と思いきや、単に同姓同名なだけでした。)
みなさん、鉄に関して熱く語っておられました。
でも、たいていこういうシンポジウムは、時間が足りずに言いたいことを言い切れなかったって感じが多いです。

このあとの予定として、翌日は、東京藝術大学グランドで、たたら操業体験。
僕もこれでいて、自分で陶芸窯を作って熱中してたくらいなので、鉄の歴史の話だけでなく、たたらの構造や手順などにも興味深々なのです。
ほんとは自分もやってみたい気持ちでいっぱいながら、連休のとれるはずもなく断念。ああ、無念...。

ちなみに、このNPOでは、いろいろなたたら体験企画を開催している模様。
なかでも、親子を対象にした「こどもたたら教室」では、およそ半年間かけて、砂鉄とりや炭焼きの体験のほか、新日鉄の工場や刀剣つくりの見学まである。
鉄が出来上がる工程を、最初から最後まで実体験として経験させ、鉄の変わりゆく現場も見せるなんて、なんてすばらしいんでしょう。
たぶん、子供たち以上に目を輝かせているお父さんでいっぱいでしょう。ああ、うらやましいこと、この上なし!


シンポジウムが終わる頃は、もうすぐ閉館時間間近。
外にでて見上げると、濃紺と漆黒のグラデーションの空が広がっていた。
冷え込んできた空気のなか、人工の照明の明るさと、樹木の闇のコントラストが綺麗で、駅までの帰り道はとても心地よかったのでした。












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