栗太郎のブログ

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「海炭市叙景」 佐藤泰志

2019-08-03 18:18:54 | 見聞記 栃木編

「そこのみにて光り輝く」「黄金の服」等の佐藤泰志。自死したのちに評価されるのも皮肉なものだが、むしろそんな人生を選んでしまった繊細さゆえの作品の気高さかとも思ってみる。
架空の町、海炭市。そこに住む人々の暮らしを丁寧にあぶる。モデルはまぎれもない函館市だが、廃鉱やらもう少し肉付けをされていた。寂れていく旧市街と、無機質さを覚える郊外の開発地の対比が、時間や貧困や親子の対比と妙にシンクロしている。重松清のような「ある時から坂道を転げ落ちだす」ヒリヒリ感はないので気持ちは高ぶらないが、出てくる人物描写のひっ迫感のせいで、気分は逆に落とされていってしまう。
この物語のなかにでてくる市民は、からみ合うような出会いはない。ただ同じエレベーターに乗り合わせたような、同じ町に住んでいるだけの関係だ。これが結末か?という物足りなさの訳は、結局作家自身の自死のために作品が未完であったと知り、納得はした。作者は、ここに出てきたごくありふれた市民たちの人生を、この先どのように折り重ねていこうとしたのだろうか。もしかしたら、もっと多くの人物をさらに登場させて、なにも絡まず、通り抜けていくだけのつもりだったのだろうか。目の前のトルソーを眺めながら、マネキンのポーズをあれこれと想像してみる気分である。

満足度(10点満点) 6★★★★★★

海炭市叙景 (小学館文庫)
佐藤 泰志
小学館


そのあと、映画を観る。
たしかに小説の世界であった。が、作者が未完で閉じてしまった物語を、もう少し積み立ててくれたらよかったのにと思う。情報なしに観た人間には、ただの寂れゆく地方都市の悲哀でしかない。ジム・オルークの音楽は、いい。

満足度 4★★★★

海炭市叙景 (通常版) [DVD]
加瀬亮,谷村美月,竹原ピストル,小林薫,南果歩
ブロードウェイ






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