栗太郎のブログ

一人気ままな見聞記と、
手づくりのクラフト&スイーツ、
読書をしたら思いのままに感想文。

「斬」 綱淵謙錠

2019-10-31 00:16:51 | レヴュー 読書感想文
江戸時代から明治にかけて、刑場において「首切り」を専門に行ってきた山田浅右衛門の物語。当主の名は代々受け継がれ、幕末は7代目を吉利、その跡を長男吉豊が8代、三男の吉亮(よしふさ)が9代を継ぎ、明治の代となる。明治12年の高橋お伝の処刑をもって、200年続いたその家業を廃した。(ただし、この小説の中では明治14年の処刑をもって最後としてある) 家職小説仕立ての進行でありながら、関係する事件の詳細を記 . . . 本文を読む

「火口のふたり」白石一文

2019-09-02 03:29:14 | レヴュー 読書感想文
先に読んでみた原作小説は、舞台が九州で、映画と同じように焼け没栗に火の付いたいとこ同士の濃厚セックスの世界。東日本大震災を他人事に描いているのは不満だったが、富士山を女性に例え、セックスに没入してしく男女をそれに重ねる表現は上手いなあと思った。映画は、瀧内公美の自然体は魅力的だけど、ただ禁断のセックスに溺れるふたりなだけだった。せっかく震災の現場である東北に舞台を代えたのに、そのアドバンテージを活 . . . 本文を読む

「渦」 大島真寿美

2019-08-03 17:48:12 | レヴュー 読書感想文
5月、国立劇場での文楽「妹背山婦女庭訓」鑑賞に合わせて読みだしたこの本。先日、直木賞にも選ばれている。「妹背山」の作者近松半二の人生をたどる物語。半二の人形浄瑠璃にかける思いはもちろん、当時の上方の演芸事情も垣間見れて興味は尽きない。文楽好きには必読。しかし、心なしか爽快感や達成感がない。何とか漕ぎつけた、という印象が強い。だから、直木賞と聞いたとき、ちょっと意外だった。題材の新鮮さはあるが、これ . . . 本文を読む

「夫のちんぽがはいらない」 こだま

2019-08-03 17:14:14 | レヴュー 読書感想文
あとがきを読みながら、目には涙が溜まっていた。タイトルを見ればただのエロコメディのようだが、この夫婦にとっては大真面目。笑いの要素は一切ない。卑猥な感情も膨らんでこない。ただ、ただ、この二人の人に言えない20年来の悩みに寄り添ってあげることしかできない切なさしかない。どこが人と違うのか悩み、足掻き、壊れ、さまよい、そして長い時間をかけてようやく解放されて。どん底を経験したからこその力の抜けた文章は . . . 本文を読む

「君の膵臓をたべたい」 住野よる

2017-08-09 01:28:25 | レヴュー 読書感想文
膵臓を患い、余命いくばくもない高校生、桜良。偶然にも彼女の秘密を知ってしまった【地味なクラスメイト】君。君の名はなんて言うの?と思いながら、【秘密を知っているクラスメイト】君、【大人しい生徒】君、、、いくらクラスで存在感がないからとは言え、ずいぶんとつれない呼ばれ方をするものだと思った。そんな彼は、自らを「草舟」と卑下する。それくらいに自分が好きではないのだ。読みながら、この【  】内の名前が何を . . . 本文を読む

「忍びの国」 和田竜

2017-07-24 21:57:45 | レヴュー 読書感想文
戦国時代、破竹の勢いの織田信長に抵抗した、伊賀の国。ただしこの国、治めているのは武士ではなく忍び。日本全国を見渡せば、たしかに全てが武士の支配下だったわけではなく、蓮如率いる一向宗が支配した大坂もあれば、比叡山や高野山などは自治領みたいなもの。ただ、忍びが支配していたのは伊賀だけだった。百地家をはじめとした十二家評定衆の合議で運営されていた伊賀の国。領土を奪い勢力拡大することが常だった戦国時代にお . . . 本文を読む

「愚行録」 貫井徳郎

2017-03-01 22:56:03 | レヴュー 読書感想文
人は、こころに悪魔を飼っている。いやむしろ、人間自体もともと悪魔なのであって、犯罪者と健全な一般人の違いなんて、なにかのきっかけでその本性が現れるかどうかじゃないかと思う。それを自覚しているのならむしろまだ救いがある。ほとんどの人間は、その自意識がないままに悪魔の本性が顔を出している。それを知るのは、近くで観察している他人だけだ。まさにジョハリの窓だ。・・観終えて、まるで、そう誰かが語りかけてくよ . . . 本文を読む

「沈黙」 遠藤周作

2017-02-22 17:56:46 | レヴュー 読書感想文
鎖国政策により、キリスト教を禁止した江戸時代。徳川幕府は、キリスト教を危険思想と決め、根絶やしにしようと血眼だった。隠れキリシタンの詮議は厳しく、信仰を捨てない者たちへの残忍な拷問は絶えなかった。日本に残っていた神父たちもことごとく極刑に憂き目にあった。それをキリスト教にとっての受難とみる視点は間違いではないし、現代においてはなおさら、他人によって信仰の妨げを受けることはあってはならない。しかし当 . . . 本文を読む

「赤めだか」 立川談春

2017-01-27 19:07:27 | レヴュー 読書感想文
これは、立川談春が談志に弟子入りしてからの前座時代の修業話。「修業とは矛盾に耐えることだ」の言葉通り、矛盾だらけの日々。師弟関係とは恋愛にたとえるのが一番わかりやすい。惚れていれば、無理難題を言われたって叶えてやろうと一生懸命だ。しかし、読んでるこっちは笑って済む理不尽も、当然、当の本人たちの中には耐えきれないものも出てくる。好きで入った世界でも、才能がなければやめていくしかない。談志とは、はるか . . . 本文を読む

「円朝」(上下巻) 小島政二郎

2017-01-20 02:53:27 | レヴュー 読書感想文
僕にとって、落語の入り口は柳家三三だった。三三と書いて、さんざと呼ぶ。その三三の高座が、初めて生で噺を聴いた落語で、それもほんの2年ちょっと前のこと。それから、暇があるとようつべで落語を聴くようになり、そのあとにハマったのが柳家喬太郎だった。すでに両人の落語は数回ずつ観に行っているが、その二人が揃った二人会が年末に鎌倉であった。しかも休みの土曜日、行かないわけがない。その会のタイトルは「三遊亭円朝 . . . 本文を読む

「鏨師」 平岩弓枝

2016-11-04 21:43:47 | レヴュー 読書感想文
最近、やたら落語にハマっている。当然、江戸という土地に根ざした文化にも興味が沸いてきている。どこかのレビューかなにかで気になって買っておいたのだろう、積読の山の中腹に隠れていたこの本『鏨師』が目についた。柳家喬太郎の二人会とさん喬一門会のハシゴで(つまり、一日に喬太郎の噺だけでも四席となる)一日を過ごそうとしていた日、これはうってつけだと移動の供に。ただ残念ながら、読んでみると時代が昭和だったりし . . . 本文を読む

「永い言い訳」 西川美和

2016-10-29 14:54:56 | レヴュー 読書感想文
「人は、自分のかわりに恥をかいてくれる人を求めている。」公開初日、新宿の映画館の舞台挨拶でそう言ったのは西川美和監督だった。この映画で、その惨めで哀れな男、衣笠幸夫の役をやってのけた本木雅弘にさらに、「そんな恥ずかしい役を観ると、人はなぜか蔑むどころか、好意的な印象を持つのだ。ぜひこれからも、恥の十字架を背負って丘を上って欲しい。」と、苦笑いを浮かべるしかない本木にむかって賛辞とエールを送っていた . . . 本文を読む

「淵に立つ」 深田晃司 

2016-10-21 23:28:18 | レヴュー 読書感想文
射るような視線で、浅野忠信が天日干ししたシーツの影からこちらをうかがう。ネットでたまたま見かけたそのショットを見てドキリとした。それは映画のワンシーンで、タイトルは『淵に立つ』。監督は深田晃司。監督本人の書いた小説が出ていた。帯には、 <郊外で小さな金属加工工場を営む利雄は、妻の章江と娘の蛍の三人家族。  夫婦の間に会話はほとんどないが、平穏な時間が流れていた。  ある日、利雄の旧い知人で八坂とい . . . 本文を読む

「怒り」(上下巻) 吉田修一

2016-10-15 09:50:15 | レヴュー 読書感想文
千葉、東京、沖縄。三つの場所に現れた、素性を隠して現れた三人の男と、その男に関わりをもった、幸せに慣れていない人たち。言い換えれば、自分は幸せになんてなれやしないと懐疑的な人生を送ってきた人たち。みな、どこか隙がある。それは、弱みがあるのと同じだ。槙は、娘のゆるさ(はっきり言えば軽い発達障害)をずっと負い目に感じていたし、優馬は自分がゲイであることに虚勢を張っていたし、泉は離島にやってきたいきさつ . . . 本文を読む

「黄金の服」 佐藤泰志

2016-09-19 13:55:35 | レヴュー 読書感想文
佐藤泰志は、なぜ自死したのだろう。時代の閉塞感に押しつぶされて、自分に負けたのだろうか。いや、まだ彼が生きたのはバブルの頃であったろうから、やや退廃的な彼の作風が時代にあわなかったのかもしれない。そして、わずかでも持っていたであろう希望が、それは小説を書くことだろうが、評価を受けず、野に埋もれ、矜持もしおれ果ててしまったのか。なのに、本人のあずかり知らぬところで、今更こうして作品だけが疼くようにこ . . . 本文を読む